俺、無理ゲーに挑むってよ〜平行世界の地球があまりにもハードすぎる件〜

恨みを買わないのは平和だな

　ドラゴンにケツを追いかけ回されながらも、何とか五体満足で帰ってきた俺はその翌日、事務所でのんびりとタバコを吸っていた。

　いやー、実に平和的なダンジョン攻略であった。

　この世界に来てから四ヶ月。マルセイユの街に降り立ったその日から何かとどこかから恨みを買ったり、面倒事に巻き込まれたりしてきたが、今回はそこまで酷い有様ではない。

　ちょっとドラゴンに追いかけ回されただけである。

　ヨーロッパ諸国から狙われることもなく、ダンジョン抗争に巻き込まれることも無く、アジア諸国から狙われるなんてこともない。

　実に平和だ。

　今後の面倒事のことも考えれば、サクッと終わってくれたドラゴン君なんて恐るるに足らず。

　リィズがいれば、大抵の事は何とかなるものだな。

｢いやー平和だな｣

｢どこが平和なんですか。死体が毎日のように量産されるこの場所が平和なら、今頃世界平和は達成されてますよ。それに、一昨日はドラゴンにケツを焼かれかけたんですよ？命の危険を感じる平和なんて、クソ喰らえですよ｣

｢そうは言うがな。どこからの国家や組織にも恨みを買わず、ドラゴンを殺したから今後ケツもおわれる心配は無い。俺からしたら、実に平和だよ。厄介事が増えなくて｣

｢........ボス、一体貴方は何をしてきたんですか｣

　ダンジョン攻略が平和だと言う俺に呆れるレイズだが、俺だって好きでこんなところにいる訳では無い。

　むしろ俺も被害者だよ。運命の女神相手に裁判を起こしても勝てるぐらいには、可哀想な被害者である。

　なんで今もまだ俺は生きているのか分からないぐらいには、様々なことに巻き込まれ運良く生き延びてきた。

　リィズが居なければ、まず間違いなく死んでいただろうが。

｢それにしても、レイズも交渉が上手かったな。軍団にドラゴンを売りつけた時なんて、あのミスシュルカが苦い顔をしていたそうじゃないか｣

｢犯罪者との交渉も俺の仕事でしたからね。多少は出来るんですよ。と言うか、ここで活躍しないとリーズヘルトの姐さんにぶち殺されますよ｣

｢ハハハ。それもそうだな。俺もその為に雇ったんだし、交渉事はレイズに任せりゃいいわ。これで俺はタバコの煙を天高くまで飛ばせるよ｣

　ドラゴンを解体し、無事にダンジョンを攻略して帰ってきた俺達は、その日のうちにドラゴンの素材を軍団に売り込んだ。

　ドラゴンは金の成る木。

　誰もが欲しがる万能な素材ではあるのだが、俺達のような売るルートを持っていないマフィアからすれば処分に困る。

　下手にドラゴンの素材がバレて面倒事を抱え込む前に、さっさと手放して売り飛ばす方が都合が良かった。

　そんな訳で、ドラゴンの素材の大半を軍団に売り飛ばし、残った素材は自分達で消費するか世話になっている人にあげたのだ。

　具体的には情報屋のおばちゃんとこの街の薬物教会に。

　情報屋のおばちゃんは言わずもがな。様々なことで世話になっているから、多めに素材を提供。

　リィズと一緒に届けに行ったら、ものすごく喜ばれた。

　そして教会に関しては、世話にこそなってないが“これからも仲良くしましょう”という意味合いを込めてドラゴンの鱗を1枚くれてあげた。

　この街の教会は、この街の覇者では無いものの街の権力を握る勢力。

　未だに厄介事で忙しかったり、単純に面倒くさくて行く気がしなかったりで顔を合わせてないので、出会う前に好感度上げとこ作戦をしているのだ。

　冗談抜きにそろそろ行くか？でも、こちらから出向いたら出向いたで、グレイファミリーのメンツに関わる可能性もあるんだよなぁ........マフィア、クソ面倒。

｢ナー｣

　そんなマフィアのクソみたいなメンツ事情を話し鬱陶しく思っていると、俺の影の中からナーちゃんが出てくる。

　ドラゴンの出たダンジョンで、リィズに捕まえられて俺達の仲間になるしか選択肢の無かったナーちゃん。

　性別は分からないが、何となく女の子な感じがする。

｢ナーちゃんも大変だな。影の中から顔を出したら、あれよあれと言う間に面倒事に巻き込まれて。嫌だったら逃げてもいいんだぞ？｣

｢ナー？ナー｣

　ナーちゃんは少しだけ首を傾げた後、“ここがいいよ”と言わんばかりに甘い声で鳴きながら俺の膝の上に乗るとお腹に頬をスリスリしてくる。

　こう言う甘え方は、リィズに似ているな。

　リィズの体内には、この猫の一部が組み込まれているらしい。

　ある意味、ナーちゃんとリィズは姉妹と言うわけだ。

　昨日も仲良くしていたし、ナーちゃんは意外と上手くやっていけそうである。

｢そう言えば、捕らえた連中はどうなったんすかね？一応、拘束して手渡してきましたけど｣

｢さぁ？今頃豚にでも食われてんじゃねぇか？他の生き残りの場所を聞き出された後にな｣

｢うへぇ、その豚肉を俺らが食うんすよね？やだなぁ........滅茶苦茶気分悪くなりますよ｣

｢そんな事言ったら何も食えなくなるぜ？別に生の人肉を食う訳じゃないんだ。豚の栄養になっただけだよ｣

　ダンジョンで捕らえた3人は、帰りに立ち寄ってみたら運良く生きていた。

　いや、その後軍団による拷問を考えたら運悪くという方が正しいかもしれない。

　一応、軍団へと手土産として連れて帰り、後のことは軍団に任せた。

　それもあってか、ドラゴンは結構お高く買い取ってくれたらしいしな。

　俺はタバコの煙を上に向いて吐き出しつつ、大きくあくびをする。

　いやー、やっぱり平和が一番。日本生まれの俺は平和主義者なのである。

｢グレイちゃんただいまー!!今日は菜食主義者（ヴィーガン）共が顔を歪める肉だらけのお昼だよー!!｣

｢普通にケン〇ッキーって言えよ。どうしてお前は毎回変な言い回しをするんだ........｣

｢皮肉屋の誰かに似たのでしょうね。私達のボス（マスター）とか｣

｢おいおい、いつ俺が皮肉なんて言ったよ。俺ほど人の心を気遣って物事を言う奴も居ないんだぞ？｣

｢どの口が言ってんだか。あ、コラ待てスー。お前達の分も買ってきてるから、俺に体当をするな｣

　相変わらず食べ物になるとスーちゃんは行動力が高くなるな。

　俺はジルハードに突撃をかますスーちゃんを抱き抱えると、ナーちゃんも近くに呼んでソファーに座る。

｢んじゃ、昼にするか。昨日はできなかったし、ダンジョン攻略祝いもついでにやっちまおう｣

｢ジャンクフードで祝うって、華やかさがないな........｣

｢どうやらジルハードは昼飯が要らないらしい。その分スーちゃんが食っていいぞ｣

(ポヨン!!)

｢待て待て待て!!食わないとは言ってねぇ!!あ、コラ!!スー!!本当に食おうとするな!!また今度食い物買ってやるから!!｣

　こうして、今日も騒がしくクソッタレな一日は過ぎていく。

　俺は何気に、こんな日常が楽しくなっていた。

【レッドドラゴン】

　翼竜種ドラゴン科に属する魔物。炎のように真っ赤な鱗が特徴的であり、知能はそこまで高くないもののその肉体は軍用魔弾すらもはじき返す。第一次ダンジョン戦争の際に地上に出てきた時は、国が幾つも滅ぶ事態となり、ドラゴンは最強の魔物として人々に恐れられるようになった。

　しかし、その素材は一級品。血すらも素材になるので、一攫千金を夢見たハンターの犠牲が耐えない。心臓部ある魔石は“ドラゴンコア”とも呼ばれている。

　1.名無しの神

【朗報】グレイ君、今回はどこからも恨みを買わない。

　2.名無しの神

　>>1

　時報助かる

　3.名無しの神

　普通に生きてたらあんなにポンポン恨みを買わないんだよ。今回が普通なんだよ。

　グレイ君の場合、どこかしらから恨みを買うのがデフォルトになってるけど。

　4.名無しの神

　それはそう。まぁ、でもいつものグレイ君だったけどね。

　ドラゴンの居る部屋に飛ばされたりとか。

　5.名無しの神

　そもそも、デックギャングの生き残りが潜んでいるダンジョンをピンポイントで抜いている辺り、グレイ君は運がない。

　6.名無しの神

　>>5

　それな。今回は雑魚集団だったからグレイ君も活躍してたけど、普通に運がねぇ。

　7.名無しの神

　全員一瞬で捕まえるのは流石だったよ。やっぱり、グレイ君は言うほど弱くは無いのでは？

　8.名無しの神

　グレイ君は、平均まではサクッと成長できるらしいからね。四ヶ月間ほぼ毎日のように誰かと戦ってたから、成長は早いんでしょ。

　9.名無しの神

　逆に、それ以上の壁は越えられないんだよな。イカサマと手先の器用さ以外は。

　10.名無しの神

　新たに仲間にしたレイズ君とのイカサマ勝負は、凄かったね。親父さんに幼少期から仕込まれて来ただけはある。

　11.名無しの神

　数少ないグレイ君が輝いた場面。明らかにやり慣れてたよな。

　契約書を書かせてトランプから意識を外させ、その間に仕込む。相手の“自分の方が有利だ”ってい言う心理を利用して初手に勝負に持ち込ませる。

　初手オールインは、冷静さを失わさせる為のものなんだろうね。

　冷静に考えれば、カードを見ずに賭けてくる時点で怪しいけど、“自分が有利”って思い込むから乗っちゃう。

　12.名無しの神

　正直、今度はメキシコと揉めるのかって思ってた。

　13.名無しの神

　それな。いつものパターンなら、メキシコ軍人かその手先が潜り込んできてドンパチ始めると思ってた。

　14.名無しの神

　毎回そんなドンパチに巻き込まれてたまるか。俺も思ったけど。

　15.名無しの神

　ぶっちゃけみんな思ったでしょ。ジルハードが仲間になった時だけは厄介事も無かったけど、今回は明らかに問題抱えてたしな。

　16.名無しの神

　グレイ君、今回は運が良かった説。

　17.名無しの神

　ドラゴンにケツを追われてたのに、運が良かったのか........

　18.名無しの神

　運がいい(死ぬほど危険な目には会う)なんだよなぁ。あの世界で生きていける気がしない。

　19.名無しの神

　石ころ蹴ったら隠し部屋見つけるところは、流石グレイ君だよね。見てて笑っちゃった。

　20.名無しの神

　そりゃみんな流石グレイ君!!って言うよ。私も言ったもん。

　21.名無しの神

　>>20

　俺たちとリーズヘルトちゃん達では、明らかに意味合いが違うんだよなぁ。

　22.名無しの神

　リーズヘルトちゃん｢(隠し部屋を一瞬で見抜くなんて)流石グレイちゃん!!｣

　俺達｢(狙ってないのに毎回面倒事を引き寄せるとは)流石グレイ君!!｣

　23.名無しの神

　草。

　24.名無しの神

　草。

　25.名無しの神

　草。何も間違ってないけど。

　26.名無しの神

　ところで、ドラゴンってそんなにヤベーのか？グレイ君達は逃げまくってただけだったし、リーズヘルトちゃんたちが来た時は一撃で沈んだから強さがよく分からないんだけど。

　27.名無しの神

　Hey!!有能神、ドラゴンってどのぐらい強いの？

　28.名無しの有能神

　S〇riみたいに呼ぶな。で、ドラゴンについてだね？

　29.名無しの神

　本当に来てて草。もう尻神様だよ。

　30.名無しの神

　尻神様!!無知なる我々に知識をお授け下さい!!

　31.名無しの神

　尻神様!!

　32.名無しの神

　尻神様!!

　33.名無しの有能神

　お前ら後で覚えとけよ。家に行って殴るから。

　34.名無しの神

　尻神は草。で、ドラゴンはどのぐらい強いんだ？

　35.名無しの有能神

　グレイ君が遭遇した“レッドドラゴン”と呼ばれる個体は、過去に二度ほどダンジョンから出てきているらしいね。

　その時の被害は、死者数百万人。詳しい数は分かってないけど、最低でも国が1つ滅んでる。

　ハンター達の間では、レッドドラゴン討伐にはAランクハンターが6人以上必要らしくて、Sランクハンターでも相性によっては負けるらしいよ。

　36.名無しの神

　そんなヤベー奴相手にグレイ君は逃げ延びたのか........アレ？グレイ君強くね？

　37.名無しの神

　ボウリング玉を頭に落としても1ダメも入らなかったけど、逃げるだけなら1人前なんだろうね。

　38.名無しの神

　圧倒的火力不足のグレイ君。でも、最初のドラゴンブレスをやり過ごしたどころか、2回目からは完全にドラゴンブレスを封殺してたんだよな。

　39.名無しの神

　観察眼に優れているんだろうね。そして、頭の回転も早い。

　大きく息を吸った瞬間に水を飲ませれば、無力化できるんじゃね？ってあの状況で思いつけるあたり、すごく冷静だよ。

　40.名無しの有能神

　でも火力は無い。逃げと補助特化のサポートだよ。

　マフィアのボスとして腕っ節がないのはどうなんだって話だけど。

　41.名無しの神

　そもそもグレイ君は望まずしてマフィアになった定期。それにほら、力だけじゃボスは務まらないから。

　42.名無しの神

　そう考えるとリーズヘルトちゃんはやべぇな。軍用魔弾すら弾くドラゴンを、グーパン1つで頭ごと吹き飛ばすんだから。

　43.名無しの神

　>>42

　確かにやべぇ。強すぎやろ、リーズヘルトちゃん。

　44.名無しの神

　元改造人間の成功例。グレイファミリーの最高戦力は伊達じゃないって事だね。

　45.名無しの神

　その点新入りのレイズくんは........まぁ、足を引っ張ってたな。

　46.名無しの神

　そもそも一国家すらも消し飛ばせる相手から逃げられるボスと、殴り殺せる狂犬がおかしいだけ。レイズ君はきっと、グレイファミリーの常人枠なんだよ。

　47.名無しの神

　常人(元軍人であり上司の頭を弾いた奴)

　48.名無しの神

　>>47

　ま、まぁ、この街では割と普通の経歴だから........

　49.名無しの神

　人殺しが普通の経歴とか、終わってんなこの街。知ってたけど。

　50.名無しの神

　ドラゴンブレスを力技で凌ぐのはかっこよかったな。具現化速度が、水が沸騰するよりも早いなんてグレイ君の能力は割とすごい。

　51.名無しの有能神

　あの状況で即生き残れる可能性が高い手段を取りつつ、素早く実行できる能力と、瞬きをするよりも早く物が具現化できる能力が噛み合ってるね。

　あと火力........火力さえ1人でも出せるようになれば........

　52.名無しの神

　>>51

　無理だな

　53.名無しの神

　>>51

　無理だね

　54.名無しの神

　>>51

　無理

　55名無しの神

　>>51

　無理です

　56.名無しの神

　多分一生グレイ君は火力ネタを擦り続けられるんだろうなぁ........

　この章はコレにてお終い。感想ありがとうございます。今回はグレイ君も平和でしたね‼︎（ドラゴンにケツをローストされかけてた）

　次は一体何処と揉めるのやら.......