ワイヤーって便利
ワイヤーってスゲェわ。
所詮はタダの鉄の糸。されどその鉄の糸は使い方次第で相手を殺す。
有刺鉄線なんかはいい例だろう。ワイヤーと言うか、鉄の糸を巻き付けて先端を切って尖らせるだけで歩兵を足止めできる防衛用の設備となる。
元々は動物なんかが畑に入り込んでこないようにする為のものであったが、使い方次第では人を殺す術となるのだ。
かの有名なアルフレッド・ノーベルも感心してるよ。ダイナマイトどころか、ただの鉄の糸すら戦争に用いる人間の愚かさにはね。
「お、グレネードも持ってるじゃん。また闇市で買い直す手間が省けたな」
人の肉が焼ける臭いが漂う廃墟のビルの中で、俺は死体となった黒づくめの男達から装備を奪い取る。
気分は完全に
ゲームの世界ではなく現実で殺した人の装備を奪い取るのは少々気が滅入るが、中々手に入らない軍用魔弾の使えるライフルなんかは確保しておかなけば勿体ない。
「それにしても、面白いほど綺麗に引っかかったな。能力が向上したお陰もあるけど、それ以上に相手がバカすぎた」
四人の男たちに追われた俺は、廃墟のビルに入り込むと即座に階段部分にワイヤーを設置。
現在、視界が無くとも100m程の範囲であれば好きに玩具を出し入れできる俺は、グレネードを括り付けたワイヤーを五階と六階の間にある階段に括り付け、簡単な
人間の集中力とはそう長くは持たない。
どれ程警戒心を持っていたとしても、常にアンテナを貼り続けるのは難しい。
その為、“時間稼ぎのためのワイヤーなのでは?”と思わせる為に四階まで何もせず僅かに警戒が乱れ始めるであろう五階にトラップを仕掛けたのだ。
その後、俺は光が入らない部屋の天井にワイヤーと黒いカーテンを使って潜伏。
ワイヤーを強引に天井にめり込ませ、その後天井の中で枝分かれさせる事によって忍者のように天井へと張り付いたのである。
人は死角になりやすい上を警戒しない癖がある。暗い部屋と俺を追わなければならないと言う焦りから、更に視界が狭くなればやり過ごすのは簡単だ。
バレたらどうするのかって?その時は
殺傷能力こそ低いワイヤーだが、鞭のようにしならせて先端を叩きつけるとコンクリートぐらいなら簡単に砕ける。
リィズに“最低限の火力は持っていた方がいい”と逃亡中に言われたので、頑張って考えた俺の必殺技なのだ。
悲しいことに、コンクリートを砕くぐらいではオークをすらも殺せないが。
つくづく火力が不足している。火力が無さすぎて、毎回頭を悩ませながら人の心理を使って戦うこちらの身にもなって欲しいものだ。
その後は奴らにバレないようにこっそりと後ろを着け、仕掛けたグレネードが起爆すると同時に奇襲。
全部上手く行ったから良かったが、下手をすれば俺が死んでいたかもしれないのは間違いない。
そんなことを思いながら、死体の処理をスーちゃんに任せていると1本の電話が掛かってくる。
この番号は、木偶情報屋だ。
「何の用だ?」
『いやー、態々済まないね。私へのプレゼントは有難く貰っておくよ。そっちはどうだい?』
プレゼント?何の話だ?
俺は首を傾げるが、とりあえず適当に話を合わせることにした。
「全員処理したよ。全く。1歩間違えれば俺が
『ハッハッハ!!相変わらずだねぇ。自立型魔導人形を手懐けたかと思えば、今度はCHに真っ向から喧嘩を売るんだから、そのハチャメチャっぷりには感激だよ。事を大きくしろとは言ったが、国を巻き込めとは言ってないんだがね?』
「........そうだな」
だから何の話?
国を巻き込んだ記憶は無いんですがねぇ。
アレか。もしかしてミスシュルカに任せていたが為に、何か俺にとって不都合な事が起きたな?
どうせ何を言ってもこのおばちゃも人の話を聞かないので何も言わないが、別に狙ってやってる訳じゃないからな?
本当にいい迷惑だよ。“あれ?俺なんかやっちゃいました?”とか言える余裕ねぇよ。
あのセリフが許されるのは主人公が強い場合であって、俺は精々Cランクハンターだからな?雑魚だよ雑魚。そこら辺のオークと死闘を繰り広げられるクソザコナメクジだよ。
『ともかく、こちらでも上手くやっておくよ。私個人としては、
「世界中の
『そのマトモなやつが少ないから言っているのさ。悔しかったら先ずは神に懺悔でもするんだね。そこら辺に転がる石に耳を傾ける酔狂な神が居るかは些か疑問だが』
マジで色々な所から怒られそうなことを言ってるなこのおばちゃん。なんで俺の周りにはこうも思想の強い奴が多いんだ。
一瞬“類は友を呼ぶ”という言葉が頭に浮かんでしまったが、俺は全力で首を横に振ってその思考をかき消す。
俺は、流石にここまで強い思想を持ってはいないから。右翼だの左翼だの知ったこっちゃないし、俺に関係しない人間なんざどうなろうがどうでもいい。
「やり過ぎるなよ。またケツの穴を狙われるのはゴメンだ。冗談抜きに頭にケツの穴が出来そうなんでな」
『ハッハッハ!!それは向こうの出方次第だろうね。ま、そっちはそっちで好きに暴れな。後始末はしてあげるとするよ。
おばちゃんはそう言って電話を切る。
あぁ、これは多分CHから死ぬほど恨まれるんだろうな。
俺はそう思いつつ、死体を食べ終えて満足したのかポヨンポヨンと跳ねるスーちゃんを抱き抱えると、二丁のライフルを担いで事務所へと帰るのだった。
........そういえば、事務所ぶっ飛ばしちゃったけど修理はどうしよう。
【アルフレッド・ノーベル】
ダイナマイトの開発で知られる科学者。ダイナマイトの開発で巨万の富を築いたことから、「ダイナマイト王」とも呼ばれポーマス社をただの鉄工所から兵器メーカーへと発展させた人物。“ノーベル賞”の生みの親でもあり、自分の発明したダイナマイトが戦争に使われることを悲しんだ人でもある。
CHの首都北京市天安門広場にある人民大会堂のとある一室。
そこでは中央統一戦線工作部をの頭であり、総合責任者の
「かつてはナチス・ドイツに滅ぼされた敗戦国が、生意気にも我が祖国を下に見やがって........!!今にでもPOLの首都に核を撃ち込んでやりたい気分だ........!!」
始まりは“人類永続計画”の失敗だ。
とある権力争いに負けた研究員の1人が実験台にされ、自立型魔導人形として脳を移植されたのが全ての元凶である。
彼女は優秀ではあったものの、権力争いには欠片も興味の無い人であった。
その為、欲に目の眩んだ同僚から落としめられ、挙句の果てには人では無いただの人形となったのである。
これが間違いであった。
彼女の優秀さは折り紙付きであり、自我の優先度を強引に上げてその力を自らのものとした。
隷属という名の“契約”を行う段階に入っていなかったのも災いし、研究所を爆破されてデータはほぼ消滅。
ハッキングを恐れてネット上での記録はほぼして居なかったといは言えど、最低限のデータは残っているから何とかなったが、問題はその後だ。
逃亡した人形は国境を渡り歩き、極悪都市と言われるグダニスクに足を踏み入れる。
もちろん、彼女を追いかけるために周延は人員を出したものの、POLはさほど重要な国ではなかったので派遣できる同志の質があまりにも悪かった。
その後、逃亡していた人形はマルセイユテロを起こした稀代のテロリストの手に渡り、挙句の果てにはPOL政府まで巻き込んでCHに圧力を掛けさせている。
曰く、“非人道的な研究を世界中にばら撒かれて国際的立場が悪くなりたくなければ、今後一切POLに余計な犬を入れるな。後、口止め料も寄越せ”という事らしい。
CHも何とかして時間は稼いでいるが、限界はある。そして、其の責任は中央統一戦線工作部を指揮する周延へと降り掛かったのだ。
「元はと言えば、無能な研究者どもの責任だと言うのに、その殆どがケツを焼かれて宇宙の果まで吹き飛びやがった!!お陰でこっちのケツにも火がついたとなれば、次の人民大会で俺は晒し首にされる!!クソが!!クソが!!クソが!!死ぬなら誰にも迷惑をかけずにひっそりと死ねとお袋に習わなかったのか?!全く、親の顔が見て見たいぜ!!」
周延としては、どんな手段を使ってでもPOL国内に犬を送り込みたい。が、それは国家間の関係を悪化させ最悪の場合戦争にまで発展してしまう。
現在のCHは、第一次ダンジョン戦争やその混乱による部族の氾濫によってかなり国力が低い。
更には欧州及び米国との関係もあまり良くないとなれば、戦争を起こしたとしても負けるのはCHだ。
下手に犬を入れたとして、それがバレれば今すぐにでも周延の首は跳ね飛ばされ、明日の朝刊には“裏切り者ここに死す”と名を打つ事になるだろう。
つまるところ、彼は八方塞がりであった。
「あぁ、クソ!!クソすぎてクソ以外の言葉が出てこねぇ!!グレイめ........POLから出た瞬間に肉だるまにしてゴブリンの餌にでもしてやるからな........テメェの死に顔を見た時、俺はようやく安寧の地を得るんだ」
元はと言えば、内部の問題。
しかし、その恨みを当てる先がないのであればこの面倒事に介入した者を恨むのが人の道理。
「先ずはアジア諸国に通達だ。奴らは祖国に借りがあるから、それなりに手駒になってくれるだろよう。あぁ、どうせならその身体に爆弾でも引っつけて特攻して欲しいぐらいだ。今は亡きニホンが最後の抵抗として行った
こうして、グレイは欧州諸国だけではなくアジア諸国からも本格的に追われ始める。
グレイは、また本人の知らないところで盛大な恨みを買ってしまったのだった。
【毛沢東】
中華人民共和国の政治家、思想家。1921年7月に創立された中国共産党の創立党員の1人で、長征と日中戦争を経て党内の指導権を獲得した、1945年より中国共産党中央委員会主席を務めた。日中戦争後の国共内戦では蔣介石率いる中華民国国民政府を台湾に追放し、1949年10月1日に中華人民共和国の建国を宣言した。
木偶情報屋と呼ばれる情報屋。
彼女は元
現在はとある場所に隠れ、こうしてグレイ達を陰から支えていた。
「実に面白い男だねぇ。私としてはもう少し強い方が好みだが、リーズヘルトの様に純粋な戦力では無い力を持っている。こんなにもデカイ“プレゼント”までくれるとは、中々やるじゃないか」
彼女のアジトに引き摺ってきたのは、グレイの攻撃から運良く生き延びた“隊長”と呼ばれていた男。
両足が既に吹き飛んでおり、生きていることが奇跡とまで言われそうなほど重症な彼を木偶情報屋は嬉しそうにしながらアジトの中にある拷問部屋に閉じ込めていた。
「CHから情報を引き抜くのは面倒なんだ。処置が終われば囀ってもらうとしよう」
現在CHはかなり閉鎖的な国であり、木偶情報屋の腕を持ってしても情報を抜き出すのはかなりの苦労となる。
そこまで問題となる国でも無いため放っておいたが、我が子の様に可愛いリーズヘルトとそのボーイフレンドの為ならば一肌脱ぐのもありだと言うことで本腰を入れて調べる事にしたのだ。
「あのバカにも情報を流してあげるかね。マルセイユを吹っ飛ばした奴を庇ってるのはお見通しだろうし、少しは機嫌とっておかないとねぇ」
現FR大統領とも繋がりのある木偶情報屋はそう言うと、楽しそうに今を生きるリーズヘルトを思い出しながら、グレイからのプレゼントをどう扱おうか考えるのだった。
「時の運も実力かね?だとしたら、彼は天才で天災か。ふふふ、リーズヘルトの見込んだ男はひと味違うねぇ」
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