野良ダンジョン攻略
イカサマ師
そろそろダンジョンに潜らないと神様から処されそうだなと思う事4日後、雨も風も凌げないバルコーニーは無事ちゃんとした事務所に戻り俺達は再び日常を取り戻していた。
いやー能力者ってスゲーわ。本来であれば何ヶ月も掛かるであろう事務所の修理が、たった数日で終わるんだから。
木偶情報屋のおばちゃんが手配してくれた業者はあっと言う間に事務所を建て直し、なんなら修理費はおばちゃんが払ってくれた。
また借りを1つ作ってしまったので、今度埋め合わせをしておかないとな。
ほぼ無償で情報を渡してくれる所か、更には金まで出されてしまっては足を向けて寝ることすら出来ない。
今度から立ったまま寝ようかな。あ、でも地球の裏側におばちゃんが居たら無理か。よし、逆立ちしよう。
そんなアホなことを考えつつ、俺達は夕食兼情報収集として行きつけのバーへと足を運ぶ。
CHの犬っころがこの街の一角を盛大に工事し、多くの人が巻き込まれてしまったが相変わらず何事も無かったかのように振る舞うこの街は異常だな。
日本なら、連日報道が起きる事だろう。
「んで、そろそろダンジョンに潜りたい。誠に不本意ながら仲間が増えたんでな。その実力も確認しておきたいし」
「そうだな。五大ダンジョンに挑むんなら、定期的にダンジョンに潜って身体を慣らしておいた方がいい。幸い、この街はドンパチに溢れていて身体を動かす事は事足りているが、ダンジョンを攻略するのとではまた違った物が求められるしな。パンが焼けるからって、唐揚げも上手く揚げられるわけじゃない」
「私はグレイちゃんのそばにいられれば何でもいいよ」
「
バーのカウンター席に座り、度数の低いカクテルを飲みつつ唐揚げを摘む俺がそう言うと、ジルハード達は大きく首を縦に振りながら頷く。
俺達の目標は五大ダンジョンの攻略。
ここ2週間ほどはいざこざに巻き込まれまくって人間と殺し合うことの方が多かったが、メインはダンジョン攻略である。
「どこに潜るんだ?やっぱり
「それもありっちゃありだが、色々な経験をしておきたい。ほかのダンジョンに行きたいな。この街の連中が管理してない完全に放棄されたダンジョンとか、そっちの方が経験が積めると思わないか?それに、俺はハンター初心者だ。多くの事を経験した方が、為になる」
「グレイちゃんの事だから、どこに行ってもなんとでもなると思うけどね。攻撃力は低いけど、逃げるだけならグレイちゃんの右に出る奴は居ないだろうし」
「
その喧嘩、俺が吹っ掛けた訳じゃなくてお前が無理やり押し付けてきたんだけどな。
俺はそう言いたいのをグッと堪えるが、リィズは違った。
他人事のように言うレミヤのメイド服の胸ぐらを掴むと、鬼の形相で睨みつけながらドスのこもった声で言う。
「誰のせいだと思ってんだこの
「そう怖い顔をしないでください。リーズヘルト先輩。私達のボスがCHに恨みを買った程度で死ぬような
「........む、それはそう。
「そうでしょうそうでしょう。それと、あまり女の子が“
そう言いつつ、リィズの頭を妹のように優しく撫でるレミヤ。
ジルハードが入ってきた時も何かと突っかかっていたリィズは、今回もレミヤに突っかかっていた。
が、レミヤはリィズがどのようにすれば大人しくなるのかを理解しているようで、あっという間にリィズを大人しくさせてしまう。
それは凄いとは思うが、俺を持ち上げるのは辞めてくれない?この前CHの連中とやり合ってから、更に俺が稀代の策士として見られるようになってんだからさ。
どうしてウチの面々は、こうも俺を持ち上げるんだ。
大人しく
「ボスが絡んだ時のリーズヘルトをあそこまで容易く手懐けるとは、流石はボスが見込んだメイドだな。掃除も家事も出来るし、家政婦として雇ったって言った方がしっくり来る」
「一歩間違えれば兵器を量産してぶっぱなす家政婦なんざ要らねぇよ。ケツに銃口を突っ込まれた気分になるぜ」
「ハハハ。家政婦のご機嫌をとる家主とは笑えるな」
ジルハードは笑いながらそう言うと、リーズヘルトとレミヤが仲良くしているのを楽しそうに眺める。
その視線は、何か昔を思い出して懐かしんでいるようにも見えた。
「リーズヘルトは、きっとボスが取られんじゃないかと気が気じゃないんだろう。最初は新入りを警戒しているのかと思ったが、ありゃ違う。自分の大切なものを取られまいと必死になる子供その物だ」
「........そうか?」
「そうだぜボス。聞いた話じゃ、リーズヘルトはココ最近になってようやくマトモな人生を送り始めたそうじゃないか。いわば、ようやく自我を持った子供と大差ない。ボスも無かったか?子供の頃大切な物を必死に守ろうとしてた頃が」
「まぁ、あったかもしれんな」
正直子供の頃の話はあまり覚えてないし、一応日本の法律では俺はまだ子供なんですけどね。
それと、このイカれた街で生きて行くことはマトモな人生と言うのか?
少なくとも俺の知るまともな人生は、真昼間から銃声が聞こえるような街で生きる事じゃないと思うんだけどね。
「リーズヘルトは人として歩み始めたばかりだ。俺達大人は、そのワガママを受け止めてやるのも仕事のひとつだよ。全く、マフィアにまでなって
「“また”?ジルハード、その言い方だと、昔も誰かをお守りしていたように聞こえるが?」
「していたさ。俺にはガキが2人居るからな。ギャングなんて危ない稼業をしていたから、ある程度育ったら他の場所に預けたけどな」
それは初耳だ。ジルハード、嫁さんだけでなく子供まで居たのか。
しかも、この言い方からしてまだ生きている。ギャングの抗争で死んだのは、嫁さんだけっぽいな。
「娘が2人。可愛いぞ。最後に会ったのは5年前だから、さらに可愛くなっているかもな。見るか?写真がある」
「いや、いいよ。お前のような筋骨隆々のオッサンから美人が生まれるなんて神の奇跡に等しいが、今はそれよりもダンジョンの話だ」
明らかに声のトーンが変わったジルハード。
うん。これは地雷ですね。踏んだら爆発するタイプの地雷じゃなくて、奈落の底まで引きずり込む蟻地獄だ。
このまま娘の話を続けさせたら、多分日が昇って朝になる。俺はこういう地雷を見抜くのは得意なんだ。
ジルハードがリィズとレミヤを見て懐かしそうにしてたのは、自分の娘達と重ねていたからなのかもしれないな。
「そうか?まぁ、それもそうだな」
と、話を戻そうとした所でバーの片隅から“あぁー!!”と大声が聞こえる。
悲鳴であるが、このバーにカチコミに来たのとは違う。楽しそうな悲鳴だ。
何事かと視線を向ければ、そこではトランプとチップを持った男達が楽しそうに何らかのゲームをしていた。
手元にカードが2枚と、机に並べられたカードが5枚。ルールはテキサス・ホールデムだな。
「最近、このバーで賭け事をする変わり者が出ましてね。少し騒がしいのですよ」
そう言ってどこからともなく現れたバーテンダー。
へぇ、賭け事をねぇ........
「変わり者?賭けなんざこの店でもよくやってるだろ」
「それはそうなんですが、基本仲間内でしかやらないでしょう?しかし、彼は違う。誰彼構わず賭けをしているんです。しかも、新人で。珍しいでしょう?ケツ持ちも居ない奴が、恨みを買う可能性だってある賭けをするのは」
「そいつは確かに珍しいな。世の中には、鉄貨1枚奪われただけで殺し合いするような器が壊れた連中も居るんだ。この街にはそんなやつしか溢れてないのに、賭け事をするなんざイカれてんな」
「しかも、彼、コレで3日目ですよ。3日間生きていられるなんて凄いですね。私は何らかの能力だと思っているのですが、グレイさんはどう思いますか?」
そう言ってこちらに話題を振ってくるバーテンダー。
うんうん。なるほど。へぇ、楽しそうだな。
あれは決して“賭け事”では無い。ガッツリイカサマしてやがるな?不自然な目の動きは、恐らく相手の手札を確認しているのだろう。
となると、あのトランプは自分で用意したものか。
そりゃ酒を飲みに来る場所に自前のトランプを持ってくる変わり者は少ないわな。そして、不正を疑われない程度に適度に負けていると見た。
適度に負けるとこで相手の溜飲を下げつつ、決してトータルでは負けこさない。
今挑もうとした男が何かを書いていたのを見るに、それが能力っぽいな。
「........ボス?」
「........グレイさん?」
上手くやるもんだ相当手慣れている。やべぇ、超楽しそう。親父よりは圧倒的に下手なのは残念だが、これはいいカモになってくれそうだな。
上手く行けば、面倒事無く仲間を増やせるかもしれん。
強さは正直分からんが、彼の能力は恐らく条件付きの強制力を持った能力。ダンジョンで役に立たずとも、このクソッタレた街での面倒事を少なくできる可能性も大いにあるな!!
「ちょっと行ってくるわ」
「........は?ん?え、ちょ、待てボス!!」
「お?グレイちゃんが何がするの?」
「
俺はそう言うと、賭け事をしているメキシコ系の顔をした男の元へと向かうのだった。
【テキサス・ホールデム】
ポーカーの一種。各プレイヤーごとに配られる2枚の手札と、コミュニティ・カードと呼ばれる全プレイヤー共通のカード(最大5枚)を組み合わせてプレーする。アメリカ合衆国のカジノにおいては最もポピュラーなゲームのひとつである。通常は2人から10人で行われる。
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