ハローマザーファッカー
ジルハードとリィズ、そして知らない間に契約を結ばされたらしいレミヤを戦力として今回の作戦に送った後、俺は青空が広がる事務所でのんびりとタバコを吸っていた。
今回の作戦はミスシュルカが取り仕切っているし、こちらの戦力も送った。俺のようなマトモに戦えもしない雑魚が、態々戦場に赴く必要も無い。
部下に面倒事を全て任せて最前線に立たないボスに人望はあるのか些か不安になるが、最前線に立って無能を晒すよりかは圧倒的にマシと言えるだろう。
真の敵はやる気のある無能な味方ってね。
ナポレオンもいい事を言うもんだ。やる気のある無能が最も邪魔なのであれば、やる気の無い無能はまだマシに見えるのだから。
下手に関わるよりも、俺は静観していれば騒ぎは収まるだろう。
それにしても、レミヤのヤツこの2日で俺を見る目が明らかに変わっている。
恋愛感情とかそういうのでは無く、忠誠を誓うべき相手のような........そんな感じだ。
俺は
「全く、この天井の工事もせにゃならんし、面倒ったらありゃしない。そうは思わないか?スーちゃん」
(ポヨン?)
「お前だけだよ。俺の事をちゃんと理解してんのは。リィズもジルハードも盲信が過ぎる。俺はタダの人間だってのに、孔明のような策略家に間違われても困るんだよ。その身に合わない評価はいずれ身を滅ぼすと言うのにな」
(ポヨン)
「ハハハ。慰めてくれるのか?それは嬉しいが、タバコは体に悪いから食べようとしないで。この悪食ちゃんめ」
俺の頭の上でポヨポヨと揺れるスーちゃんと戯れる俺。
魔物が苦手とする臭いを放つタバコのくせに、スーちゃんに全く効果が無い。
スライムは嗅覚が無いのか?有り得そうだな。鼻とか無さそうだし。
スーちゃんは一体どうやって世界見ているのだろうか。そう思ったその時である。
外から誰かの気配を感じたのか、スーちゃんが俺の服の中に入り込んで姿を隠す。
その数秒後、ガン!!と扉を蹴破って入ってきたのは、如何にも軍人ですと言わんばかりの格好と
うーん、その格好、見覚えがありますねぇ。
2日前辺りに
あぁ、それよりも扉も完全に壊れちまったな。修理費を全部お前らに付けてやろうか。
そんなことを思いつつも、俺はこの状況がどういう事であるのかを察する。
どうも、連中は俺も標的にしていたようだ。
何が目的かは知らんが、いい迷惑である。
回れ右をしてさっさと帰れ。
俺はタバコの煙を大きく一度吐き出すと、能力である“
「
「........マルセイユテロの主犯格、グレイだな?貴様を捕縛し祖国へと移送する。下手な抵抗をしなければ、我々も強硬手段を取ることはない」
「ご注文はお決まりですか?冷やかしなら、お引き取り願います」
「貴様、この状況がわかっているのか?」
鋭い目つきでこちらを睨みつける黒づくめの男。
怖いねぇ。でも、ミスシュルカの方が何倍も怖いかな。
数多の死線をくぐり抜けてきたと思わせるだけの気迫が、こいつらには無い。所詮は
じりっと足を擦りながら近づいてくる黒づくめ。
だが、こういう時のために俺は既に準備をしてあるのだ。念の為に床下には色々と仕込んであるんだよ。俺の能力を使う事で発動出来るトラップがな。
「お客様。当店は足元が非常に危険となっております。
俺は背を向けて近くの窓ガラスから飛び出すと同時に、床下に仕込んだピンを抜いたグレネードを起爆。
戦場でもよく使われる、レバーをワイヤーで止めて相手に動かさせることで地雷として使う方法と同じやり方だ。
ココ最近、俺の能力も向上して一定の範囲内であれば視界に入らずとも動かす事ができるようになったので、こんな簡易的なトラップを仕込んでみたのである。
ドガァン!!
と、鼓膜を破るような馬鹿でかい爆発音と共に事務所の壁までもが吹き飛んでいく。
あぁ、開放感溢れる
俺は修理費が幾らになるんだろうと思いつつ、上手く着地を取ると素早く走り始める。
相手がたった二人なわけが無い。こういう手合いは、逃げられても追跡出来るようにするために何名かが周囲を囲っているものだ。
「ほら、居るし」
チラリと建物と建物の隙間から見えた黒づくめ。奴も先程吹っ飛ばした奴の仲間なのだろう。
このままリィズ辺りに泣きつこうかとも考えたが、今は無理だ。シュルカに迷惑を掛けてしまうだろうし、下手をすれば作戦を邪魔してしまう。
「面倒になったな。こんな事なら無能でも現場にいるべきだった」
(ポヨン?)
「大丈夫だスーちゃん。こちとら追われるのには慣れてるんでな。相手がリィズ程イカれた強さを持ってない限りは、なんとでもなるさ」
先程の爆発で2人は殺すまで行かずとも動くことは出来ないだろう。完全に虚を着いたし、あの一瞬で防御ができるほどの強者にも見えなかったし。
再生系の能力を持たれていると厄介だが、その可能性は切り捨てる。かなりレアな能力らしいし、そんな能力者をCHがこんな所で遊ばせる訳もないからな。
要は、コイツらは捨て駒。畑から人が取れる時代は終わったというのに、未だに彼らは学ばないらしい。
さて、どうするかねぇ。
俺はそう思いながら、今使える武器と玩具をどう使うのかを考えるのだった。
実践で使える玩具ってかなり少ないんだよなぁ........
【
いかなる兵器も魔力によって具現化出来る能力。魔力領域の拡大と魔力具現化における実験の成功により、自身の体内で兵器を作成することに成功した。が、AIが使える代物ではなかった為、生きた人の脳が必要。
消費する魔力は大きいが、魔力と物理の両方を兼ね備えた攻撃が可能でありどのような敵に対しても最低限の有効打を出すことが出来る。
“n”は1~50まであり、その数が大きくなればなるほど兵器の数が増える。が、継戦能力は低下するため、火力を確保しつつ長時間戦闘に向くのは六重奏まで。
人工的に植え付けられた能力であり、人が擬似的な神の力を手に入れたと言っても過言では無い。尚、戦闘においては、完全にグレイの上位互換。あれ?主人公要らなくね?
グレイを追い掛ける中央統一戦線工作部の四名は、廃墟となったビルへと足を踏み入れていた。
相手はマルセイユテロを引き起こした張本人であり、その実力、能力共に不透明。
更にはつい先程同僚を2人吹き飛ばし、窓の外から脱出している姿も見ている。
警戒を強めるのは当然の結果であった。
「あの役立ずが吹き飛んだのはスカッとしたが、隊長まで吹き飛ばされたとなると笑えない冗談だな。流石はテロリスト。爆破に関してだけ言えば一級品らしい」
「油断するなよ。次は俺達がニューヨーク辺りまで吹っ飛ばされるかもしれん。全身を蜂の巣にされたくなければ、しっかりと前を見て階段を上るこった」
廃墟のビルへと入り込んだ4人。彼らは、一階に標的が居ないのを確認すると階段へと目を向ける。
この廃墟から出た痕跡もなく、階段には無数に張られたワイヤー。
誰がどう見ても、標的は階段を登って行った事がよく分かる。
「具現化系の能力者か?体のどこかに隠して居たとは到底思えない量だ」
「もしくは、空間系の能力者なのかもしれんな。空間の中にワイヤーを隠し、この短時間でワイヤーで蜘蛛の巣を作り上げたとか」
「そいつはスゲェや。この蜘蛛の巣を作るのに俺達なら最短でも数分は掛かるぞ。やつがこのビルに入って俺達が入った時には蜘蛛の巣が出来上がっていたことを考えると、30秒程度で作ったはずだ。俺達よりよっぽど工作が上手いじゃねぇか」
「仮にもテロリストだ。この手の工作は得意なんだろうよ」
そう言いつつ、ワイヤーにトラップが仕掛けられてないか調べながら階段を上る登っていく彼ら。
あまりにも蜘蛛の巣が濃すぎるため、一々ワイヤーを壁から引き抜く作業が入るが、彼らの足取りは順調そのものである。
「何もねぇな。単に時間稼ぎか?」
「なら不味い。少し急ごう」
三階を超えた辺りで、一切何もしかけてこない事に疑問を持ち始める。
このワイヤーはあくまで足止めの一環であり、標的は既に逃げ出しているのではないか。そう考え始めたのだ。
一度見失った標的を再び探し出すのは難しく、更には仲間に合流されてしまえば不利になるのはこちら側。
となれば、多少のリスクは飲んででも追うスピードを早めるべき。
そう判断した彼らは、ワイヤーを雑に吹き飛ばしながら階段を駆け上がる。
そして、その思考こそが、グレイの狙っていたものであった。
4階を上がり、5階へと差し掛かる階段。コの字に折れ曲がる階段を曲がったその時、冴えない男と称された者の牙が彼らの喉元を食い破る。
ピン!!と嫌な音が耳に届いたその瞬間、前方を歩いていた2人が爆発に巻き込まれて即死。
ワイヤーとパイナップル型の手榴弾で作られた
相手の思考を読む事に関しては天才的な男の一撃は、確実に2人の同士の命を刈り取る。
「........っ!!」
階段を上がりきる前であり、コンクリートが壁の役割を果たして運良く生き残った2名。
だが、仲間の死に驚くよりも早く、グレイの次なる一手が放たれる。
目の前で爆散した同志に視線が集まったその瞬間を狙い、1番後方にいた黒づくめの1人の首元にナイフが差し込まれる。
態々声を出させないために口を抑え、丁寧に頸動脈に突き立てられたナイフ。
幾ら訓練した人間とは言えど、所詮は人間。魔力で肉体を強化しようとも、その魔力で銃弾や勢いよく刺されるナイフを弾けるのは極一部の化け物たちだけだ。
「───────がっ?!」
「
「なっ!!」
突如として目の前に現れた標的。この場で手足を吹き飛ばし、生きた状態て祖国へと帰れば最低限の仕事はしたことになる。
が、最後に生き残った彼はまだ冷静な判断ができていなかった。
急に現れた標的。
何故ここにいる?上に昇っていたのでは無かったのか?
思考がグルグルと回るが、答え合わせをする前に死神の鎌が自らの首を切り落とそうとしてきている。
死にたくない。
恐怖は人の思考を鈍らせ、その場から逃げ出す事のみを考えてしまう。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
情けなくも逃げ出そうとする生き残り。しかし、既に相手を殺すことを考えていた狩人に抜かりは無い。
グレイは奇襲を仕掛け、自分に視線が向いたその瞬間に能力を使用して大量の油とスーパーボールを地面にばら蒔いて居たのだ。
錯乱した状態では足元の確認など出来るはずもなく、最後の生き残りはスーパーボールと油によってバランスを崩す。
痛む体震えるのは、死への恐怖か。
彼は最後の希望を持って後ろへと銃を向けようとしたが、手が動かない。
ふと手に視線を向ければ、いつの間にかワイヤーが自分の手を手すりに固定されていた。
これでは狙いが定まらないどころか、まともに撃つことすら出来ない。
「ったく。なんで毎回巻き込まれるだか。今回は無能を晒さないようにお留守番してたってのに。お前らのお陰でウチの事務所は
タバコに火をつけ、大きく息を吸ってから吐き出すグレイ。
何とか逃げ出そうと身体強化をしてワイヤーを引きちぎろうとするが、それよりも早くグレイのワイヤーが彼の身体をガチガチに固めてしまった。
「やっぱりワイヤーって便利だな。使い方次第では無限の可能性がある。問題は、対人戦に限った話って所だな。魔物を殺すのには向いてない。火力不足すぎてオークすら未だにまともに殺せないもんなぁ」
グレイはそう言うと、吸い終わったタバコを油塗れの生き残りに向かって投げる。
油と火。
その2つが交わったとき、どのような反応が起こるのかは火を見るよりも明らかだ。
「
燃え盛る炎と、肉の焼ける匂い。
その中で痛みと暑さの中彼が最後に見たのは、実に面倒くさそうに死体から武器を漁る死神の姿であった。
現ファじゃね?と意見を頂いたので、ジャンルを現代ファンタジーに変更。やっぱり現ファじゃったか......
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます