ドラゴンvs玩具(疑惑)
デックギャングの生き残りたちと戦っていた最中、俺とレイズはダンジョントラップに引っかかってこのクソッタレのドラゴンが住まう場所へと飛ばされてしまったらしい。
やり合わずとも分かる圧倒的強者としての圧は、俺が以前であったあの赤いオーガよりも大きく重たい。
紅蓮の炎を連想させる真っ赤な鱗に覆われたその体からは溢れんばかりのエネルギーを感じ、この場にいる俺達を震え上がらせるには十分であった。
ねぇ、ドラゴン出てくるの早過ぎない?君一応、ラスボス格の魔物よ?
五大ダンジョンならいざ知らず、こんな辺鄙な場所にある金にもならんダンジョンで出てくるなよ。
「ボ、ボス。不味いですよコレは........」
「見りゃわかる。目の前に
「んな事言ってる場合ですか?!俺達は今電気椅子よりもヤベー場所に座ってるんっすよ!!」
「まぁ落ち着け
こういう現場に慣れすぎて焦りすら浮かばない俺と、元軍人とは言えどこのような経験は少ないのか焦るレイズ。
俺のメンタルが軍人よりも優れていると証明されたね!!やったぜ。
そんなアホなことを考えつつ、俺はドラゴンからは目を離さずにゆっくりと後ろへと歩き始めた。
幸い、ドラゴンはこの広々とした洞窟の中を飛んでいる。
際が見えないほどにまで広いこの洞窟の中では、幾ら体調が10m近くもあるドラゴンと言えどのびのびと運動ができてしまうだろう。
空を飛んでいるおかげでそれなりの距離が空いている。上手く刺激せずに下がり続ければ、見逃して貰えないだろうか。
「レイズ、ゆっくりと後ろにあるけ。目を離すなよ。少しでも目を離したら死ぬと思え」
「は、はい........あの、ボス」
「なんだ?」
「アイツ、なんか大きく息を吸ってません?あれ、噂に聞くドラゴンブレスって奴じゃ........」
レイズにそう言われドラゴンの口元をよく見ると、確かに息を大きく吸い始めている。
あー、ヤバそうっすね。ドラゴンブレスがどれほどの威力かは知らないが、絶対やべぇ。
これは確実に死ねるなと判断した俺は、即ドラゴンに背中を向けると走り出した。
「レイズ!!逃げるぞ!!」
「うぇ?!待ってくださいよボス!!」
全力でドラゴンに背を向けて逃げ出す俺達。
あんな化け物相手に立ち向かおうとか考えられるわけがない。俺は、俺の弱さをちゃんと理解しているのだ。
厚さ9mmの装甲すらぶち抜く軍用魔弾すらも通さない鱗がある時点で俺たちに勝ち目はない。
「ボス!!ボスってのは強いやつがなるんじゃないんすか?!あのドラゴンを倒してくださいよ!!」
「お前は世界中の
俺達はくだらないやり取りをしつつも、俺達は力の限り走り続ける。
が、ドラゴンは俺達を完全に焼き殺す気満々なのか容赦なくドラゴンブレスを吐いてきた。
ゴォォォォォォォ!!
と、火炎放射器でももう少し優しい音を立てそうな音と共に、圧倒的な熱を持った炎が俺達に迫ってくる。
「スーちゃん!!地面を溶かせ!!」
(ポヨン!!)
範囲的に左右への回避は不可能。となると、死ぬ気で防御するか上下へ回避しなければならない。
そして、俺もレイズもこんな馬鹿げたブレスを防ぎ切るのは不可能だ。
俺たちに空を飛ぶ手段もない。となれば、下に回避するしかない。
俺はブレスが迫って来るその数瞬の間にスーちゃんの酸で地面を溶かすと、その中に水を限界まで具現化して叩き込む。
これで多少は温度を下げられる。
さらに、能力発動。
できる限りスーちゃんに地面を掘らせつつ、俺は剥き出しの水を覆うように鉄パイプとワイヤーを使って蓋をした。
水は熱で蒸発するが、少しは蒸発量を抑えられるだろう........多分。
「飛び込め!!」
「死ぬゥゥゥゥゥゥ!!」
即席水溜まり場を作った俺はレイズと一緒に水の中に飛び込むと、0.5秒も立たずに先程まで俺達がいた場所を炎が焼き尽くしていく。
ヤバい、水の蒸発が早い。
炎の温度が高すぎる為か、一瞬で蒸発し始める水。
スーちゃんのが掘った穴は即席にしては深いからなんとかなっているが、このままでは俺達は仲良く茹でられる。
水は少ないほど沸騰しやすい。
ならば、アホほど水を出してやるよ。
舐めるなよ、クソトカゲ。こちとら具現化速度だけは異常に早いんだ。リィズ達にすら褒められた俺の能力と、根比べしようじゃないか。
俺は“
水が蒸発して熱を貯める前に、この掘った穴の中にある水を入れ替えるスピードで水を生成し続けた。
........キツイな。普段はここまで大量の生成をしないから、集中力がかなり必要だ。
能力の扱いには多少自信があったのだが、まだまだ問題点は多いな。
そう思いつつ、能力を使い続けること30秒。
ドラゴンブレスが終わったのか、掘った穴の中が暗くなる。
慌てて水の中に飛び込んだので、息もそろそろ限界だ。ドラゴンに待ち伏せされていら
俺はそう思いながら水の中から顔を出す。
30秒ぶりに吸った空気は、とても新鮮で生きている心地がした。
「ゴホッ、ゴホッゴホッ........助かりましたボス」
「死なずに済んでよかったぜ。全く、今までの人生の中で一番やばかったかもな」
(ポヨン)
「ナー」
水の中から出てきた俺達が目にした光景は、それはもう酷い有様であった。
地面は溶けているわ、熱が籠ってクソ暑いわ。
唯一喜べるのは、水が大量に蒸発した為か煙が黙々と立ち込めている為俺たちの姿がドラゴンには見えてない事ぐらいだ。
下手したら酸素が消費されまくって酸欠で死ぬなんてこともあったが、幸いにもここはダンジョン。そこら辺の常識は地球の法則と当てはまらない。
「で、どうすんですかボス。このままだと俺達はあの世行きが確定しますよ」
「安心しろ。地獄への直行便はそこまでせっかちじゃない。今の間にできる限り逃げるぞ、俺達が勝てる相手では無いしな」
俺はそう言いながら、ドラゴンが居るであろう方向と逆側に足音を立てずに逃げていく。
あぁ、リィズが居てくれればあのドラゴンも殺せるんだけどな。
今はとにかく逃げるしかない。こんな所でゲームオーバーは、正直勘弁願いたいからな。
【アルバート・ハミルトン・フィッシュ】
アメリカのシリアルキラーで、食人者。「満月の狂人」「グレイマン」「ブルックリンの吸血鬼」などの異名で知られている。
正確な殺人数は明らかでは無いものの、多くの子供を暴行して殺害。肉を食べる目的で殺害された児童もおり、中には成人も殺害されている。アメリカ犯罪史で史上最悪の殺人鬼と呼ばれ、電気処刑の執行を“一生に一度しか味わえない、最高のスリル”と語ったとも噂されている。
ドラゴンからの逃走劇は熾烈を極めた。
ドラゴンブレスを連発されれば俺達も神に祈る前にあの世へと行くこととなっただろうが、あれほどの強力な攻撃はそう何度も連発できるものでは無いらしい。
連発出来たらやばかったが、そこまで神は俺達を見放してはいないようだ。
「ボス!!また来ますよ!!」
「っつ!!クソが!!トカゲの分際で人間様を食おうとしてんじゃねぇぞ。コモドドラゴンかこの野郎」
蒸気によって塞がれていたはずの視界だったが、ドラゴンが1つ羽ばたけばあら不思議。
あっという間に霧は晴れ、その中で蠢く小賢しい人間どもを見つけて喰らいに来る。
地上スレスレに滑空し、口を大きく開けて俺達を丸呑みにしようとするドラゴンの迫力は、下手なアトラクションよりも壮大だ。
だってリアルで命が掛かってるからね!!
「レイズ!!銃で牽制しておけ!!スーちゃん発射準備」
「了解ボス」
(ポヨン)
「ナーちゃんは影を使って死角を作れ!!1度でも有効な攻撃を当てられれば、俺達を警戒するはずだ!!」
「ナー!!」
迫り来るドラゴンから逃げつつ、俺はレイズ達に指示を出して迎撃をさせる。
もう何度目かも分からない迎撃戦だが、こいつはスーちゃんの酸だけは食らうとやべぇと分かっているのか、スーちゃんの射程に絶対入ってこない。
「グルルルル」
滑空をしていたドラゴンは、途中で大きく向きを変えるとそのまま空へと戻ってしまった。
「またっすか。スーちゃんの酸がそれほどまでに怖いんすかね」
「相手を溶かすことに関しては、スーちゃんは天才的だからな。問題は、射程範囲に入れないと何も出来ない事だが」
俺はそう言いながら、ワイヤーを具現化してドラゴンの翼に巻き付ける。
先程からドラゴンが空を飛べないように試しているのだが、このワイヤーは所詮鉄の糸でしかない。
ワイヤーはドラゴンの羽ばたきによってブチブチと切られ、無惨に地面へと落ちて行った。
「やっぱり拘束は無理だな。俺にはドラゴンにダメージを与えられる有効打がないし、ドント・ブリーズをやってる気分になるな」
「息したらアウトの映画っすか?アレよりもバックルームから脱出してる感覚の方が近いと思いますよ」
「確かにそうだな。ちなみに危険度は幾つ?」
「五分の三位じゃないっすか?ボスが居なかったら死んでますよこれ」
滅茶苦茶危険じゃねぇか。
危険度3は普通の人間じゃ死ねるんだよ。
俺はそんなことを思いつつ、リィズが来てくれるのをじっと待つ。
リィズは鼻が利く。俺の匂いを辿ってきてくれるとは思うが、後どのくらい時間を稼げばいいんだろうな。
「グヲォォォォォ!!」
ドラゴンが再び咆哮を上げながら大きく息を吸い始める。
またブレスか。
「ヤバいっすよボス!!またブレスが来ますよ!!」
「落ち着け、二回もタダで必殺技を撃たせるわけねぇだろ。対策はある程度考えてんだよ“
ドラゴンがブレスを吐く際、大きく息を吸うらしい。
では、その息を吸っている時に異物が紛れ込んだら?
きっとドラゴンはブレスを中断する。ドラゴンがむせるかどうかは知らんが、試さないよりは試した方がいいだろう。
既にスーちゃんは言われずとも穴を掘り始めているし、水の生成は一瞬で終わるからな。
というわけで、息を吸うドラゴンの口元に水を具現化。
熱には冷気を、炎には水を。
タイプ相性を考えれば、常識である。
「ゴボッ?!」
「お、思いっきり吸ったな。じゃ次は粉系でも行ってみるか?」
「よくそんな対策をポンポン思いつくっすね........」
「慣れだよ慣れ。こんな能力しかないから、俺は工夫するしかないんだよ」
俺はそう言いつつ、更にドラゴンの頭上にボウリング玉を無数に具現化。
むせ返るドラゴンは上へと気が向かず、ボウリング玉を思いっきり頭に食らった。
が、全く効いた様子がない。
「........?ゴホッ!!」
「全く効いてないっすね........それはもう悲しいほどに」
「ですよねー。俺も薄々思ってた。やっぱり逃げ続けるしかないな。スーちゃんの射程範囲内に入ってきてくれないから、ドラゴンブレスだけ阻止し続けるぞ」
「了解」
スっと顔から感情を消すレイズ。この時の顔はとても頼もしく感じる。
能力こそ戦闘向きでは無いが、軍人時代の経験が生きているな。
俺もそういう訓練をしてからこの世界に来たかった。最近、こう言うのに巻き込まれすぎて感情が死んでんだよな。
なんと言うか、“もうどうにでもなれー”って感じで。
そう思っていると、吸い込んだ水を全て吐き出したドラゴンが再び息を大きく吸い始めた。
コイツ、もしかして学習能力ないのか?
俺はそう思いながら水を具現化、再び瑞を大量に飲み込んだドラゴンはむせ返ったので次いでとばかりにワイヤーで口を閉じさせる。
「ングゥゥゥゥゥ!!」
ドラゴンはどうやらワニと同じように、噛む力が強くとも開く力は強くないらしい。
コレ、あれだな。ブレスさえ気を付ければ時間稼げるわ。
「ドラゴンって意外と可愛くないか?パターンさえ読めれば、簡単に無力化できる。残念ながら、俺達の攻撃では殺せないけど」
「この状況でそんなこと言えるとはさすがボスっす。まぁボスは、火力さえあれば滅茶苦茶強いっすね。火力さえあれば」
「2回も言うな悲しくなる」
俺はワイヤーを頑張って外そうとするドラゴンを見て、少しだけホンワカするのだった。
【モハメド・アリ】
アメリカ合衆国の元プロボクサー、アクティビスト。ケンタッキー州ルイビル出身。元WBA・WBC世界ヘビー級統一王者。ローマオリンピックライトヘビー級金メダリスト。
“蝶のように舞い蜂のように刺す”という言葉を残し、2016年に死去。
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