ダンジョンに潜ってなくね?


 何度も思うが、どうしてこうなった?


 神様を楽しませる為に転生(転移?)させられ三ヶ月が経過し、本来であるならば順調にダンジョンを攻略しつつ異世界ライフを楽しんでいる筈だったのに、今はこうして改築リフォームされた事務所で頭を抱えている。


 グダニスクの街に入り込んだCHの犬っころ達は姿を消し、再び街は平穏を取り戻したのだが、そんな話はしていない。


 昨日始末した犬共はどうでもいいが、CH及びアジア諸国も本格的に俺を追い始めているのが問題だ。


 CHからガッツリ恨みを買ったけど、別に俺のせいじゃなくね?俺、自分に降り掛かった火の粉を払っただけなのに、その原因となった家が燃え盛るお陰で家主から恨みを買うはめになるとか勘弁願いたい。


 世の中の不条理を味わっている気分だ。


主人マスター。如何なさいましたか?」


 その不条理の原因となった自立型魔導人形“レミヤ”は、俺の隣に来ると意外と美味いコーヒーを出す。


 結局、彼女は俺の手駒になる事になってしまった。


 安易に呼び名を与えてしまったが為に、契約を結んでしまったのは失敗である。


 名前を与えたら契約成立とか、そんなガバガバなセキュリティでいいのかこのポンコツは。


 正直、災いの種にしかならないだろうから捨てたかったのだが、捨てようとすると暴れ回るらしいので捨てるに捨てられない。


 契約者には攻撃できないと言う枷があるからまだマシだが、その枷が原因であちこちの国から追われる羽目になるのは勘弁願いたいよ。


「........やる事が多すぎて困ってるんだ。風通しの良くなった事務所バルコニーの修理に加え、どこぞのお人形さんをそばに置く羽目になったからな」

「まぁ、それは大変ですね。さぞかし聡明で可愛らしいお人形さんなのでしょう。いずれ愛着が湧きますよ」

「そうかそうか。愛着が湧いたら限界までこき使って破壊スクラップしてやるよ。俺は愛着のあるものは壊す主義なんだ」

「なんとも歪んだ性癖ですね。私で発散できるならお供致しますが?」

「........俺は人形偏愛症ピグマリオンじゃないんだ。勝手にやってろ。はぁ........」


 俺は盛大に溜息を着くと、レミヤの入れたコーヒーに口をつける。


 また問題児が増えるには増えたが、リィズレベルの問題児では無いのが救いだな。


 しかも、彼女の能力はかなり強力。ジルハード曰く、“ボスの上位互換と言っても過言では無い”そうだ。


 魔力を具現化することでありとあらゆる兵器を作り出す能力。確かに、戦闘に限って言えば俺よりも圧倒的に上位互換である。


 能力云々もそうだが、本人のスペックも合わせれば滅茶苦茶強いだろう。


 核ミサイルとか作れるのであれば、ダンジョン攻略が一気に楽になるかもしれん。


 もうお前が主人公でいいよ。


「お前はいいのか?俺達の最終目的は五大ダンジョンの攻略だ。ハッキリ言って死ぬぞ?」

「ご安心を。元々私は死んだ身ですので。皮肉にもCHクズ共から与えられたこの命。私の望む場所で散らせましょう。それが主人マスターへの忠義となります。ですが、私の人権は守ってくださいね?」

「人形も人権を求める時代か。人類の傲慢さは神にも勝るな。ダンジョンがこの地球に出現してから500年。未だに自分達が生態系の頂点に立っていると思い込んでいる」

「神は人間の創造物ですよ主人マスター。人を洗脳する良き道具ですから。イエス・キリストもムハンマドも釈迦も、この地球の歴史において最も偉大なる詐欺師としてこの世界に名を残しているのですよ」


 いや、神は存在するよ。


 俺はその言葉を飲み込んでコーヒーをすする。


 そういえば、最近ダンジョンに潜ってないな。


 やべ、神様に処されるかもしれん。五大ダンジョンの攻略がメインのはずなのに、ココ最近抗争と犬狩りで忙しかったからなぁ。


 この事務所が直ったらダンジョンに潜るか。正直もうどうでも良くなりつつあるが、やはり天罰は怖い。


“僕は頑張ってますよ”アピールしておかないと、次死んだ時が怖いしな。


 そんな事を考えていると、スーちゃんとレミヤが同時に外を見る。


 2人とも気配の感知が優れているのか、この事務所に近づく奴の気配はしっかりと把握できるのだ。


 え?俺?俺は無理だよ。“む、殺気!!”とか言って暗闇の中相手の攻撃を避けたり迎撃できるのは漫画やアニメの世界だけだと思ってるし。


「ただいまー!!今日はクソマズ飯イギリスのジャンクフード。フィッシュアンドチップスだよー」

「おかえりリィズ。また誰かに絡まれたのか?」

「うん。この街に来たばかりの自殺志願者ヒルビリーが、私を見て絡んできたんだよね」

「ほんと、相変わらず退屈しない街だ。俺が少し離れたらすぐに血の雨が降りやがる。まぁ、お陰で収支はプラスになるんだがな」

「馬鹿言えジルハード。収支は圧倒的にマイナスだよ。この事務所バルコニーの修理費が相当掛かるだろうが」

「そういえばそうだったな。今月の給料ペイは期待しない方が良さそうだ」


 返り血を頬に付け笑顔で俺に抱きつくリィズと、荒事に慣れすぎて平然とした顔をするジルハード。


 今回の犬狩りマンハントで警察、軍団、俺達の力を誇示することに成功したらしいが、どこの世も死にたがりと言うのはいる。


 お陰様でリィズは血の匂いを絶やさないし、俺も街に出ると絡まれる訳だ。


 退屈しないのは確かだが、毎回赤子が大泣する程に恐ろしい顔をするならず者達の相手をするのも面倒である。


 特にこの街に来たばかりのやつとか、鴨を見つけたと言わんばかりに喧嘩を売ってくるからな。


 俺はこの街で生きている限り絡まれ続けるのは宿命だなと諦めると、盛大に溜息をつきながら買い換えたばかりのソファーに座る。


「さて、昼飯にするか」


 さて、神様に怒られる前にダンジョンに潜るとしますかね。




【対外治安総局】

 フランスの情報機関。主な任務は、フランスの国家安全保障に関係する情報の収集及び分析・国外でのフランスに対する破壊活動の摘発及び予防、国家利益のための機密作戦の実施などである。




 1名無しの神

【朗報?】グレイ君。実は普通に強い説。


 2名無しの神

 四対一の状況で普通に勝てる辺り、雑魚って感じではなさそう。アレかな?周りが化け物すぎて弱く見えるのかな?


 3名無しの神

 相手の思考を読むのは滅茶苦茶得意っぽいな。でもそれならこんなにも面倒事には巻き込まれないと思うだけど........


 4名無しの神

 ワイヤーを使って上に逃げたように見せたのは上手かった。実践で使える玩具のレパートリーが少なすぎるけど、その中で頑張ってるのは評価できる。


 5名無しの神

 グレイ君、意外と強いんだなぁ。でも、ダンジョンではオーク相手に手こずってたから、人間に対しては強いのかね?


 6名無しの神

 可能性はありそう。本人もボードゲームとかは強いって言ってるし、大局を見極めれる程の頭は持ってないけど戦いならば相手の思考を読めるって感じなのかもね。


 7名無しの神

 有能神、そこら辺はどうなんだい?


 8名無しの有能神

 呼んだ?


 9名無しの神

 名前草。


 10名無しの神

 自分から有能神名乗っちゃってるよこの子ww


 11名無しの神

 匿名の意味ww


 12名無しの有能神

 事実だからしょうが無い。それで、何が知りたいの?


 13名無しの神

 グレイ君がなんか強い件について、どう思う?


 14名無しの有能神

 多分、親が関係してるね。この世界を管理する神にコンタクトを取れた次いでにグレイの過去を調べたんだけど、この子の父親と母親は大分変わってるよ。


 15名無しの神

 へぇ?


 16名無しの神

 ほう


 17名無しの神

 まぁ、あんな殺伐世紀末みたいな世界に放り込まれても、“どうにでもなれ”の精神で即開き直れる辺りグレイ君も変わってるもんな。


 18名無しの神

 >>17

 それな。普通の人間は、まず取り乱すし三ヶ月で慣れる訳が無いか。で、グレイ君のご両親はどんな人だったの?


 19名無しの有能神

 父親が人間心理学の研究者で、母親は普通の主婦。両親共々死ぬほどゲームの類が上手いゲーマー一家だったらしいね。グレイ君は幼少期から父親にはイカサマとトランプを習わされて、母親からはボードゲームとかテレビゲーム全般を習わされてたらしい。


 20名無しの神

 とんでもねぇ家だな。息子にイカサマ教えるとかぶっ飛んでるよ。


 21名無しの神

 どうりで相手の心理を読むのが上手い訳だ。たまにコントをやるけども。


 22名無しの神

 グレイ君からしたら、人間との殺し合いのはゲーム感覚なのかもしれんな。余っ程ぶっ飛んだ強さがあったり、グレイ君の天敵となる能力者でもない限りは相手の虚を付いて戦えるだろうし。


 23名無しの神

 少なくとも一般的な家庭とは言えんわな。どこの世界に自分の息子にイカサマを教える親がいるんだ。


 24名無しの有能神

 父親としては、子供にイカサマを教えたら子供同士の遊びで使うのか?って実験だったっぽいけどね。

 確かにちょっと可笑しい家庭ではあったけど、ちゃんと愛情を持って育てられてたみたいだよ。グレイ君の切り替えの速さは、多分親から教わってるね。


 25名無しの神

 この世界はグレイの別天地じゃったか........


 26名無しの神

 こんな世紀末の世界が別天地とか嫌すぎる。俺がこの世界に来たらもう心が折れてるね。


 27名無しの神

 >>26

 それはそう。


 28名無しの神

 でも大局が見えてない辺り、グレイ君は狭い範囲での思考の読み合いが得意なのかな?


 29名無しの神

 普通、一般高校生として生きてたら、国家を相手取って戦うことなんてねぇよ。読み合いが得意云々じゃなくて、そもそもやったことがないからよく分からないに近いと思うぞ。


 30名無しの神

 むしろやってたら怖いわ。


 31名無しの神

 それにしても、最初のテロ以上にインパクトのある事が怒らないよな。巻き込まれてはいるけど、順当に国から恨みを買ってる感じだし。


 32名無しの神

 >>31

 お前はグレイ君を殺す気か。普通は国家からも恨みなんて買わないんだよ。


 33名無しの神

 グレイ君。毎回どこかから恨みを買ってるせいで、国家から追われるのが普通になりつつある。順当に国から恨みを買うとか言うパワーワード。


 34名無しの神

 それ、普通なのか........?


 35名無しの神

 普通では無いよね。それにしても、欧州諸国の次はアジア諸国か。後はアフリカと北アメリカでコンプリートだね!!


 36名無しの神

 >>35

 コンプリートしたくねぇ。


 37名無しの有能神

 そういえば、グレイ君の最終目標って五大ダンジョン攻略だったの忘れてた。マフィアやら国家とドンパチしすぎでしょ。


 38名無しの神

 有能神様ですら忘れかけてるの草。そりゃ事務所から出る度に絡まれたりしてたら忘れるわな。


 39名無しの神

 事務所(バルコニー)


 40名無しの神

 買って1週間で天井と壁の殆どをぶっ壊すマフィア。修理業者は儲かりそうだね。


 41名無しの神

 週一で修理に呼ばれてたら儲かりそうだな。流石にリーズヘルトちゃんも毎週事務所を壊したりはしないだろ。


 42名無しの神

 リーズヘルトちゃんマジ可愛い。あの見た目、マジで好みだわ。


 43名無しの神

 >>42

 可愛いけど、中身が終わってるよ。まだレミヤちゃんの方が俺は好きかな。


 44名無しの神

 >>43

 レミヤちゃんもレミヤちゃんで終わってるんだよなぁ........“貴方が私の主人マスターですか?”とか、聖杯戦争じゃないんだぞ。


 45名無しの神

 グレイ君の完全上位互換。あれ?グレイ君要らなくね?


 46名無しの神

 機械仕掛けのn重奏ウェポンズ・アンサンブルだっけ?戦闘面においては完全にグレイ君の上位互換だよな。でも、無人島に誰を持っていくかって言われたらグレイ君一択だわ。


 47名無しの神

 火を起こせて、飲み水も出せて、食料も出せて暇つぶしのゲームも出せる。無人島に行くならグレイ君一択だわ。普通に話も合いそうだし、無人島生活も楽しくなりそう。


 48名無しの神

 戦闘を除き、全てにおいて便利なグレイ君と、戦闘においてはなんでも出来るレミヤちゃん。意外といいコンビなのかもしれんな。


 49名無しの神

 >>48

 グレイ君のパートナーはリーズヘルトちゃんだろ。ぶち殺すぞ。


 50名無しの神

 なんかグレリズ過激派が湧いてるんですけど。


 51名無しの神

 草。


 52名無しの神

 草。大丈夫。あの二人は死ぬまで一緒だよ。多分。


 53名無しの神

 既にやる事やってるしな。お互いに死ぬほど依存してそうだし、どちらかが死んだら自殺しそう。


 54名無しの神

 依存は........してるだろうな。陽の光を見せてくれたグレイ君に依存するリーズヘルトちゃんと、自分を守りつつ恩人の死を乗り越えさせてくれたリーズヘルトちゃんに依存するグレイ君。

 ジルハードも何となく察してるのか、2人が一緒にいる時はちょっと距離を置いてるしね。


 55名無しの神

 ジルハード、お前もグレリズ過激派になるんだ!!


 56名無しの神

 >>55

 クソいい迷惑だろそれ........







 コレにてこの章はお終いです。第三章にして、ダンジョンに潜らない小説があるらしい。一体どこの無理ゲーなんだ......

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る