フラグ回収RTA


 今日もこのクソッタレな街は平和だ。


 大通りでは多くの人々が闊歩し、つい二週間ほど前に起きたCH(中国)の大規模工事の事など忘れてしまっている。


 そして、陽の当たる大通りから目を背ければ娼婦フッカーヤク中ジャンキー殺人鬼キラーならず者達ギャングが今日の稼ぎを求めて客を引き、一般人を脅し、ヘマをしたヤツを殺す。


 そんな世紀末な街であろうとも、歴史上最悪のテロリストの称号を不本意にも獲得してしまった俺にとっては別天地。


 白昼堂々と指名手配犯が大通りを歩いていようが、誰も気にも止めない。


 それがこの街なのだ。


「グレイちゃん、今日は何を買いに行くの?つい最近嫁さんに殺されかけたリーバットのピザ?それとも普通にそこら辺の世界から認められたジャンクフードでも食べる?」

「リーバット、いったい何をやらかしたんだよ。あのオッサン、この街じゃ割と良識人だっただろ?武器の横流しバイヤーが本業だけど」


 リーバットは、この街で軍や警察から仕入れた武器を売りさばく“闇市ブラックマーケット”の住人だ。俺がよく使うグレネードはあのオッサンから仕入れている。


 なんでも趣味でピザ屋を営んでいるらしく、俺達も何度か彼のピザを食べたことがある。


 ピザを多くの人に食って欲しいと言う理由から、値段もかなり安い。


 が、味は正直微妙だ。値段の割には美味いが、大手チェーン店には遠く及ばない。


 買い物をするグレネードを買う用事が無ければ、普通にチェーン店のピザを食べるね。


 まぁ、三枚舌イギリス出身にしては、マシなんじゃないか?


「なんでも、嫁さんのお気に入りの香水を誤って割っちゃったんだって。お陰で嫁さんはチャカを振り回して、さぁ大変。ケツの穴が増える前に何とかしたけど、お小遣いの半分は持っていかれたらしいよ」

「この裏社会に生きる奴に嫁ぐやつは一味違うな。アル・カポネがこの街に来たら驚くだろうぜ。何せ、この街じゃ一般人の懐すらも膨らんでやがる。あの大悪党どもが住まうシカゴすら田舎者ヒルビリーと言われて笑われるほどだ」

「道をそれれば死体の山が築かれ、少し寄り道をすれば私達もその山を積み上げる手伝いをする羽目になる。CHのスラム街でももう少しマシな光景が見られますよ、主人マスター

「全くだ。だが、そんな街の中にも教会が建っている。神の救いなんざこの街にありゃしないのにな。なんなら、神に変わってメキシコ人タコス共に審判を下そうとしてるんだぜ?世も末だよ。天使のラッパを人間テメェが吹いてどうする」


 ついのこの前CHの犬共をこの街から駆除したというのに、次はMEX(メキシコ)の麻薬カルテルが入ってきやがった。


 人の入れ替わりが激しい街ではあるが、こんなにも毎回荒れ事が起こってたらこっちの身が持たねぇよ。


 まだこの世界に来て四ヶ月、この街に来て三ヶ月だと言うのに厨二病が治りきってないアホどもに絡まれた数は両手両足ですら足りない程。


 大きな事件としてはダンジョン抗争にCHの犬狩りだが、そのどちらにも俺も巻き込まれてしまっている。


 本当に付いてねぇ。この悪運は神の御加護なのか、それとも神に見放されたがための神罰なのか。


 俺は深くため息をつくと、首を2回横に振った。


「リーバットの店はやめておこう。今日はあの不味い飯を食う気分じゃない」

「それもそうだね。なら、どこに行く?」

「リィズは何が食べたい?リィズが食べたいものを食べに行こう。ただし、お持ち帰りができるところでな」

「んー、なら─────」


 と、リィズが何かを言いかけたその時、パリンと窓ガラスが割れる音が大通りに繋がる道から聞こえてくる。


 俺達がその音に反応しチラリを視線を向けると、長めの赤毛を揺らしながら大通りに向かって走ってくる少女が居た。


 そして、その窓の奥からはその少女を追っているであろう男が3人。


 あぁ、目を向けなければよかった。まず間違いなくクソみたいな厄介事トラブルだ。


 聞きなれた銃声ならともかく、窓ガラス割れる音なんて滅多に聞かないからな。思わず視線を向けてしまったぜ。


 ココ最近、俺はこういう状況になると大体今後のとこを察せられる。きっとアイツらは麻薬カルテルの連中で、俺達は望みもしないのに巻き込まれるんだろうな。


「逃がすな!!両手と脳みそが動きゃあとはどうだっていい!!足をぶっ飛ばしちまえ!!」

クソッタレがSo fuck!!態々遠回りしてきたのに、ここで見つかるなんてツいてない!!」


 その道の先が大通りだと理解していないのか、少女に向かって実銃を乱射し始める男達。


 少女は上手くその弾丸に当たらないように回避運動を取りながら、大通りへと走っていく。


 そして、男たちの放った弾丸は当たり前だが道の前にいた俺達にまで飛んできた。


 ガキン!!と、銃弾がなにかに遮られる音。


 銃弾が俺に当たると判断したレミヤが、いつの間にか俺の前に立ち青いシールドを張っていた。


 WOW、SF映画でしか見た事がないエネルギー障壁だ。凄いな。この世界は。


「この状況でも眉一つ動かさないとは、流石は主人マスターです。私が守ると信じてくれていたのですか?」

「普通に反応出来なかっただけだ。で、今にも両足をぶっ飛ばされそうな少女の逃走劇に巻き込まれた訳だがどうする?」


 正直に反応できなかったと話す俺と、男達から目を離さないレミヤ。


 取り敢えず生け捕りにして話を聞くかと思ったその瞬間、隣で物凄い殺気を感じた。


 やべ、ウチの狂犬ヘルハウンドちゃんが沸騰したヤカンのように全身から煙を出しているわ。


 これ、下手すると裏路地が吹っ飛ぶぞ。


「グレイちゃんに手ぇ出しやがって........!!ぶち殺す!!」

「リィズ、殺すな生かして情報を吐かせるから。少女には手を出すなよ。俺達は子供思いの平和主義者パシフィストだ。いたいけな少女からは俺から話を聞いておく」

「分かった........」


 刹那、リィズの姿は掻き消え大通りに向かって銃を乱射していた男達の手足が吹き飛ばされる。


 速すぎて何が起きたのか分からないが、おそらくリィズが手足を強引に引きちぎったのだろう。


 あのドラゴンですら、拳1つで殺すリィズの事だ。人間の手足を千切る事は、そこら辺の人形の手足を引きちぎるのとそう変わりは無い。


「........へ?」

「寝てろカス共が」


 そして、男達が自分の手足が無くなったと気づく前に気絶させる。


 相変わらず容赦の無いやり方だねぇ。見慣れすぎてなんとも思わない自分にもちょっとウンザリするが。


「やはり、リーズヘルト先輩は馬鹿げた強さを持っていますね。ここから男たちの場所まで約100m程。その距離を僅か1秒足らずで走破するとか、オリンピックに出て金メダルを総ナメできますよ」

「その前に魔物を体に入れられてるから、薬物使用ドーピングで一発アウトだよ。あんな加減の知らない狼を、公式のリングに立たせてみろ。一撃で相手の顔面が吹き飛ぶぞ」

「ボクシングの話ですか?確かにリーズヘルト先輩なら、スポーツとして安全性を確かにした競技ですら人を殺せるでしょうね」


 冷静にリィズの力を分析するレミヤ。


 俺は“お前も大概だけどな”と思いつつ、目の前で何が起こったのか分からずに立ち尽くす少女に声をかける。


「こんちにはお嬢さんレディー。少々お話を伺いたいのだが、お時間の程はよろしいかな?」

「........断ったら?」

「この状況を見て断れるだけの勇気があるなら、言ってみるといい。俺はともかく、君の後ろで男共を手足のない豚にした狂犬ヘルハウンドが何をしでかすのかは保証できないけどね」


 こんな女の子相手に、ガッツリ脅しをかけるとはなんと情けない事か。


 しかし、こちらも事情を聞かずに“はい、さよなら”という訳には行かない。


 俺の予想では、麻薬カルテルと何かしらの繋がりがあるはずだ。


 何故かって?


 つい15分ほど前にジルハードが麻薬カルテルの話題を出し、その直後にこの騒ぎ。


 俺の経験が言っている。これはフラグ回収してると。


 俺はフラグ回収RTAを走っている覚えは無いんだけどな。誰だよ、フラグはへし折ってなんぼとか言うやつは。


 へし折るどころか、向こうから爆速で近づいてきやがるぞ。


 少女もこうなる事は薄々察していたのだろう。しばらく沈黙を続けた後、静かに頷いくのだった。


「助かるよ。俺は目の前で子供に死なれるのが嫌いなんだ」

「目の前の光景を作り出したやつが何を言う。私はお前のような大人が嫌いだ」

「ハハハ!!俺もだよ」


 俺はそう言いながら笑うと、少女とリィズが捕まえた(半殺しにした)男どもを引き連れて人気のない場所に消えるのだった。


 一応、ジルハード達も呼んでおくか。面倒事になった時の保険として。




【アル・カポネ】

 アメリカ合衆国のギャング。禁酒法時代のシカゴで、高級ホテルを根城に酒の密造・販売・売春業・賭博業の犯罪組織を運営し、機関銃を使った機銃掃射まがいの抗争で多くの死者を出したことでも知られている。一方で、黒人やユダヤ人を差別しなかったことも伝えられている。頬に傷跡があったことで「スカーフェイス」という通り名があった。




 この街には、人気のない場所などごまんとある。


 街中を観光気分でぶらつくだけで、人気のない場所が見つかるのだからお話拷問する場所には困らない。


 欠片も有難くない話ではあるが、実際にこうしてお話する機会は多いので何かとお世話になってしまっているのが現状だ。


 今度、事務所に地下でも作ってもらおうかな。広い地下室なら運動できるし、リィズとの戦闘訓練にも使える。


 金の問題はドラゴンを売りさばいた金で解決出来てるし、意外とありかもしれん。


 そんなことを思いながら俺はまず出血死しないようにレミヤに傷口を焼かせ、簡単な治療を施す。


 流石にいたいけな少女の前で肉を焼く光景を見せる訳にも行かなかったので、少女と俺は外で処置が終わるまで待っていた。


 そして、その間少女と会話をする。


「お名前は?」

「アリカ・シュトラトスだ」

「見た感じこの街には居なさそうなタイプだよな?少なくとも、この街に流れてくるようには見えない。まさか、観光でも?」

「観光のついでにあの連中に追われるなら、大した才能を持っているね。まぁ、色々とあってここに流れてきた」


 なるほど。言いたく無いという事か。


 人は誰しも知られたくない過去というのがある。俺も然りリィズ然り。


 こういう話には立ち入るべからず。人の地雷を踏んで自分の足が吹っ飛ぶ様を楽しむようなイカれた趣味は、俺には無い。


「ちなみに、失礼だが年齢は?見た目通りなのか、実は魔女のように雑草とヒキガエルを鍋でこねくり回して、その姿でいるのか」

「仮にも女性にそんなことを聞くとは、随分とマナーがなってないね。GBR(イギリス)で紳士のマナー講座でも履修した方がいいよ」

「だから“失礼だが”と言っているのさ。嫌なら言わなくていい。少し気になった程度だからね」

「いや、別に嫌という訳じゃないよ。私は見た目通りの年齢さ。11歳だからね」


 11........歳?


 いや、ね。身長も声も顔も少女だし、嘘をついているような声色では無いので間違いなく11歳なのだろう。


 しかし、リィズどころかレミヤよりも大きいその胸は、どう見ても11歳のものでは無かった。


 思わず視線が下に向いてしまいそうになるが、俺は鋼の意思で我慢する。


 イカサマをよくやるから分かるが、相手の視線というのは案外見ている側からすれば分かりやすいものだ。


 というか、11歳の女の子が一体何をやらかしてあんな怖いおじさん達に追われてたんだよ。


 しかも、あいつらの顔は明らかにメキシコ系の顔。


 確証はないが、麻薬カルテルの連中だと俺は推測している。


「で、何をやらかしたんだ?あの怖いおじさん達に足をぶっ飛ばされそうになるなんて、余程のことが無ければ騒ぎにならないと思うけど」

「私はこの街に2人で来たんだが、1人が探し物をしているらしくてね。少し別行動をしていたんだ。その間、観光気分で街を見ていたのだが........あいにくここの人々は手癖が悪いらしい。気づいたら財布をスられて金を失ったよ」


 あぁ、俺もこの街に来た当初はよくスられたな。


 今はスーちゃんが財布を守ってくれているが、最初の頃は財布をスられた後にリィズが相手を半殺しにして相手の金ごと回収していたよ。


 今思えば、わざとやっていたのかもしれん。


「それで、金に困った私はちょいと薬を売ったんだ。そしたら、麻薬カルテルの連中に見つかってね。規定数の薬を作る代わりに、金をくれる契約をした」

「あー、読めたぞ。金の成る木を逃したくは無いもんな」


 要は、奴らは契約を守らなかったというわけだ。監禁でもされかけて、アリカは逃げ出し、俺達に助けられたと。


「まぁ、ご想像の通りだ。全く、だから大人は信用ができない。ま、先払いさせなかった私にも責任はあるけどね」


 うんうん。そうだね。


 先払いさせなかったアリカにも問題はあるけど、それよりも重要な事がある。


 って事は、あいつらMEXの麻薬カルテルじゃん。速攻でフラグ回収してるじゃん。


 まーたタイム更新しちゃったよ。


 俺はそう現実逃避しながら、この後カルテルと揉めるんだろうなとため息を着くのだった。







グレイ「完走した感想ですが、クソです。死ねよフラグ」

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