またこれか


 その後も順調にダンジョンを攻略し続け、“あれ?俺要らなくね?”と思ってしまった翌日。


 ダンジョンの中で一泊した俺達は、再びダンジョンの奥へ奥へと進んでいた。


 ダンジョンの中で休息を取るのは、ハンターとして必須の技術だ。


 特にハンター経験の低い俺だったが、どうもこのダンジョンの中で休むと言うことに関しては適性があったらしく結構ぐっすりと眠れた。


 寝ている時に魔物に襲撃されても対応できるように見張り番もやったが、これに関しても簡単である。


 だって暇つぶし用の道具は腐るほどあるからね!!


 ダンジョンの中でビンゴ大会ができるぐらいには、俺の能力は多彩である。


「それにしても、ボスの能力は凄いですね。電子機器なんかも具現化できるなんて、滅茶苦茶ですよ。これで武器も出せたら完璧なのに........」

「言うな、レイズ。それは能力を使ってる俺が1番理解しているんだからな。何が悲しくてダンジョンまで来て賑やかし要因になってるんだか。俺が知りたいぐらいだ」

「その分ボスの能力は自由が効くからな。戦い以外に関しては完璧だ。ダンジョンじゃ、クソの足しにもならんけど」

「悲しきかな。神は生まれた瞬間に俺を見捨てたようだ」


 昨日の夜、俺の能力を見たレイズはとても興味深そうにしていた。


 玩具の定義がかなり曖昧なこの能力は、ゲーム機ですら具現化する事が可能である。


 夜の暇つぶしとして皆で某配工管のおっさんが出てくるレースゲームをやったのだが、それなりに盛り上がった。


 トップを爆走する俺をなんとしてでも潰そうと刺甲羅を引きに行くジルハードや、リィズとレミヤに狙われ続けるレイズ。


 途中からゲーム機の方に興味が湧いてしまい、ゲーム機を分解し始めようとするレミヤなどなど、こうして遊んでいると俺達が裏社会に生きる人間だとは思えない。


 そして、偶に声につられた魔物がよってくると瞬殺されてスーちゃんのオヤツになっていた。


 いつもお掃除ありがとねスーちゃん。


 そんな訳で、修学旅行のノリみたいな感じでワイワイ騒いでいたのだが、結構楽しかったな。


 人間関係も悪くなさそうだし、そこまで気を配る必要は無さそうで何よりである。


「ジルハード、死ぬほど嫌われる戦術を取ってたよな。周回遅れになろうが、相手をイラつかせるためだけにアイテムを取り続けるし」

「途中でリーズヘルト先輩がブチ切れてましたね。ゲーム機を壊さんとるす勢いで」

「身体はでかい癖に器が小さいこの玉無しファック野郎が悪い。自分が勝てないなら人の足を引っ張ろうとするその魂胆。きっとジルハードは生まれた時にママのお腹の中に玉を2つ置いてきたんだよ」

「かー!!ひでぇ言われようだな。まぁ、そんな中でもスルスルと俺の攻撃を交わしていくボスが1番やべぇんだけどな」


 そりゃ昨日初めてゲームを触ったお前達と、常日頃からお袋にボコられてきた俺とでは年季が違うよ。


 俺は頭がそこまで良くなかった割にゲームが上手かったんだ。小手先の器用さだけなら、このファミリーの中でも一番だと思ってるしな。


 そんな事を思いながら、近くにあった石ころを蹴り飛ばしたその時だった。


 蹴り飛ばされた石ころは、洞窟の壁に辺りコロコロと転がる。


 そして、突如ゴゴゴと大きな音と揺れを感じると石ころの当たった壁が消え去り、その中には広い空間が拡がっていた。


 え、なにこれ。石を蹴り飛ばしたらなんか道が開けたんだけど。


 アレか?ついに俺はモーセにでもなったのか?十戒を神から授かった記憶はないんだけどなぁ........


「さすがグレイちゃん!!初めて潜るダンジョンでも、隠し部屋が何処にあるのか分かるんだね!!」

「うん?」

「出たよボスの何も言わずに勝手に物事を進めるヤツ。急に揺れるからビビったじゃねぇか。一言くれよ」

「え、ごめん」

「これが、リーズヘルト先輩が言っていた主人マスターの力ですか。私も気づけなかったこの隠し部屋に即気づけるとは、流石です」

「いや、ちが────」

「ボス、やはり只者じゃないんすね」

「いや、だからちが─────」

「うし、んじゃ行こうぜ。ボスが態々この部屋を開けたって事は、何かあるんだろうからな」


 ま た こ れ か。


 もういいよ、俺は飽きてきたよこのパターン。


 俺が意図しない事で何かをすると、“流石ボス”となるパターンはもういいよ。しかも、こういう時に限ってこいつら俺の話を聞かねぇし。


 何?打ち合わせでもしてるの?俺が何かやらかしたら“流石ボス”とでも言っておけって。


 こうも毎回同じパターンをやられると、俺も疑うぞ?


 お前ら、俺を持ち上げるために結託しているわけじゃないだろうな。


 もう何度目かになるのかも分からない“流石ボス”の流れを受けた俺は、ウンザリしながらもジルハードの後に続く。


 どうせこういう時は厄介事が起こるに違いない。


 例えば───────


「ダンジョン抗争に負けた連中がたむろしてたりな」

「なんだテメェら!!俺達を誰だと思ってる?!」


 俺がそう呟くのとほぼ同時に聞こえてきた声。


 視線をあげると、そこには15人ほどのならず者達が居た。


「あ?テメェらのようなカスの事なんざ一々知らねぇよ。お前はそこら辺に転がる石ころの形一々覚えるのか?その記憶力、他のことに使った方がいいぜ」

「........っ!!どうやら死に急ぎてぇらしいな。俺達デックギャングに舐めた口を聞いたツケは高くつくぜ」


 デックギャング。


 俺とリィズがグダニスクの街に来た当初、エボラスファミリーと並んで街を支配していた巨大なギャングだった........かな?


 ダンジョン抗争で軍団に壊滅させられ、デックギャングの生き残り達はこの街を出ていったと聞いていたが、このダンジョンの中で細々と暮らしていたのか。


 いや、例えで言っただけで本当に出て来いとは言ってないんだが?


 嘘から出た誠とはよく言うが、こんな真実俺は要らねぇよ。


 レシート付きで返品してぇよ。


 どうしてこうも毎回、俺は面倒事を引き寄せるんだ?


 既に敗れたギャングがダンジョンに集まっている。この事実だけで、厄介ごとの匂いがプンプンしてくる。


 どうせアレだろ。ミスシュルカ達に復讐するために集まってんだろ。


 そんなことを思いながら、ピリピリとし始める洞窟の中でデックギャングの1人がなにかに気づいたかのように俺を指さす。


「あ!!コイツグレイですよ兄貴!!俺達から獲物を横取りしたクソ野郎です!!」

「ハッ!!マジかよ!!自らノコノコと首を差し出しに来てくれるとは随分と気前がいいじゃないか!!ぶっ殺してやるよ!!」

「負け犬がよく吠える。動物園で新種の動物として飾られた方がいいんじゃないか?お前らの実力がなかったから奪われたくせに、今なら勝てると本気で思っているその頭の無さには呆れて物が言えねぇよ。ボス、どうする?」

「もうやっちまえ。ここからお互い笑顔で握手するような案があるなら聞いてやるぞ」

「んなもんあったとしても、お隣の狂信者ファナティックが全てを台無しにするさ。んじゃ、残党狩りと行きますか!!」


 こうして、デックギャングの生き残りとグレイファミリーの殺し合いが始まった。


 望んでないのにどうして毎回こうなるんだ。やってらんねぇよクソッタレ。




【モーセの十戒】

 旧約聖書の出エジプト記20章3節から17節、申命記5章7節から21節に書かれており、エジプト出発の後にモーセがシナイ山にて、神より授かったと記されている。

 有名な海を割るシーンは、エジプトを脱出する際に行ったとされている。




 デックギャングの生き残りとの遭遇。これは完全に予想外であったが、ミスシュルカが抗争後の残党を探していた話も聞いたし手土産が出来たと思えば悪くない。


 2.3人ぐらい生け捕りにした方が良さそうだな。コイツら一体このダンジョンで何を企んでいたのやら。


「誰がやる?」

「ジャンケンで決めようよ。この程度なら誰で始末できるだろうしね」

「お、いいな。ボスも参加でやるか」


 15対5の状況で余裕綽々の仲間達。いやー頼もしくて泣けてくるね。


 サラッと俺まで巻き込んでるのは勘弁して欲しいけど。


 ジルハード君?君達のボスは死ぬほど弱い事を知っているよね?なんで俺まで混ぜてくるんだよ。


 相手はジルハードやリィズほど強い訳じゃないから、勝つだけならなんとかなる。


 俺だけじゃどうやっても無理だけど、スーちゃんとナーちゃんの力を使えば火力面は問題なし。


 1人で勝てないボスってのも悲しいなぁ........


「んじゃ勝ったヤツ2人でやるか。ジャンケンポン」


 俺の意見など待ったナシに始まるジャンケン。


 俺も反射的に拳を出してしまい、結果俺とレイズがグー。その他がチョキで勝ってしまった。


 あぁ、ファック。なんでこういう時のジャンケンだけは勝つんだよ。


 ジャンケンあるある。勝ちたくない時だけ普通に勝つ。


 こんな所でマーフィーの法則を発動しなくていいんだよ。


 落としたトーストがバターを塗った面を下にして着地する確率は、カーペットの値段に比例する。


 ジャンケンで勝ちたい時は負けるのに、負けたい時は勝つ。


 世の中上手くいかないもんだ。


「じゃ、ボスとレイズだな。頑張れよ」

「グレイちゃん頑張れ!!」

「私は待機ですか。新入りとしてその力を見せつけようかと思ったのですがね」


 悲しくも勝ってしまった俺を応援してくれるリィズ達。


 今からでも代わってくれてええんよ?と心の中で思いつつも、“少しはボスとして戦わないとな”と気持ちを切り替える。


 この世界に来てからあれこれ巻き込まれまくったお陰で、気持ちの切り替えが早くなってるな。


 こんな事で、異世界に来てからの成長を感じたくはなかったが。


「レイズ、サポートはしてやるから頑張れ。後2~3人程は生かしておけ。軍団への手土産にするから」

「了解です。では、リーダー格のヤツとその取り巻きを二名程捉えます」


 スッと目からハイライトが消え、急激に気配が変わるレイズ。


 さすがは元軍人、潜ってきた修羅場の数も違うし切り替えも早い。


「俺たちの前で死ぬ順番を決めるとは随分と余裕があるじゃねぇか。楽に死ねると思うんじゃねえぞ」

「態々待ってくれるとは優しいな。ギャングこの稼業、向いてないんじゃないか?」

「ほざけアジア野郎イエローモンキー。ぶっ殺して燻製にして飾ってやるよ。やっちまえ!!」


 軽い煽り合い直後、一気に突撃して来るデックギャングの生き残り達。


 銃を使う気配は無し。全員近接戦が得意な能力者か?


 軍用魔弾は.......手に入れるのも結構大変だからこんな崩れかけた奴が持ってないか。


 となると、気をつけるべきは通常の魔弾のみ。そして、その対策はスーちゃんがしてくれているから、俺はこいつらの動きを封じればいいな。


 俺はそう考えると“昔懐かしの玩具箱トイボックス”を発動。


 今回もワイヤー君に頑張ってもらうとしよう。人の拘束からトラップ作成まで簡単に何でもこなしてくれる便利玩具だ。


 いや、ワイヤーって玩具なのかかなり怪しい気もするけど。


「正面から突撃してくれるなんて、やりやすくて助かるよ。転べ」


 俺の能力は具現化速度が異常に早い。様々な能力者を見てきたリィズですら驚く程であり、この場にいる15人のギャングの手足を縛るぐらいは造作もなかった。


 そして、人とは二本足で地に立つ生き物である。


 少しでもバランスを崩し、足が使えないとなれば簡単に転がる。


「うをっ?!」

「いだっ!!」

「うぐっ!!」


 あっという間に転がされるデックギャングの生き残り達。こいつら本当に元ギャングなのか?弱すぎだろ。


 俺は自分が強くなったような感覚に陥ってしまいそうだと思いながらも、レイズに“殺れ”と顎で指示を出す。


 レイズも一瞬“え、これで終わり?”と言いたげな顔をしていたが、即座に気を取り直して近場のやつから頭を弾いていた。


「なぁ、ボスってやっぱり普通に戦えるよな?人間相手で補助サポート限定にはなっちまうけど」

「グレイちゃん普通の人間には滅法強いからね。魔物が相手になると火力不足が否めないけど、それはスーちゃん達でカバーしてるし」

「やはり何度見てもあの能力は凄いですね。具現化速度が尋常じゃないですよ」


 俺があっさり15人を生け捕りにしたのを見て、コソコソと話す3人。


 聞こえてるぞ。それと、ぐるぐる巻きにされたワイヤーを引きちぎれるような相手が来たら勝てないから。


 俺が勝てるのはあくまでも格下。上手く環境や玩具を使えば多少は実力差を埋められるだろうが、それでも真の実力者に勝てるほど俺は自分が強いとは自惚れていない。


 そんなこと思いつつ、的確に相手の頭を撃ち抜くレイズを見ていると、拘束した1人が芋虫のように這いずって逃げようとしていた。


「おい、逃げ場はないぞ」

「クソが........確かに俺は死ぬだろう。だが、お前たちも道ずれだ!!」


 男はそう言うと、地面に強く頭をうちつける。


 ゴン!!と、思わず顔を歪めてしまいそうな程勢いよく地面を叩いたその瞬間、俺とレイズの足元に魔法陣らしきものが浮かび上がった。


「なんだこりゃ」

「ヤベッ!!ボス、トラップっすよ!!」

「グレイちゃん!!」

「「ボスマスター!!」」

「へっ、あの世で一足先に待ってるぜ。お前の首が──────」


 ギャングの言葉を最後まで聞き終わるよりも早く、俺の視界が切り替わる。


 おお、もしかしてこれが転移って奴か?すごいな。


 そんな感動もつかの間。


 俺の耳に入ってきたのは、絶望とも言える咆哮であった。


「グガァァァァァァァァァァァ!!」


 あーはいはい、またこのパターンね。


 アレだろ、リィズを助けた時と同じようなパターンだろ?


 半ば諦め気味で声のする方に振り返ると、そこには深紅の炎の様に赤いドラゴンが俺とレイズを見ていた。


 またこれだよ。ファッキンダンジョンめ。

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