ヤク抗争
薬物教会
無事にドラゴンがボスを務めていたダンジョンを攻略してから四日後。
俺達は、事務所でのんべんだらりとしていた。
流石にドラゴンにケツをローストされかけたというのに、“またダンジョンに潜るぞ!!”とは直ぐに思い立てない。
暫くはダンジョンに潜りたくないなと思いつつも、あまり長い事ダンジョンに潜らないと神からの怒りを買いそうで怖い。
上手くそこら辺の見極めをしなくては思う反面、既に神からの裁きは下されてるんじゃないかなと思う。
具体的にはこの世界に来て三日目辺りで。
だって異世界生活がスタートしたと思った瞬間、テロリスト扱いされて世界中から命を狙われる指名手配犯よ?
そりゃ、神様のクソ有難いご加護があるのでは無いかと疑ってしまっても無理はないさ。
あぁ、
追放モノの主人公だってもう少しまともな理由で国を追われるさ。
........いや、割と適当な理由だった気もするな。
そんなことを思いながら、俺は今日も集まっている仲間達に目を向ける。
「ちょ、誰か粉塵使ってくれ!!このままだと死ぬ!!」
「うるせぇよ
「そうですね。頑張ってモンスターのヘイトを買ってください。そしたら、その間に私達がタコ殴りにしますので。骨ぐらいは拾ってあげますよ」
「あー、ジルハードさん。すいません、粉塵持ってくるの忘れました」
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
どうやら、ジルハードが乙ったようだ。
相変わらずジルハードはゲームが下手だな。俺達の中では割とやり込んでいる方らしいが、努力した時間が報われるとは限らない。
悲しきかなジルハード。皆に見捨てられるとは。
俺の能力で具現化したゲーム機を使い、4人で仲良く狩りをしている様子は少しだけ和む。
クソみたいなこのグダニスクの街でも、多少はこうして楽しめる環境があるだけ俺は嬉しいよ。
さらに望みを言うなら、俺の懸賞金を取り下げて白昼堂々と街を歩けるようにしてくれ。
(ポヨン)
「ナー」
「慰めてくれてるのか?お前らは優しいな。スーちゃんとナーちゃんだけだよ。俺の癒しとなってくれるのは」
俺はそう言いつつ、チェスの駒を動かす。
今は、俺とスーちゃんの日課であるチェスの対決をしていた。
スライムの変異種(リィズとレミヤ曰く)であるスーちゃんの知能はものすごく高い。
ドラゴンにケツを追われている時も、名前を呼ぶだけで俺のやりたいことを察して行動してくれるのを見れば分かるだろう。
スーちゃんが居なければ、俺は今頃ドラゴンの胃の中に収まった後でリィズにバラバラの死体を回収されるところである。
(ポヨン........ポヨン?)
「ナー?ナー」
俺の打った手に対して、スーちゃんは二度震えると、隣にいるナーちゃんに視線を向けた。
ナーちゃんもナーちゃんでかなり賢い。今は、こうして2人で次の手を考えながらチェスを打つことが多くなっていた。
「あー、ボス。ちょっといいか?」
「どうしたジルハード。自分のゲームの下手さに絶望したのか?安心しろ、世の中完璧な人間なんて存在しない。イエス・キリストにだって何かしらの欠点はあるものさ。神を捏造するとかな」
「いや、慰めが欲しい訳じゃなくて報告だ。ガレイストからボスへの伝言を頼まれててな」
それ、事務所に来て一番に言うことじゃないんですかね?
俺達は基本、自分の家で夜は過ごし昼辺りにこの事務所に集まる。
俺とリィズ、そして魔物であるスーちゃんナーちゃんは事務所が家だが、残りの3人はアパートやら家を持っているのだ。
ジルハードとレイズはアパート。レミヤは俺たちの事務所の近くに一軒家を借りている。
この街では余所者が家を借りるのも結構な苦労がいるのだが、一体どうやって数日で家を借りたのやら。
まぁ、多分俺の名前を出したんだろうが。
不動産屋としても、この街で俺たちを敵に回すとヤバいと理解しているのだろう。
どこかで俺たちの名前を使って悪さしているやつも居そうだな。耳に入ったら、見せしめとして両手両足ぐらいは削ぎ落とすか。
そんなことを思いつつ、俺はジルハードに“報告を続けろ”と言ってチェスのコマを動かす。
後、二手でチェックメイトになるぞー。いいのかー?
「何でも最近、この街でMEX(メキシコ)の麻薬カルテルが薬を売っているらしい。この街の薬物事情を牛耳る教会としては、耳の痛い話だな」
「MEX?おい、レイズ、お前の
MEX(メキシコ)の名前を聞き、嫌な予感を覚える俺。
新たに仲間となったレイズは元MEXの軍人であり、諜報機関に属していた奴だ。
その能力上、レイズはかなり多くの機密情報を知っている。
木偶情報屋への手土産として、幾つか聞き出してみたがどれもヤベー内容の話ばかりであった。
政治思想犯のテロ計画や、政治家の汚職はもちろん。MEXが他国に対して侵略戦争の準備を始めているという情報まで。
取り敢えず木偶情報屋に全部丸投げしておいたが、彼には国から追われる理由がしっかりとある。
そんな中で“MEXの麻薬カルテル”の話が出てくれば、レイズの
俺の問いかけに対し、クエストが終わったのか画面から目を離して俺に顔を向けるレイズ。
彼は、首を横に振りながら答えた。
「生憎、麻薬カルテルに追われる理由がないっすね。そりゃ俺も軍人だったので、カルテルからは幾つか恨みを買っているでしょうが、そこまで酷くはないですし。どちらかと言えば、ボスが原因だと思うっすよ」
「は?俺?何もやってないんだが?」
「FR(フランス)を吹っ飛ばしたじゃないっすか。MEXの麻薬カルテルは大きくわけて三つの組織があるんすけど、その中の1つがFRに麻薬を流していたんですよね。かなり大きなお得意様だったらしいんですけど、この前のテロで消息不明に。おかげで、そのカルテルの力は今徐々に衰退していますよ」
「そりゃ運がないな。神への祈りを怠り、麻薬なんて売ってるからだ。で?」
「んで、新たな市場を探しにこの街へ来たんじゃないですかね。聞いた話ではこの街の教会はかなりの利益を麻薬で上げているようですし、その
Hey、
俺がそのクソッタレの麻薬カルテルを引き連れてきただって?冗談じゃない。
世界中に顔が知れ渡っている俺の事を、麻薬カルテルの連中が知らないわけが無い。
もし運悪く鉢合わせれば、仲良く
俺は軽く頭を抱えながらジルハードの話を続けさせる。
「で、なんだ?神の説法の代わりに麻薬を売る腐った聖職者共が、俺たちに始末でもお願いしに来たのか?」
「いや、そんなことをしたら教会のメンツが潰れる。あそこは、麻薬関連に対しては容赦しないのがウリだからな。もし、麻薬カルテルの連中を捕まえたりしたら、挨拶代わりに教会を訪れてくれってさ。ボス、アンタまだ教会に顔を出してねぇだろ?」
「そりゃ、血と麻薬に汚れた教会を訪れたいと思うか?俺は嫌だね」
「そう聞くと嫌だな」
この街にも、悲しいことに神の救いを宣うゴミにも劣る掃き溜めの連中がいる。
人呼んで、“麻薬教会”。
この街に麻薬をばら撒き、金を得るクソみたいな教会だ。
まだ武器を売りさばくどこぞの暴力教会の方が幾分がマシかもしれん........いや、あっちもあっちで麻薬を売ってたな。
この街の外れにある教会は、一つだけダンジョンを所有しておりそこを攻撃でもした日には異端者として魔女狩りを行いに来る。
教会の戦力はかなりのものであり、あの軍団ですら手を出そうとしなかったヤベー場所だ。
俺も正直関わりを持ちたくなかったが、何かと顔の広いジルハードが出入りするらしいのでいやでも接点ができてしまう。
あぁ、ヤダヤダ。なんでこの街は、神の救いを求める人相手に
そして、そんなやべぇ場所に顔なんざ出したいと思うやつが居るわけないだろ。自分達がなんと呼ばれているのかよく理解してから、お茶のお誘いはして欲しいものだね。
「後、麻薬の製造元が分からないらしい。本国から仕入れている動きがないらしくて、この街で作っている可能性が高いそうなんだが、素材の確保と製造方法、そして製造場所まで全てが夜闇に紛れている。もし、なにか情報があれば教えてくれだとよ」
「俺がそんなこと知っていると思うか?今日を生きるのに精一杯な哀れな子羊に縋り付くなと言っておけ」
「了解。ドラゴンの鱗に関しては感謝してたぜ。少々警戒していたがな」
「まぁ、数百万ゴールドもする素材をタダでポンと渡されたら警戒もしますよね。逆の立場ならしますし」
「だな。と、まぁ報告は以上だ。あとは上手くやってくれよボス」
何を上手くやるんだよ。俺はそう思いながら、チェックメイトをする。
スーちゃんとナーちゃんにもこの終わりは見ていたようで、ガックシと方を落としていた。
「さて、昼飯でも買いに行ってくるか。今日は俺が買ってきてやるよ。リィズ、レミヤ、行くぞ」
「はーい。ジルハードは取り敢えずソロで上位が全部クリアできるように頑張ってね。ちょっと下手すぎ」
「畏まりました
「ウチのマフィアは女の方が強いとか、泣けてくるな........」
「まぁ、戦力的にも俺たちの方が弱いっすからね。何も言えませんよ」
リィズとレミヤに割とマジめに“ゲームが下手”と言われて凹むジルハードと、それを慰める(慰めては無いけど)レイズ。
どうやらグレイファミリーは女の方が権力が強いらしい。
俺もリィズには逆らえないしなと思いながら、俺は二人&スーちゃんを引き連れて昼食を買いに行くのだった。
ところで、俺は最近学んだんだがこうやって話になった奴との遭遇率はかなり高い。
もしかしなくても、フラグが建ったりしちゃってます?
【MEXの麻薬カルテル】
この世界でもコカインやマリファナは麻薬の主流であり、MEXに限らず多くの国で麻薬を売る組織が存在している。その中でもカルテルは政府と癒着し、他国にまで多くの麻薬を売りさばいている。
グダニスクの街では、当たり前のように人が死ぬ。
大通りを少し逸れれば人の死体が転がる街の中で、今日も1人の死体が出来上がろうとしていた。
「はぁはぁはぁ........!!やっぱり大人は信用出来ない。規定数を作ったら金を入れる手筈だったのに、私を監禁しようとしやがって........!!」
揺れる赤い髪には泥が混じり、息を荒らげる少女は苦々しい表情を浮かべながら物陰に隠れる。
彼女はMEXの麻薬カルテルに麻薬を提供していた存在であった。
路銀に困り、仕方がなく麻薬を作ってこっそりと売り場いていたところ、最近この街にやってきたカルテルに“麻薬の製造”を依頼されたのである。
報酬はかなり多く、できる限り早めにこの街を離れたかった少女はこれを承諾。
しかし、規定数を作ったにも関わらず金は支払われず、挙句の果てには更に麻薬を作らせようと監禁までしようとしてくる始末。
「ローズの奴もここ1週間は用事があると言っていたし、タイミングが本当に悪いな。能力で何とかするにしても、人数も多いしやってやれない........」
少女には護衛が居る。
偶々旅の途中で出会ったのだが、彼女(?)はこの街での用事があると言って一旦別れてしまった。
その後スリにあい、金を紛失。そして、今に至るのである。
「見つけたか?」
「いや、見つからねぇ。あのガキ、見つけ出してぶち殺してやりたいぜ」
「辞めろ辞めろ。兄貴に殺されてぇのかお前は。あのガキは
「あ、そういえばそうだったな」
「だが、殺し以外は許されてる。五体満足ならなんでもいいらしいし、ちょいと
「へっへっへっ、そりゃいい。ガキを犯す機会なんてあまりないし、じっくり味わうのもいいかもな」
物陰に隠れながらも聞こえてくる会話。
それ聞いていた少女は、心の底から男たちを殺してやろうかと考える。
「クズ共が。二人だけなら殺れるか?いや、仲間を呼ばれたら厄介だな。やっぱりどこかに身を隠すべきなんだけど........この街に来たのが9日前だから頼れる人がいない」
少女は少し泣き出しそうになりながらも、カルテルに見つからないように静かに逃げ続けるのであった。
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