ハードモードかもしれない
ルーベルトから色々と教わった後、遂に人生初めての魔物討伐を行うことになった。
さて、異世界ファンタジーにおける主人公が一番最初に討伐する魔物と言えば?
そう、ゴブリンである。
え?“スライムも居るだろいい加減にしろ”って?そんな人はドラ〇エのやり過ぎなのでゴブリン〇レイヤーを読みなさい。
そんな訳で、俺が最初に倒す事となった魔物であるゴブリンだが、見た目が正直怖い。
デフォルメ設定をし忘れたリアルなゴブリンは、その醜い顔と鋭い牙が相まって正しく“魔物”と呼ぶに相応しい見た目をしていた。
小柄の二足歩行で人に似た部分もあるのかと少し期待していたのだがそんなことは無いく、ただただ醜いだけの緑色の肌をした気持ち悪い怪物である。
「どうしたグレイ?ゴブリン如きにビビったのか?」
俺の顔が引き攣って見えたのだろう。ルーベルトはニヤニヤしながら俺を見る。
魔物に怯える子供を見物にする悪い大人だ。地獄へ落ちてしまえ。
俺は右手に棍棒を持った恐ろしいゴブリンがいつ襲ってきてもいいように身構えつつも、ルーベルトに頑張って貼り付けた笑顔を見せてやる。正直、ビビり倒していたが、それでもここで引く訳には行かなかった。
「舐めんなよ。この程度でビビるほどお子ちゃまじゃないんだよ」
「ほう?そいつはよかった。ここで小便ちびられてアンモニア臭を散漫されたら、俺が漏らしたとでも言われるかもしれないからな。イエス・キリストの生まれ変わりと言われる俺でも、流石にその屈辱には耐えられん」
「ルーベルトは一遍キリストに謝ってこい。そして、辞書でイエス・キリストを調べ直すんだな」
俺の緊張を解してくれようとしたのか、ルーベルトがとんでも無い事を言う。
俺がキリスト教の信者だったら、どうしたつもりなんですかねぇ。
転生するにあたって神の存在を信じることにした俺ではあるが、神を信仰している訳では無い。良かったな。俺が信者ならば今頃ゴブリンそっちのけで殺し合いをしてるところだぞ。多分負けるけど。
そんなやり取りをしている間もゴブリンは大人しくコチラを見ているだけであり、特に襲ってくることは無い。
いいね。空気の読めるゴブリンは嫌いじゃない。きっとコイツは魔法少女の変身シーンとかでも待っててくれるタイプだ。
「初めて魔物に立ち向かう
「無い。ゴブリン如きに殺られて死ぬなら、死んだ方がマシだろ。相手が複数ならともかく、一体だけなら尚更な」
なんて酷いベテランハンターなんだ。そこは適当でもいいから何か言うところだろうに。
俺は若干呆れつつも能力を発動させる。ほんの僅かに身体から魔力が抜け落ち、魔力が形を作っていく。
「“
作り出したのは金属バットだ。子供の頃に町内会のソフトボール大会で使った事がある。
金属バットって玩具に入るの?と思われなくもないが、玩具の定義なんて本人次第なんだから大丈夫なんだよ。
子供用の金属バットの為か、少し小さめの金属バットではあるが小回りが効きやすく振り回しやすい。格闘が素人の俺には丁度いい武器になるだろう。
俺が具現化させた金属バットを見て、ルーベルトは感心したかのように小さく声を上げた。
「ほぉ、具現化系の能力者か。しかも具現化速度がとんでもなく早いな」
「そりゃどうも。ちなみに、このバットであのゴブリンを撲殺できるか?」
「グレイ次第だな。身体強化は使えるのか?」
「多分」
「使えるなら問題ないだろ。あとは好きに殺れ」
最悪ゴブリンに殺されそうになれば、ルーベルトが助けてくれるだろう。
ここまで面倒見てきて、魔物に殺されそうになった瞬間に見捨てるとか流石に無いと思いたい。........無いよね?あったら人間不信になりそうだ。
俺は手に持った金属バットを両手で持つと、目の前のゴブリンと対峙する。
ここまで大人しく待ってくれた空気の読めるゴブリン君には悪いが、ここで大〇翔平並の特大ホームランをかまさしてもらうとしよう。もちろん、ボールは
「グギャキャ!!」
攻撃してもいいと感じ取った空気の読めるゴブリンは、その右手に持った棍棒を大きく振りかぶって襲って来た。
その殺気と凶悪な顔面に、思わず体が止まってしまいそうになるがここで止まってしまっていては今後生きていくのは難しい。
身体に魔力を循環させ、身体強化を行い自身の身体能力を1段階上へと引き上げる。
俺は縦に振り下ろされた棍棒を横にステップして避けると、振り下ろした体勢の為がら空きになった後頭部へ思いっきり金属バットを振り下ろした。
ゴン、グシャッ。
金属バットが頭に直撃する音と同時に、ゴブリンの頭が潰れる。
脳髄やら血やらが飛び散り平野に生える草を赤く染め、臓物の匂いと血なまぐささが鼻につく。
うへぇ、グロい。
某傘の仮想企業が作り出した生物兵器をぶち殺すゲームでグロい耐性はそれなりに付いていると思ったが、匂いまで再現されると中々くるものがある。
「どうだった?」
俺は吐き出したい気分になりながらも、後ろで腕を組んで俺を見つめるルーベルトに話しかけた。
ゴブリンの死体なんぞ見慣れているであろうルーベルトは、平気な顔をしながらウンウンと頷きつつゴブリンの死体に近寄る。
「まずまずだな。身体強化も使えるようだし、
「へぇ?顔色が悪くなってないのか。今にも吐きたい気分なんだがな」
「吐いてもいいぞ。初めての殺しってのは屈強な人間でも辛いものだ。大きくなって命の価値を知るからな。何も知らない純粋なガキの方が残酷だってのは、あながち間違いじゃぁない。それか、頭のネジがぶっ飛んだ殺人鬼ぐらいだ。喜べ。お前は命の価値を知っている」
「........ルーベルトも辛かったか?」
「残念ながら、俺は命の価値を知らなかったガキの頃に人を殺したんでな」
サラっととんでもない事を告げるルーベルトに、俺は軽く目を見開く。
俺の表情を見ていないだろうに、ルーベルトは俺の表情を見たかのように言葉を続けた。
「驚いたか?昔色々とあってな。とは言っても、親父がクズだったって話だ。どこにでもある
何も言えない俺。
ルーベルトは、俺からの返事を期待していないのか勝手に話し続ける。
「覚えておけ。この世には殺した方が良い奴がごまんといる。命の価値を知っていようが、殺す時は殺せ。慈悲を与えるな。同情するな。例え相手がガキであろうと、殺すべき奴は殺すんだ。1度でもしくじれば、次に食われるのはお前だぞ」
「........覚えておこう。偉大なるベテランハンターからの忠告だからな」
俺はそれ以上何も言えなかった。
【通常種ゴブリン】
緑色の肌と小柄な体型が特徴的な亜人種ゴブリン科に分類される魔物。小柄ながら、その力は大人の男並にある。ダンジョンによって持っている武器などが違ったりするが、基本的に見た目は同じ。知能は低いものから高いものまで様々であり、亜人種ゴブリン科はかなりの数の種類がある。ゴブリン科の説明だけで広辞苑並の本が作れる。2本生えた鋭い牙と心臓部にある魔石(人間で言うところの心臓)が売れる。
少し暗い話をされた後、ルーベルトは普段通りに戻り色々と教えてくれた。
ゴブリンの売れる部位やこのダンジョンにおけるゴブリンの注意点などなど、為になる話ばかりをしてくれたので俺としてはかなりの収穫だった。
特に、ダンジョンによってゴブリンの種類や特性が違うと言うのは驚いた。
「さて、そろそろ帰るか。帰りにババァの所からタバコも買わねぇといけないしな」
「助かったよ。一人で来てたら間違いなく困ってた」
「ふはは。俺も一人で上京してきた時は困った事ばかりだったな。お前は運がいい。最初のダンジョンをベテランに見て貰えたんだからな」
ルーベルトとそう話しつつ、俺達はダンジョンの外に出る。
先程まで平原が広がっていたと言うのに、ダンジョンのゲートを潜ったその瞬間視界が切り替わる感覚はやはり慣れない。これも何度も経験すれば慣れるのだろう。
ルーベルトと俺は、ダンジョンの横にある国が運営する買取口に行くと、空いていた窓口に並んだ。もちろん、誰もいないので待ち時間はゼロである。
「おん?ルーベルトじゃないか」
「よう。買取いいか?」
ルーベルトはそう言うと、今日狩ったゴブリンの魔石と牙をカウンターに放り投げた。
随分と雑なやり方だなと思ったが、受付の男は文句を言わずに魔石と牙を手に取ると品質を確認しているのか色んな角度からそれを眺める。
「こっちは綺麗だが、こっちは下手だな。その隣にいる坊主がやったのか?」
「あぁ、初めての魔物解体さ。色をつけてくれよ?」
「初めてなのか。ソイツは色をつけてやらないとな。ハンターなんて危険な職業に着いた若き種を干からびらせるのは本意じゃぁない」
受付の男はそういうと、金を数えてカウンターに放り投げた。
なんというか、さっきから雑だな。この世界だとコレが当たり前なのか?
「魔石と牙、2セットで300ゴールドだ。坊主のは下手すぎて本来なら100ゴールドだが、今回は色を付けてやろう。次はもっと上手く剥ぎ取れよ」
「ベテランの教え方が悪かったのかもな」
「おいおい俺のせいかよ。こればかりは慣れだぜ?」
ルーベルトは金を受け取ると、俺に全て渡してきた。
「明日からは自分でやれよ?ママの胸にしゃぶりつく程ガキじゃないんだからな」
「ルーベルトがお袋とか吐き気がするな。初めてゴブリンを殺した時よりも吐きそうだ」
簡単な罵りあいをしながら、窓口を離れるとルーベルトは少し真面目な顔をして忠告してきた。
「気をつけろよ。国が運営する買取とはいえ、不正は当たり前のようにあるからな。今回は俺が居たから問題なかったが、新人は騙しやすいし騙されやすい。お前の取り分をこっそり懐に入れるやつも多いから、適正価格は知っておけ」
「そいつは怖いな。不正はどこでもあるって訳か。ところで、適正価格はどうやって知るんだ?」
「俺が教えてやるよ。国や地域によって多少違うが、大きく変わることは殆どない。何度も言わないから気合いで覚えろよ?」
「家に帰ってからでいいか?メモを取っておきたい」
「........真面目だな」
いや、1度しか言われず、忘れそうな事ならメモを取るでしょ普通。
それが自分の生活に直結するなら尚更だ。
俺は記憶力がいい方じゃないからな。メモをしっかりと取っておくことは大事である。
「あぁ、それと、負傷者が出てもダンジョンゲートの横にあった治療室に駆け込むなよ?自分達で担いで病院に行くんだ」
「なんでだよ。その1秒で生き死にが変わるかもしれないんだぞ?」
「だとしてもだ。あそこは基本的にコネで入ってきたヤブ医者しかいないし、何より何度かやらかしてる」
俺が首を傾げる。
やらかしてるって何の話だ?
俺の心の疑問を読み取ったのか、ルーベルトはそのやらかしを言ってくれた。
「治療した女を強姦するような施設に仲間を預けたいか?その他にも、新人に高い料金を吹っかけたり、誰でもできる手当を治療と言い張ったりと酷いもんだぞ」
「は?そんなので国の公共機関として活動してるのか?」
幾ら国が運営しているからと言って、そんな蛮行が許される訳が無い。
と言うか、国が運営しているなら尚更ダメだろう。
「言っただろう?コネだけのクズが入ってくるんだよ。この国の大統領はハンターを大切にするいい大統領なんだが、その下が皆同じ思想だとは限らねぇ。寧ろ、ハンターは使い捨ての労働力と考えている奴が殆どだ。だから、ゴミを押し付けてくるんだよ」
「だからと言っても、それは酷すぎるだろ。警察にしょっぴかれたりしないのか?」
「コネがあるって事は、それなりに偉いやつなんだよ。主に親がな。大抵の事は揉み消されて闇に葬られる。あまり噛み付くと、
それ、殺されるって意味じゃねぇか。
想像以上に治安が悪い。治安がいいと言われているFRですらこれなのだから、他の国はもっと酷いのだろう。
シャレになんねぇぞ。
俺は引き攣った笑みを浮かべながら、声を絞り出して言った。
「クソッタレだな。腐りまくってやがる」
「全くだ。まだ酔いつぶれてあちこちに吐いた跡がある酒場の方がいい匂いがする」
この世界、俺が想像している以上にハードモードかもしれない。
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