冴えない男の牙


 シュルカがグレイを見て最初に抱いた印象は、“何とも冴えない男”である。


 手配書の写真を見た時から思った事ではあるが、実際に見ると写真以上に酷かった。


 アジア人の特徴を持った黒髪黒目の少年。修羅場を潜る事をしてこなかったであろう顔つきは、シュルカからすればネギを背負ってきたカモ以下に見える。


 自分の目が可笑しいのかと、部下達にもこの男の印象を聞いたが返ってきた返答は“冴えない男”が殆どだった。


 なぜこんな男の下に、この街では顔が効くジルハードが付き従っているのか理解できなかった。


「対等と言うなら、5:5が妥当なんじゃないのか?」

「........」


 明らかにこちらを舐め腐った言動。シュルカはグレイを睨みつけるが、グレイは眉ひとつ動かすこと無くこちらを見ている。


 まるで、このダンジョンの所有権に関して興味が無いかのような死んだ魚の目をしていた。


 ここで舐められては“軍団コー”の面子にも関わる。僅か三人だけのマフィアモドキ相手に、こちらがペコペコと頭を下げるようなことはあってはならない。


 例えそれが、どれだけダンジョンを欲していたとしても。


 シュルカは小さくため息を着くと、ドスの効いた声でグレイの提案を蹴った。


「ミスタ、グレイ。ダンジョンの管理には金がかかる。我々の利益も考慮していただきたい」

「なら“対等”なんて言葉を使うなよ。“傘下に起きたい”と言えばばよかったんじゃないか?」


 ピキリ。


 こちらが下手に出てやっているというのに、付け上がるグレイの言動を見てシュルカは頭に青筋を浮かべた。


 取り分2.5でもかなり譲歩しているのだ。対等というのであれば、グレイ達の取り分は1.5と主張している。


 そんなことも分からんのかこのガキは。


 生意気がすぎる態度を取るグレイを見て、シュルカの苛立ちは募るばかり。


 いっその事ここで、三人纏めて殺してしまった方がいいのでは無いかと思ってしまう。


 が、相手は100人以上を相手にしてもほぼ無傷で制圧してしまう化け物集団。武力行使に出るのは、最終手段である。


「では、3割でどうだろうか?」

「対等って意味知ってる?俺はこっからさらに吊り上げてもいいんだけど」

「........」

「ついでに言えばさ。俺は別にあなた方に管理してもらわなくてもいいんだよ。この街の勢力図とか興味無いし。このダンジョンの利益を欲しがっている奴らは多い。そっちに話を流してもいいんだぞ?」


 軍団としては、この街の支配者として全てのダンジョンを治めたい。街にあるダンジョン全てを抑えたとなれば、自分たちに牙を向ける輩は格段に減る上に擦り寄ってくる奴らも多くなる。


 が、1つでもダンジョンを他組織が持っていると、そちらに擦り寄り攻撃を仕掛けてるく可能性があった。


 軍団と言えど、戦力には限りがある。


 無駄な争いは出来る限り避けたいと言うのが本音だ。特に、兵力を最も投じたはずなのに占領できなかったダンジョンの持ち主が相手となれば。


(こちらが、意地でもダンジョンを欲っているという事が分かっている。その上で、我々の足元を見ているのか。冴えない顔をしている癖に、情勢を読むのが上手い)


 シュルカは苛立ちを隠しながらも、隣で護衛をするドリエスに母国語(セルビア語)で話しかける。


 基本的に英語とポーランド語がグダニスクの街では話される。ましてや、アジア人とブルガリア人、そしてフランス系の顔をした女に母国語は理解できないと判断したのだ。


(セルビア語)

「少尉、彼らと事を交えた場合、我々の全戦力をもってすれば勝てるか?」

「........申し訳ありません軍団長。分からないとしか言えません」


 申し訳なさそうに軽く頭を下げる少尉を見て、シュルカは目を見開いた。


 ドリエスは、自身の能力によって相手の戦力がある程度測れる。


 そんな彼が“分からない”と言うのだ。


 それはたった3人で軍団の戦力と拮抗していると言える........はずだった。


(セルビア語)

「我々と同じ戦力をたった3人で保持していると?」

「いえ、違います。分からないのです。私の能力を使っても尚、2人程魂が見えません」

「........なんだと」


冷徹な観察者ソウルオブザーバー”。


 それがドリエスの能力である。


 相手の魂を数値化して測ることができ、基本的にその数値が高ければ高いほど戦闘力が強い。


 ドリエスはこの能力を使ってグレイ達の戦力を測っていたものの、2名ほど魂を数値化できない者がいた。


(セルビア語)

「誰ができない」

「ジルハード以外の2人です。女はゴチャゴチャに混じった何かで、男はそもそも形すら見えません」

「馬鹿な。何かしらの対策を取っているということか?何時どこで少尉の能力を知ったのだ」


 二人も戦力が図れないことに戦慄を覚えつつ、シュルカはどうしたのもかと考える。


 全戦力をもってしても勝てない相手なのか、勝てる相手なのかも分からないこの状況ではどの選択が正しいのか。


 彼女がフル回転で頭を回していると、グレイが呆れた声で言う。


「おいおい。ご本人の前で堂々と襲う計画を立てるなよ。俺達と敵対したいってことでいいのか?」

「「「?!」」」


 シュルカと少尉、そしてもう1人の護衛が固まる。


 ポーランド語もブルガリア語も英語も使っていない。


 しかも、グレイの反応を見るにカマをかけた訳でもない。彼は完全にセルビア語を理解していた。


「グレイちゃん。アイツら私達とやり合う気なの?」

「俺達とことを構えた場合に勝てるかどうか話してたな。ジルハードお前、魂とやらをそ覗かれてたみたいだぞ?」

「おいおい。共産主義者コミーってのはどいつもこいつも人のプライベートを覗きたがるな。流石はユーゴスラビア社会主義連邦共和国を復活させようと目論んだ輩達だ」

「ユーゴスラビアは社会主義じゃないのか?」

「似たようなもんだろ。社会主義も共産主義も。どっちもクソだ。大人しく死んどけばいいんだよ」

「色んな所から反感を買いそうなことを言うな........で、俺達とやり合うのか?ひとつ忠告しておくが、俺が誰だかよく分かった上で喧嘩を売るんだな」


 暗に“FRの時のようにここら一帯を月の彼方まで吹っ飛ばすぞ”と脅すグレイ。


 シュルカは、背中に嫌な汗をかきつつも自らの愚行を悔やんだ。


 あれ程学のなさそうな顔をしておいて、セルビア語を理解できるとは。


「肝に銘じておこう」


 結局、交渉に負けたシュルカは全面的にグレイの要求を飲むこととなり、グレイファミリーの恐ろしさを身に染みて感じるのだった。


 こうして、グダニスクの街で起きたダンジョン抗争は、軍団が全てのダンジョンを抑え新たに街の長になった。


 しかし、その裏でわずか3人足らずのマフィアが軍団を下した事はあまり知られていない。




冷徹な観察者ソウルオブザーバー

 相手の魂を数値化できる能力。

 数値が高ければ高いほど相手の能力や力が強いことが分かる。尚、この数値に関しては純粋な者しか測ることが出来ない為、そもそも魂の無い植物等には効かない。

 グレイやリーズヘルトが数値化できなかったのも、彼らが純粋な魂を持っていなかったからである(異世界からの異物と半魔物人間の為)。




 1名無しの神

【悲報】グレイ君、知らない間にマフィアのボスになる


 2名無しの神

 テロリストの次はマフィアか。順当だな


 3名無しの神

 順当........なのか?


 4名無しの神

 グレイ君本当に運が無いな........この子厄災の星の元にでも生まれたの?


 5名無しの神

 DEU(ドイツ)で逃亡生活してた時も、有り得んくらい何かに巻き込まれてたもんな。警察とマフィアの抗争に巻き込まれたり、マッドサイエンティストの実験に巻き込まれたり


 6名無しの神

 そりゃ、あんな全てを諦めた顔をする訳だ。どうにでもなれって顔してるもん


 7名無しの神

 偶々潜るダンジョンを変えたその日に抗争が始まったせいで、ジルハードに変な勘違いされてたなw


 8名無しの神

“コイツ、実は滅茶苦茶頭のいい策略家なんじゃ........?”

 違います。ただの偶然です


 9名無しの神

 スーちゃんを手懐けた時も凄腕のテイマーだと勘違いしてたし、ジルハードは人を見る目ないね


 10名無しの神

 >>>>9

 ある意味あるだろ。結果的にダンジョンを手に入れて不労所得を手に入れた訳だし


 11名無しの神

 交渉してたシュルカって人、滅茶苦茶グレイ君にビビっててワロタ。普通に殴ればそれだけで死にそうなぐらいグレイ君弱いのに........


 12名無しの神

 神様が与えた翻訳が悪さをした瞬間だな。何処言語でも翻訳してくれる上に、その言語で話そうと思えば話せるから。本人からすれば、日本語を聞いている感覚なんだろうけど


 13名無しの神

 もしかして言語翻訳ってチートなのでは?翻訳家として生きていけるよ


 14名無しの神

 >>>>13

 マフィアの翻訳家とかロクなイメージがない


 15名無しの神

 二つ名も付いてたよね?確か“億超指名手配シリアルキラー”と“狂犬ヘルハウンド”だっけ?


 16名無しの神

 かっこいいよな。厨二臭くて俺は好きだよ。グレイ君は物凄く不本意そうだけど


 17名無しの神

 本人は巻き込まれた厄介事を処理してただけだもんな。後はリーズヘルトちゃんの手が早すぎるってだけで


 18名無しの神

 リーズヘルトちゃんの手の早さは異常。ちょっと絡んだだけで相手がミンチになるとかヤバすぎでしょ。そのせいでグレイ君があちこちから恨みを買ってるんだけど


 19名無しの神

 ま、まぁ、グレイ君を守る為だから多少は........ね?


 20名無しの神

 >>>>19

 守る所か、厄介事を持ち込んでるんだよなぁ........リーズヘルトちゃんが手を出さなかったら起こらなかった事件とかいっぱいあると思うぞ


 21名無しの神

 喜べお前達!!


 22名無しの神

 ?


 23名無しの神

 ?


 24名無しの神

 何がだよ


 25名無しの神

 私がグレイ君を転生させた神にコンタクトをとって、他の部分も見れるように頼んできたぞ!!皆が知りたがっていたFRダンジョンを吹っ飛ばした理由もある程度分かったのさ!!


 26名無しの神

 >>>>25

 神かよ


 27名無しの神

 >>>>25

 これは有能神


 28名無しの神

 んで、何があったのアレ


 29名無しの神

 隠しダンジョンで出てきた変異種オーガの事を覚えてる?


 30名無しの神

 覚えてる覚えてる


 31名無しの神

 そういえばおったなそんなヤツ


 32名無しの神

 アイツ、実はあのダンジョンのボスだったみたいなんだよね。んで、グレイ君が小麦粉をぶちまけて逃げたじゃん


 33名無しの神

 小麦粉(玩具)


 34名無しの神

 やっぱり基準がおかしいよあの能力。ワイヤーとか台車とか。どう見ても玩具じゃないだろって物まで具現化できるし


 35名無しの神

 でも、それらが具現化出来なかったらグレイ君がマジで賑やかし要因なんだよなぁ........


 36名無しの神

 グレイ君........弱すぎ?


 37名無しの神

 小麦をぶちまけて逃げた後、新人ハンターのパーティーがどうやら隠し通路に入ったみたいで、グレイ君が石で塞いだ道に辿り着くんだ。で、その先に通路があるって知ると、炎の能力を持った子が石をぶっ壊すために能力を使用


 38名無しの神

 もうオチが読めたんだけど


 39名無しの神

 >>>>38

 奇遇だな俺もだ


 40名無しの神

 そしたら、いい感じに空気と混ざっていた小麦粉に火がついてドーン!!

 いわゆる粉塵爆発が洞窟内で起きたんだよね


 41名無しの神

 その衝撃でオーガは死んだのか........


 42名無しの神

 >>>>41

 それがね。死んでないんですよ。爆破の威力には余裕で耐えたんだよね。あのオーガ


 43名無しの神

 火力不足ぇ........


 44名無しの神

 グレイ君マジで火力ないな。だからこそ、スーちゃんとか使って火力を補ってるんだろうけど


 45名無しの神

 それじゃ、何で死んだのさ


 46名無しの神

 >>>>45

 酸欠。

 粉塵爆発で一気に酸素が持ってかれたから、それで死亡。

 その際、ダンジョンはグレイ君が仕留めたって判断したみたいだね


 47名無しの神

 なるほど。これでダンジョンをクリアした理由がわかったな。そりゃグレイ君は頭がこんがらがる訳だ。トドメをさしてないんだもん


 48名無しの神

 それで何があったらFRがぶっ飛ぶんだ?


 49名無しの神

 ダンジョンをクリアしたグレイ君が既に外にいる為、ダンジョンのゲートが閉じ始める。

 たまたま近くに居たハンターが、ゲートが閉じるのを阻止しようとゲートに攻撃したみたい。そしたらあら不思議、FRの4分の1が吹っ飛んだ!!

 って事


 50名無しの神

 グレイ君関係ないじゃねぇかw

 マジでツイてないな


 51名無しの神

 これでグレイ君がテロリストになるのは理不尽で草。不憫がすぎるww


 52名無しの神

 具現化したものをそのままにしていたグレイも悪いかもしれないけど、圧倒的にゲートに攻撃したやつが戦犯なんだよなぁ。でも、ソイツら全員死んでるからグレイ君を追うしかないのか........グレイ君、運なさすぎじゃね?


 53名無しの神

 果たして、グレイ君がこの真相を知ることが来るのやら







この章はコレにてお終い。グレイ君。本当に何も関係なかった。そりゃ、驚くわけだよね。

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