俺要らなくね?


 新たにシャドウキャッツと呼ばれる魔物ナーちゃんを仲間に加えた俺達。


 魔物の仲間ってどうなのだろうかと思いつつも、可愛い癒し枠と思えば悪くないかと気持ちを切り替えた。


 前例としてスーちゃんが居るし、ナーちゃんも結構賢く大人しい。


 俺自身が死ぬほど弱いので、護衛として頑張って活躍してもらうとしよう。


 後、愚痴を聞いて欲しい。


「ナー?」

(ポヨン?)

「ナー!!」

(ポヨン!!)


 スーちゃんとナーちゃんは元々魔物同士なのが影響しているのか、既に仲睦まじそうに遊んでいた。


 スーちゃんは同じ魔物仲間ができて嬉しそうだし、ナーちゃんもナーちゃんで一人ぼっちでは無いのが嬉しいのか尻尾をふりふりと左右に振っている。


 そして、その様子を見ている俺達も和やかな雰囲気が流れていた。


「こうしてみると、魔物も可愛いですね。500年ほど前に地球を破滅への道へと陥れた存在とは思えない程に、和やかで微笑ましいです」

「魔物ってのは普通、見つけたら殺す対象だからな。そもそもボスのようなテイマーも珍しいし、アイツらは戦力になりそうな魔物を仲間に加える。こうして愛玩魔物をテイムする様な変わり者は、少ないだろうよ」

「その内、何も知らない自称博愛主義者フェランスロピストが、魔物の権利を求めて大規模デモを起こしそうですね。こんな光景を見ていたら」

「あぁ言う馬鹿どもはハンターの事情なんざ考えないもんな。自分達も魔物の恩恵に預かっておきながら、“魔物が可哀想!!”とか宣うその面の皮の厚さだけは尊敬できるよ」


 あの人を人とも思わない人間の底辺共が、魔物達の交流を見て和んでいる。


 やはり、可愛いは正義........!!可愛ければ、全てが許されるのだ。


 マフィアの中には猫を飼う奴もいると聞くし、可愛いと言うのは一種の生存競争を生き残る手段なのだろう。


 人間と言う絶対的強者に保護される為に、彼らはその見た目を変化させてきたのだ。


 そんなことを思っていると、リィズが俺の後ろから抱きついてくる。


 喉をゴロゴロと鳴らしているので、これは下顎を撫でて欲しいんだなと思った俺は、優しくリィズを撫でてやった。


「ん........グレイちゃんは魔物に好かれやすい体質なのかな?」

「どうしたんだ急に」

「私もそうだけど、魔物って基本は本能に従う生物が多いんだよ。この地球に住む動物達と同じでね。イルカやシャチの様に、理性的に動く魔物は少ない。で、グレイちゃんはそんな本能に生きる魔物にすぐに懐かれるって事は、体質の問題じゃない?」

「ナーちゃんはともかく、スーちゃんは完全に食い意地だけで俺の前に来たけどな........」

「でも、グレイちゃんはスーちゃんの本能を見抜いた。だから懐かれた。凄いよグレイちゃん。私も“グレイちゃんにこうして欲しいなー”と思った時は、必ずその行動をしてくれるし」


 まぁ、人の思考を読むのはそれなりに得意だからな。


 親父に嫌という程仕込まれ、人の癖や動きを見るのが日常になってしまっている。


 例えば、リィズが喉をゴロゴロと鳴らす時は俺に構って欲しい時だし、スーちゃんがポヨンと横に揺れた時は大抵何か食べたい時だ。


 ジルハードは考え事をする時に視線を左上に上げる癖があるし、レミヤは自分が楽しい時は僅かに口角が上がる。


 レイズはまだ出会って2日目なのでなんとも言えないが、おそらくイカサマをする際は瞬きの回数が増えている。


 そんな風に、相手の行動をよく見て感情ややりたい事を察するのが癖となってしまっていた。


「グレイちゃんは才能がないと言うけど、それは立派な才能だよ。相手の行動を見抜き、相手が望む言葉や行動をしてくれる。だから、みんなこうして楽しそうにしているんだよ」

「ゲーム中の思考を読むのは得意........なはずなんだが、毎回何かしらの面倒事に巻き込まれてないか?」

「ふふっ、それも一種の才能だよ。大抵は上手くいってるでしょ?最初だけは失敗しちゃったけど」


 ルーベルトのことを言っているのか。


 俺がもっと強ければ、俺がもっと賢ければ、俺がもっとこの世界に慣れていれば、この輪の中にルーベルトも居たかもしれない。


 そう思うと、悲しくなってくるな。


 俺は首から下げたセンスのない髑髏のネックレスを眺めると、リィズは優しくつぶやく。


「いつか、返しに行こうね」

「そうだな........墓も作ってやらんとな。さて、そろそろ行くか。ナーちゃんとの親交もそれなりに深まっただろ」


 俺は髑髏のネックレスを大切に服の中にしまうと、再びダンジョン攻略を始めるのであった。




【シャドウキャッツ】

 ネコ科シャドウ種の魔物。影や闇を操り、暗闇の中から音もなく奇襲を仕掛ける事を得意としている。見た目は一見普通の黒い猫であるが、体内に魔力を持っているためその力は絶大。

 真正面からライオンとタイマンしても普通に勝てるだけの力を持つので、見た目で侮ったハンターは普通に死ぬ。




 グレイ達が潜っている洞窟型のダンジョン。


 そのダンジョンの中にある開けた場所には、一ヶ月ほど前にダンジョン抗争で敗北したデックギャングの生き残り達が逃げ延びていた。


「あの腐れアマが........絶対に殺してゴブリンの餌にしてやるよ」

「だがどうする?ボスは死んじまったし、俺達だけでやるにも戦力が足りねえ。戦力として頑張ってくれていた兄貴たちも皆豚の餌に変わっちまったんだぞ」


 ダンジョン抗争の際、運良く逃げ延びれたのは僅か15人。


 元は数百人規模のギャングだったことを考えると、あまりにも心もとない戦力であった。


 軍団による本部への一斉攻勢と、エボラスファミリーによる挟撃。更には、ミスリルの取れるダンジョンで大暴した化け物に全てを壊されてしまってはどうしようもない。


 だが、彼らは諦めていなかった。


 例え死ぬこととなっても何としてでも奴らを殺したい。特に、今回のダンジョン抗争で全てを持って行った軍団長シュルカに対しては、どんな手を使ってでも殺す気でいたのだ。


「くっくっく。俺に考えがあるのさ」


 特にデックギャングのボスに拾われ、忠誠を誓っていた男の1人が不気味に笑う。


 仲間達はその不気味さに少々気圧されつつも、その話に耳を傾けた。


「4日前に、偶々面白いもんを見つけてな。上手くいくかどうかは分からんが、上手くやれば勝てるだけの力が手に入る」

「4日前?何も聞いてないが........」

「勿体ぶらずに言えよ。何を見つけたんだ?」

「ドラゴンさ。このダンジョンの奥底で、ドラゴンが眠ってやがった。ソイツを叩き起し、上手くダンジョンの外に誘導出来ればグダニスクの街を焦土の海に変えることが出来るぞ。審判のラッパが吹かれた時のように、俺たちが神に変わって裁きを下せる」


 男の言葉に、全員が息を飲む。


 ドラゴン。


 それは、殆どのダンジョンの中で最上位に位置する最強の魔物。


 何者も通さない圧倒的な鱗は、例え厚さ9mmの装甲すらも易々と貫く軍用魔弾すらも容易に弾き、その口から発せられるブレスは灼熱となって大地を焼く。


 かつて、第一次ダンジョン戦争が起きた際、ダンジョンの外へと出てきた魔物の中で最も苦戦したのがドラゴンである。


 そんな化け物の中の化け物とまで言われる最強格の魔物が、このダンジョンの中に眠っている。


 上手く外におびき出せれば、確かにグダニスクの街1つを焼き尽くす事など朝飯前であろう。


「ドラゴンを叩き起すって........そんなに上手くいくのか?相手はドラゴンだぞ」

「実物を見たことがないからなんとも言えんが、まず間違いなくやばい奴だろそれ。学のない俺ですら、そのヤバさは何度も聞いたぞ。“たった一撃のブレスで街を焼き付くし、戦車や軍用ヘリを羽虫のように叩き潰す怪物”。そんな奴を俺達だけで上手くダンジョンの外に誘導できるのか?」

「できる出来ないじゃない。やるしかない。神の元へと旅立たれたボスの為にも、俺達があの世に行った時の笑い話を持っていかなくてどうする?」


 この狂信者め。


 男の言葉に顔を歪めたくなるのをグッと堪えつつも、逆転の一手がそれ以外にない事を理解しているため反論が出ない。


 生き残りたいなんて思うものはいない。皆、軍団やグレイファミリーに復讐をしたいのだ。


 その首を街頭に並べ、ジャックオーランタンのように中身をくり抜いて明かりを付けてやりたいのだ。


 親しい者たちが死に、残された彼らにとって復讐こそが今を生きる意味となる。


「分かった。やろう。だが、何事も作戦が大事だ。トイレには先に行っておけ。“ファニーとアレクサンデル”の様なクソ長い作戦会議が必要だ。もちろん、途中でトイレ休憩は挟んでやるよ」


 まとめ役であった男はそう言うと、生き残ったデックギャングの面々は作戦を立て始めるのであった。


 しかし、彼らは不幸にも作戦を立てる日が遅すぎた。


 そこには既に、グレイファミリーが新たな仲間を加えてこのダンジョンに足を踏み入れていたのだから。




【ファニーとアレクサンデル】

 1982年のスウェーデン映画。霊感の強い主人公アレクサンデルが亡霊と遭遇しながら生きていくお話。上映時間がなんと311分もあり、あまりの長さにトイレ休憩が挟まれる。




 昼休憩を終えた俺達は、さらにダンジョンの奥へと向かっていた。


 頑張って地図をこっそりと書いてはいるが、そろそろ道を忘れそうになるぞ。お前たち、ボスの足並みに揃えてくれ。


「お、次はロックアルマジロか。こいつ、殴りがいがあるから好きなんだよな」

殴りがいがあるサンドバックか........魔物も人間に殴られるために生きてるわけじゃないんだぞ?」

「俺たちの世界じゃ殴られる方が悪い。そうだろボス?」


 サクサクとダンジョンを進んでいき、次に現れた魔物はロックアルマジロと呼ばれる人間の倍近くある魔物。


 アルマジロと言われているだけあって、その見た目はアルマジロそのものでありその違いは大きさだけである。


 洞窟の中はそれなりに広いのだが、平原のダンジョンや森のダンジョンに比べれば狭い。


 リィズと出会った時の隠し通路よりは少し大きいぐらいの通路に、人の2倍の大きさの魔物。


 狭い場所のためか、中々に迫力を感じるな。


 ところで、その丸めた体で突進しようとしてない?やばくない?この狭い通路でそれは強すぎない?


「確かに殴られる方が悪いな。殴られたくなけりゃ、逃げるなり相手を殺すだけの力がなきゃならん。全く弱者に優しくない世界だ。非暴力不服従を唱えたガンジーですら、今の時代は助走をつけて殴ってくる。しかも、利き手の拳で。やってらんねぇよ」

「ハッハッハ!!抵抗しなければこの世は奪われるだけだ。だから弱者は群れて、数で戦うのさ。俺たち人間のように........な!!」


 ジルハードはそう言うと、丸めた身体で突進をしてきたロックアルマジロに向かって拳を振るう。


 ドゴォォン!!と、大地を揺らす一撃はロックアルマジロの強固な甲羅を貫きたった一撃でロックアルマジロの体を吹き飛ばした。


 凄まじい一撃だ。能力によって自身を固くし、さらに身体強化で力任せに殴る。


 パワーの大きいジルハードの場合は、たったそれだけで凶悪な武器となり得るのだ。


 生まれ持った体格と才能の差にため息すら出ないね。


「すげぇ........軍にいた頃でも、こんなにぶっ飛んだ力を持ってたヤツはそうそういなかったっすよ。ボスの周りにはとんでもない人材が揃ってるんすね」

「そのお陰でクソほど厄介事に巻き込まれてきたがな。ちなみに言っておくが、単純な力も能力もジルハードはウチじゃ2番目だ」

「え、誰がいちばん強いんすか?」

「リィズだよ。リーズヘルト・グリニア。このグレイファミリーの中で最も戦闘に優れているのは、彼女だ」

「マジっすか........リーズヘルトの姐さんパネェッス」


 お前そんなキャラだったっけ?


 三下っぽい口調はやめて欲しいなぁ。


 ちなみに、リィズはSランクハンターレベル、ジルハードはAランクハンター中位レベルなので圧倒的にリィズの方が強い。


 まぁ、呼吸する生物相手なら、能力使った瞬間に勝ち確だもんな。もう滅茶苦茶だよ。


 俺は、その後も順調に魔物をボコスカ殺していく仲間達を見て“俺、要らなくね?”と思いつつもダンジョンの攻略を続けるのであった。




【ガンジー】

 南アフリカの弁護士であり、インドをイギリスから独立させるための運動を指揮した人物。インド独立の父とも言われ、“非暴力不服従”を唱えた。

 尚、ネットミームで“ガンジーが助走をつけて殴るレベル”というミームがあったり、某ターン制シミュレーションゲームのバグで核を打ってくる“核ガンジー”なんてミームもあったりする。

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