ベテランハンター
俺氏、初手詰みで対戦ありがとうございました。
某HA☆NA☆SEなカードゲームで言えば、ガチガチの先行妨害デッキ相手に誘発引けてない気分だよ。え?初手に誘発握ってないのはプレミですよって?そんな運命力を毎回しているわけないだろいい加減にしろ。
神様は、確かに俺にチート能力をくれるとは一言も言っていない。言語能力に関する能力は授けてくれたが、だからと言ってメインとなる能力も強くしてくれる訳では無いとはわかっていたが、ここまで酷いのはさすがに困ってしまう。
改めて能力を確認してみる。
“
能力としては、小学生の頃までに遊んだ玩具をその魔力によって具現化できる能力。
うん。詰みです。お相手先行四妨害こちら手札事故レベルだ。
神様に植え付けられた常識として、この能力は具現化系の能力に分類されるらしい。某休載が十八番な漫画の設定にある、念能力と同じように捉えて問題ないだろう。魔力は能力を発動する際に必要な動力源。つまり念と同じだ。
この魔力は、使い方次第では己の身体に纏って身体機能を何倍にも跳ね上げることができたり、その魔力を“気功”と言う特殊なエネルギーに変えて更に力を増大させる技術もある。しかし、それらは戦闘センスが問われ、平和な日本で順当に帰宅部高校生をやっていた俺に才能はない。
小学生の頃に色々とやってみたが、ゲームや小手先の上手さ以外ではどれも平均並だった。容量がよく、必要最低限のレベルには直ぐに到達できるのだが、その先の壁を超えることが出来ない。所謂、典型的な器用貧乏である。
「この能力でどうやって“五大ダンジョン”を攻略するんだよ........」
俺は神様から“五大ダンジョン”の攻略を課題として出されている。
神様は“自由に生きてくれるだけでいい”などと言っていたが、俺が異世界に飛ばされた理由を思い出して欲しい。
”おめでとう!!君は私達、神々の遊戯に選ばれた!!”
ここで言う“遊戯”とは、恐らく俺の生き様を見守ることであり、神様は俺が神様を楽しませるだけの生き方を期待しているのだろう。
その目標の1つとして出されたのが“五大ダンジョン”の攻略。
方法は問われていないので仲間を集めたりするのは問題ないと思うが、攻略そのものを放棄するは流石に恐ろしい。
相手は神様だ。俺を転生させた事から分かる通り、その気になれば詰まらない生き方をする俺に天罰を下す事だってできるだろう。それはきっと、死ぬよりも恐ろしく辛いことが待っているに違いない。
「まぁ、やってみれば分かるか」
人間、諦めが肝心である。こういう時は、いっそのこと開き直って“死んだら死んだでその時”と割り切った方が気が楽だ。
“人生全てが暇つぶし”が座右の銘である俺らしい生き方じゃないか。暇つぶしに、世界最高峰のダンジョンを攻略してやろう。
掌に具現化したままの猿が、俺を応援するかの様にそのシンバルをパシパシと叩く。
お前、よく見ると顔が怖いな。
【
小学生の頃に遊んだ玩具を具現化させる能力。
消費魔力が少なく、具現化速度が早い。また、具現化させた物は多少のことならば遠隔操作することが可能。
本人の成長と共に出来ることも増えるが、ぶっ壊れ能力にはならない。
尚、玩具の定義は主人公次第であり、文房具や日本の通常硬貨など様々な物が具現化できる。
さて、能力についてある程度検証した俺は、この世界の街並みや雰囲気を見るために外へ出ることにする。
食料なども数日分は冷蔵庫(らしきもの)に入っていたが、それが尽きれば買いに行くしかない。街並みや雰囲気を感じつつ、日常生活で必要な施設や暗黙のルールなどを覚えていかなければならなかった。
「おぉ、こんな所で近未来感を感じるとは........!!」
俺は、部屋を出た後に自分の魔力に反応して勝手に閉まるドアを見て、少し感動した。
近未来的なこの世界では魔力についてかなり調べられており、その特性やそれを生かした“魔道具”と呼ばれる道具まで開発されている。
そんな魔力の特性の一つに、“魔力には個々の波長が存在する”というものがあった。
これはその説明の通りであり、その人に宿る魔力にはそれぞれ違った波長があって、世界中を探しても同じ波長の者は存在しないと言う。人の指紋と同じようなものだと考えて問題ない。
この平行世界の地球では、その波長を個人の鍵としてその波長以外に反応しない魔道具なんかも作られていた。
このドアとかいい例だな。
魔力を登録し、その魔力に反応して開閉することが出来る。その権利はその部屋に住む人に委ねられるため、友人や恋人にはドアを開けれるように登録することも可能だ。
前世にも指紋認証したり網膜認証などをしてロックが解除されるドアなどはあったが、ここまでスムーズにはできないし何より偽装が難しい。
魔力の波長というのは、とても細かく再現がとてつもなく困難だと言う。俺は植え付けられた知識しか無いため詳しくは分からないが、どうも波長には長さや波の大きさまで様々らしくその組み合わせは無限大だとか。
無限の中からひとつの正解だけを取り出すというのは、難しいなんてもんじゃない。人間の放つ魔力の波長は特に複雑で、再現は現代の技術では不可能なのだとか。
まぁ、魔力の波長は国によって管理されていたりするから、そこから盗み出してしまうと犯罪し放題になってしまったりする辺りは前世と変わらないだろう。
「お、昨日引っ越してきた新人か?」
俺が家を出ていくタイミングで、同じく家を出てきた白髪のオッサンが俺を見て話しかけてくる。
俺の左隣のお方か。
髭を生やしたガタイのいいおっさん。白髪はオールバックにしており、少し肌は焼け気味。強面ではあるが、子供に泣かれるほどではない顔。その顔の節々に小さな傷が幾つかあるあたり、歴戦も猛者と言う名が似合いそうだ。
ちなみに、俺は昨日このアパートに引っ越してきたことになっている。人の記憶すらもいじれるなんて、神様パワーってすげー。
俺は話しかけられたので、簡単な自己紹介をする。
「初めまして。俺はり────────
危ない危ない。間違って前世の名前を名乗るところだった。
純日本人がいないこの世界で、日本の名前は目立ちすぎる。それに、俺のハンターネームは神様が俺の名前に使われている漢字から“グレイ”と既に付けられていた。
神様に名前を決められるとか、縁起が物凄くいい気もするが信仰心というものが無い俺には“へー、この名前で生きてくのかー”程度にしか思わない。
この名前に慣れるのも大変そうだな。
俺の礼儀正しい挨拶を聞いたオッサンは、どこか感心したかのように俺を見つめながらにこやかに右手を差し出した。
「最近の若者は礼儀がなってないやつが多いが、お前は違うみたいだな。俺はルーベルト・ガッデムだ。ルーベルトと呼んでくれ
「ルーベルトさん、ね。俺は人の名前を覚えるのが苦手だから、ちょいちょい間違えると思うがそこには目を瞑ってくれると嬉しいな」
俺は差し出された右手を握り返すと、ルーベルトのオッサンはその強面に似合わない爽やかな笑顔で笑う。
ハードボイルドなおっさんかと思ったが、その笑みを見るに気のいいオッサンって感じがするな。
「フハハハハ!!中々面白い奴じゃないか。ハンターランクは幾つなんだ?」
「Eですね」
「まだハンターになりたてか。本当にガチガチの
この世界でダンジョンに潜るハンター達には、それぞれ“ランク”と言うものが存在している。
1番下からE,D,C,B,A,Sとあり、1番上のSランクハンターともなれば、世界を代表する最高峰のハンターとなる。
このランクは、蓄積されていく功績によって上がっていくものであり、安全マージンをきっちり取ってダンジョンに潜っていればCランクまでならば行けるそうだ。
Cランク以降は、ダンジョンに潜るだけではランクが上がらない。
Bランク以降のハンターは、様々な試験が必要となるのだ。功績も今までの比ではない程必要になる為、グッと数が減る。
さらに、強さも必要になってくるのでCランクは中堅、Bランクからはベテランと言う認識がこの世界での常識であった。
「そう言うルーベルトさんはどうなんですか?」
「俺はBランクだな。あぁ、あと敬語は使うな。呼び方はルーベルトでいい。
どこの世界のヤクザなんですかねぇ。
元々戦闘をする事が仕事であるハンターは、気性が荒いものが多いというのは知識として頭の中に入っているが、そこまで荒いとは思ってなかった。
舐められたらお終い。どこの世界でもその
日本人気質の俺には、少し厳しい世界かもしれない。16年間生きてきた考え方をそう簡単には変えられないのだ。
後、この世界にも13日の金曜日って映画があるのか。あの映画が公開されたのって1980年代だったと思うのだが、この世界では違うのだろう。だって1972年に第一次ダンジョン戦争起こってるし。
まぁ、深く考えるのは辞めておこう。こう言う
「そうか。気をつけるとするよ」
欧米と異世界の交じった言い回しで忠告してくれたルーベルトに素直に礼を言う。今後、舐められる様な真似はしない方がいいというわけか。頭を下げてやり過ごすよりも、突っかかって殴り合いになった時の方が賢い場面があるとなるとつくづく日本人気質が足を引っ張る。
ハンターの仕事向いてなさそうだなとは思うが、やらねば待っているのは神からの天罰だ。最悪ゴブリンの棍棒をケツにぶち込まれても、やらねばならない。
「それにしても、ここら辺じゃ見ない顔だな?両親はCN(中国)か?」
「悪いがそれは俺にも分からないんだ。俺は孤児だからな」
咄嗟に嘘をついた。親を知らないとしておいた方が何かと都合がいいのと、俺の親は両方とも純日本人である。
この世界のCN系の顔を見たことがないのでなんとも言えないが、俺の想像するCN顔だった場合その顔の質はまるで違ってくる。
もし、それを指摘されてしまうと面倒なので“親は知らない”設定の方が楽なのだ。良かった。外で話しかけられた場合を考えて、多少の設定を考えておいて。
今はその場をやり過ごせればいいが、後で詳しい設定も考えておこう。大抵は“分からない”とか“言えない”とかで、過去が分からない系キャラを演じれば何とかなりそうではあるが。
ルーベルトのおっさんは、俺の返答を聞くと苦い顔をして素直に軽く頭を下げた。
「悪かった。嫌な質問だったな」
「気にしなくていいさ。生みの親の顔なんざ覚えてないからな」
本当は覚えているが、覚えてないことにしてしまえ。すまん、お袋親父。
そういえば、向こうの世界でお袋と親父は俺の死を悲しんでくれるのだろうか。分からないな。一般的な暖かい家庭とは少し違った家庭だったし。
2人とも趣味に生きる人間だった。趣味が同じという訳でもないのに、なぜ結婚したのやら。
「そう言ってくれると気が楽だな........そうだ。詫びと言ってはなんだが、グレイ。お前この街は慣れてないだろ?」
「来て一日目で慣れてる奴の方が珍しいな」
「なら案内してやるよ。
「少しは」
「なら、行こう。余った時間で、ダンジョンの基礎でも教えてやるよ。まだ潜ってないんだろ?ダンジョンは」
それは有難い。
一般的な知識は知っているが、知っているのと実際に見るのとでは話が違ってくる。
特に、生き物を殺す事など殆ど無かった俺が魔物を殺せるか等は不安の種の1つだった。
それをベテランハンターの監修の元行えるのは、今の俺にとってはありがたいことこの上ない。
俺は笑顔を浮かべると、ルーベルトのおっさんに向かってこう言った。
「あぁ、頼むよ。ベテランハンター」
【13日の金曜日】
1980年に公開されたアメリカ映画。ジェイソン・ボービーズというキャラクターが殺人者、または殺人の動機として登場する。ホッケーマスクを被ったその姿は、ホラーや大衆文化において最も認知度の高いイメージのひとつとなっている。
人気作なだけあって続編が作られ続け、現在までで12作品も出ている。
ちなみに、当時の映画批評家の中では不評だったそうだ。
今日の更新はここまで。後はストックが尽きるまで一日一更新(0時頃)で行きます。
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