運命の分岐点


 翌日、俺は朝早くからダンジョンに潜っていた。


 二年ほどは暮らせるだけの金はあるが、だからと言ってサボる訳には行かない。だって神様の天罰が怖いからね!!


 毎日面白おかしく生きて欲しいとは向こうも思っていないだろうが、最初の1週間ぐらいはアクティブに動いた方がウケもいいだろう。


「にしても、俺がチャカを持つ日が来るとはな........」


 俺は、いつでも撃てるように持っているピストルをまじまじと眺める。


 これは神様が用意していた“初心者向けダンジョンセット”に入っていた物で、お値段なんと50万ゴールド!!


 これ一つで、3ヶ月は生活出来る値段である。


 Gグロック18cと言われるピストルによく似た形状をしており、全て黒塗りの如何にもパンパン撃てるピストルと言った感じだ。


 オーストリア国家憲兵隊の精鋭対テロ部隊であるGEK COBRAがグロック社に要請して開発された、グロック17をベースとした機関拳銃である。


 と、知識では知っているがぶっちゃけ知識として知っている程度で他はまるっきり知らない。俺、ガンオタでも無いし。


 ではなぜ知っているのかと言えば、あれだ。中学二年生が掛かる病に侵されていた時期に色々と調べたのだ。知ってる方がカッコイイかなって。


 他にも、色々と変な知識ばかりが頭の中に入り、肝心のお勉強に必要な知識は全くと言っていいほど入ってこなかったが。


 なんでだろうね。英単語とかは全く記憶できないが、変な知識だったりするとスっと頭に入るやつ。きっと俺の脳内メモリは、このどこで使うか分からない知識ばかりで埋め尽くされているはずだ。


 さて、ピストルさんの話に戻るが、このピストル、実は実弾が装填されていない。


 正確には装填されているのだが、弾丸が前の世界とは色々と異なっている。


“魔弾”と言われる、魔力によって形成される弾丸を用いて相手を攻撃するのだ。使用弾薬は使用者の魔力。魔力が尽きない限り、永遠に弾を撃ち続けられる。


 装填リロードは必要で、撃ち切ると数秒のクールタイムが居るのは要注意である。


 しかし、前の世界と違い間違いなく使い勝手はいいだろう。少なくとも、俺が遊びで使っていたエアーガンよりは使いやすい。


 ちなみに、普通の銃もこの世界にはある。そっちは安い代わりに弾代がかかるが。第二次世界大戦の時にこの銃があったら歴史が変わってるかもしれないな........


「威力もすげぇし。ゴブリンの頭撃ったら一撃だ」


 ありがとう神様。これのおかげでなんとかやっていけそうだよ。物理と魔法の両方の性質を持った弾丸が弱いわけが無い。


 他にも“初心者向けダンジョンセット”には色々なものが入っており、どれも俺には有難い物だった。


 ありがとう神様(2回目)。俺、初めて神に感謝の祈りをしたよ。


「よーし、この調子で頑張るぞー」


 誰もいない森の中で、やる気の無い掛け声が小さく響くのだった。


 そしてこの日、俺の全てを狂わせる出会いがあるとはこの時は思いもしていない。




【魔弾式自動拳銃】

 ダンジョンが世界に現れてから作られた拳銃。とある天才魔道具士が発明したものであり、当時は画期的な技術として世界中を揺るがした。

 使う弾薬は使用者の魔力であり、発明された当時は魔力効率が悪く能力を使った方が強かったりもしたが、現在では様々な改良が加えられ初心者ハンターの装備の目標として掲げられることが多い。

 威力は実銃と大して変わらないが、弾代が要らないので何十年と使えれば元は取れるだろう。また、魔力を使っている関係上、物理的な攻撃力と魔力的攻撃力を持っている。




 グレイが異世界へと転生し、ルーベルトと出会ったその夜。1人の少女が街中で足を引きずりながら歩いていた。


 街灯は無く月明かりだけが道を照らす裏道には、赤く流れる血の色が混じっている。


「はぁはぁはぁ........レベゼル派のゴミ共が。権力争いに漬け込んで、私を殺しに来やがった」


 極上の絹にも見える白髪だったであろうその髪は血と泥が滲み、ルビーのような綺麗な目にはハイライトがない。服は血で真っ赤に染まり、不健康そうな白色の肌も今は鮮明な赤色がメインを飾っている。


 今にも死にそうな少女だったが、この人気のない裏路地では救いの手を差し伸べるものは誰もいなかった。


 少女は血が吹き出して止まらない脇腹を抑えつつ、壁によりかかりながらも1歩1歩前に進む。


 ここで立ち止まっては、命が無い。


 彼女はその手に持っていたUSBメモリーを握りしめ、歪む視界の中小さく呟いた。


「念の為にデータをダウンロードしておいて良かった。後は“木偶情報屋”の所に行けば、なんとでもなる........“アレ”はこんな街中じゃ使えないし、何とかして追っ手を巻かないと」


 少女がそう言って入り込んだのは、FRの大都市マルセイユにある“管理ダンジョン”。監視の目を盗んで入り込み、ある場所に向かう。


 そのダンジョンには、隠し通路がある。とある手順を踏めば出現する道であり、それを知っていた少女は手順を踏んで隠し通路を出現させた。


 出現した隠し通路は森の中にひっそりと佇む洞窟となっており、その姿はまるで大きく口を開け餌が入ってくるのを待つ獰猛な肉食獣のようだ。


「後は運に任せよう。あの兄弟もここに来るはずだ........中はかなり迷路だし“ボス”と出会う確率は低い。チッ、ご丁寧に毒まで盛ってるな。私の体内に抗体のない奴か。再生が遅いとなれば使った武器の種類は........ゴホッ」


 少女は血を吐き出すと足を引きずりながら、洞窟の中に入って行くのだった。


 この判断が、今後の彼女の人生を大きく変えることになる。




【隠し通路】

 ダンジョンに隠された通路。とある手順を踏めば出現するものや、偶然出来上がるものまで様々であり、隠し通路がないダンジョンもある。

 大抵の場合は財宝やらが眠っていたりするが、中には大量の魔物がいたりする隠し通路もあるので注意が必要だ。




 朝からダンジョンに潜り、ゴブリンをヘッドショットで殺し、解体しては素材を集めている。


 時刻は既に昼をすぎており、もうすぐ夕刻に差し掛かっていた。


「そろそろ帰るか。結局、ゴブリン以外には遭遇しなかったな」


 戦果としてはゴブリンの魔石25個、ゴブリンの牙が50個程度だった。売ったら大体2500ゴールド。日給2500ゴールドと考えると、クソみたいな仕事だな。時給換算だと250ゴールドちょいだぞ。最低賃金法はどうした。


 空間をねじ曲げて四次元ポケットなんて言う便利な物はこの世界に無いため(あるかもしれないけど持ってないし、ルーベルトに聞いた感じ多分ない)、結構荷物がかさばっている。


 異世界のド定番である、“空間魔法”とか“アイテムボックス”みたいなものが無いのは不便だな。


 いや、あったらあったで面倒事になるかもしれないから、無い方がいいかもしれん。


 そんなことを1人で考えつつ地図を見ながら森の中を歩いていると、見覚えのない洞窟を発見する。


 ........こんなところに洞窟なんてあったか?


 地図をよく見て現在地を確認するが、こんな場所に洞窟があるという記述は見られない。ルーベルトのお下がりの地図ではあるが、最新の地図の筈だから記入漏れは無いはずだ。


 となると、隠し通路なるものなのかもしれないな。俺が知らない内に手順を踏んだのか誰かが手順を踏んだのか。


 その真偽は分からないが、これはチャンスでもあり危険でもある。


 隠し通路の先には、ダンジョンからしか出土しない珍しい魔道具や金銀財宝が眠っていることもあれば、魔物だらけのクソみたいな場合も有り得た。


 危険を顧みず一攫千金のチャンスを夢見るか、安全を取って今日の所は引き上げるか。


 どちらも一長一短だ。しかし、俺にはこの洞窟に潜らなければならないと言う使命感があった。


 何故かって?決まっている。天罰が怖いんだよ!!


 ここで一攫千金のチャンスをものにしても多少は面白いだろうし、魔物だらけのハズレを引いたら尚面白い。


 神に行動を決められるのは極めて不本意だが、“人生全てが暇つぶし”が座右の銘である俺がこんな一大イベントを見逃すてはなかった。死んだら死んだでその時だ。元々1度は死んだ身だし、大丈夫!!


「中に照明らしきものは無いから、明かりがいるな」


 俺は“初心者向けダンジョンセット”の中に入っていた乾電池で動くライトを手に持つと、銃を構えながら洞窟の中に入っていく。


 なんか、特殊部隊の潜入調査をしている気分だ。厨二病心がくすぐられるな。


 来た道を忘れないように目印を立てつつ、俺は奥へ奥へと進んでいく。途中で分かれ道があったりもしたが、必ず迷わないように1番左だけを選んだ。


 これで、帰りは右を選べば問題ないはずである........無いよね?


 若干不安に思いつつ左へ左へと進むと、衝撃的な光景が目に入ってきた。


「お、おい!!大丈夫か?!」


 全身血塗れの少女。


 洞窟の壁にもたれ掛かりながら、体育座りをしている。流れ出した血はかなりのもので、小さな赤き池を作っていた。下手をしなくても死んでいてもおかしくない。


 俺は、周囲の警戒も忘れて血塗れの少女に近寄る。


 ここにルーベルトが居たら怒られていただろう。怪我人がいるということは、近くに魔物がいる可能性がある。周囲の警戒を怠るなと。


 まぁ、それ以前に危険を顧みずに発見されていない洞窟に潜るんじゃねぇと言われそうだが。


 しかし、俺はまだまだハンター初心者。そんな事は頭からすっぽ抜けていた。


「おい!!しっかりしろ!!」

「ケホッ........組織の追っ手か........」


 血塗れの少女は、今にも死にそうな声で何かを呟く。


 何を言っているのか分からなかったが、どうやら意識はあるようだ。


「血ぃ流しすぎてるな。こういう時は治癒ポーションだったか」


 生きている事で多少の冷静さを取り戻した俺は、バックパックの中から中級治癒ポーションを取り出す。


 ポーションというのは、様々な効力を持った液体だ。俺は、某四角い世界の有名ゲームに出てくるポーションと同じ様なものだと認識している。アレだ。ネザーでロッドとウォートを手に入れて作るやつ。


 今回はその様々な効力を持った液体の中でも、治癒に長けたポーションを持ち出した。これも“初心者向けダンジョンセット”に入っていたものである。


「えっと、確かこの液体を飲むかかければよかったな。おい、傷を見せてみろ」

「........」


 何も言わず動かないので、仕方がなく俺は少女の手を動かして傷口を見る。


 傷口はかなり酷く、血が吹き出して止まっていない。これだけ血を流せば死んでいてもおかしくは無いのだが、よく生きてるな。


 そして、2日目にして人の生々しい傷を見ても平然としている自分に驚く。


 慣れるの早すぎやしませんかねぇ。


「痛むかどうかは知らんが、我慢しろよ」

「........ッ」


 俺がポーションを振りかけると血塗れの少女は少し体をビクッとさせ、しばらくの間息が荒くなる。


 そうしている間にも、みるみるうちに傷は塞がり始め30秒もあればそこには白く綺麗な肌が........無いな。血で赤黒く汚れてるわ。


 俺は治癒ポーションをもう一つ取り出すと、少女の息が整うのを待ってから“飲め”と言わんばかりに押し付けた。


「........貴方、誰?」


 まだ途切れ途切れでいきが若干荒いながらも、半開きの目でこちらを見て質問してくる。


 その目は、答えようによっては俺を殺すと言っているような気がした。


「おいおい。助けてやったのに礼も無しか?俺はグレイ。遂昨日上京してきたばかりの、初心者ハンターだ」

「グレイ........貴方、ハンターの登録証は持ってる?」

「あるぞ。ほら」


 俺が登録証を見せると、少女はその登録証をじっくりと見ては俺の顔を見る。


 数度それを繰り返した後、彼女はぺこりと頭を下げた。


「ありがとう。ポーション、助かった」

「そりゃよかった。その手に持ってるポーションも飲んでおけ。1番深そうな傷は癒えたが、他にも傷だらけだからな」

「そうす──────────チッ」


 少女が何かを言いかけたその時、少女は小さく舌打ちをする。


 なんだ?俺に舌打ちをしたのか?だとしたらすごい二重人格だな。


「グレイ。今すぐ逃げて。ヤバいのが来る」

「あ?何を言って──────────」

「グオォォォォォォォォ!!」


 突如として発せられた洞窟内全てを揺らすほどの咆哮。その咆哮1つで、大体のことは察してしまった。


 あーハイハイ。このパターンね。なんとしてでも逃げないと死ねる奴だコレ。




少しタイトルを変えました。

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