274.誓い

 王族の末席! ヤバっ! と思っているうちに、みんなが大満足の会食は終わった。お開きになるかと思ったが、片付けられてそのままお話に突入だ。

 北との外交、妊婦受け入れについてはかなり考え込んでいた。まあ確かにいきなりは難しい話かもしれないが、今やらないとこの先受け入れることはないだろう。そして北の捨て身の戦いが始まる。

「すでに一人、ディーラベルで母親と新生児を受け入れました。彼女たちを返しに行くときに、話をするのはどうでしょう」

「冬を越して、春になったら、か……時間がないな」

「受け入れる側の準備もあります。住まいもですが、産婆や医者も用意しなくてはならないし、通訳が必要です。落とし子ドゥーモが快く引き受けてくれるか……」

 エセルバートの説明に難しい顔をしているが、そこら辺は簡単に問題解決する場所があるし、皆薄々気づいているのだろう。あとはそちらで考えてほしい。

 ので、とりあえず絶対言っておかないといけない案件を持ち出すことにした。

「陛下にお願いがあるんですけど、よろしいですか?」

「ああもちろん。そなたの願いは極力叶えたい」

「リュウが、クッキーを気に入っているのです」

 そう。シーナが大祭ごとに来ると約束したが、五年も待てるかが不安だ。呼び出しがかかったり、来ちゃった、なんて言われるのも恐ろしい。

「クッキーのレシピを聖地の料理人に教えてもらって、祈りの広場にでも祭壇を作って十日に一度くらい、十枚ほど供えてもらいたいのです」

「もちろんだ! それは重要だな……」

「どんな風にレシピを渡すかはお任せします」

「ふむ、レシピの売買は大金貨三十枚かかるのだが……」

 【五葉】がそれぞれ三十枚、と呟く。

 まあもともと他所へ教える気がない料金設定だ。

「あまり回数を増やすと慣れて飽きられると困るので、回数と枚数は厳守で。ちょっと物足りないくらいがいいかと」

「そうだな、我らもたまに食べるからなおのこと美味しいのだ」

 王妃も王女も頷いている。

 ちなみに王女様、今度の春にご結婚らしい。

「ではこうしよう。リュウ様への供え物であるから、今回はレシピは無料で下賜する。が、もしこのレシピが流出した時は、罰金で【五葉】それぞれから大金貨三十枚を徴収しよう。どうだ?」

「さすがは陛下素晴らしい采配だと思います」

「シシリアドの取り分は王家から支払う」

「いえ、今回はなしにしましょう。その代わり漏れたとき半分ください」

 そっちのほうが美味しい。漏れなければそれはそれで本来はシーナが頼まれるクッキー作りを肩代わりしてくれるわけで、助かる。

「そなたは本当に、商売上手だな」

 王はとても満足そうだった。


 三日後、アルバートがしっかりと目を覚ましたと連絡があったのでルンルンで救護室へ向かう。送ってはもらったが、バルとヤハトはまた後で来ると帰って行った。気遣いが過ぎる。

 日課になったタムルへの祝福をする。かなり顔色が良くなってきていて、昨日少し目も覚ましたそうだ。

「アル?」

 横になって目を閉じていたのでまた寝たのなら起こしたくないなと思っていたが、シーナの呼びかけでゆっくりと目を開いた。

「シーナ、どこも怪我はない?」

 目を合わせての第一声がそれとは!

「私の台詞なの……怪我の具合は? まだ身体を起こすのは無理?」

 すると神官がクッションを持ってきた。アルバートに手を貸すのでシーナも反対側から支えると、背中にクッションを置いて座る。

「なかなかまだ思うようには無理だけど、とにかく生きながらえた」

 少しまだやつれているようだが、それでもあの真っ白な血の気の失せた顔とは違う。

「本当に良かったぁぁ。もう、もうダメかと思ったの……」

「それで、リュウを?」

「だって、フェナ様に気付いてもらえるのあとは索敵くらいだったし。索敵持ってなかったから……それより! アル! 防御の魔導具って言ってたけど全然働かなかったの、不良品? 誰が作ったの!?」

 するとアルバートの目が泳ぐ。

 たまたま働かなかっただけではないのか?

「アル?」

 膝にかかっているタオルの上に置かれた手をぎゅっと握ると、渋々といった様子で話し出す。

「アレは、その……シーナの位置がわかる魔導具なんだ」

 詳しく説明された。

 見守りGPSついてた!!

 まあでも正直つけたくなる気持ちはわかる。聖地で手を離してしまったとき、とても落ち込んでいたし、普段からフラフラして怖いと言われている。

「勝手にそんなものを持たせて、すまない」

「違う! 私が怒っているのは、アルが防御の魔導具を持ってるって私に思わせたことだよ」

 アルバートに防御の魔導具がないなら、シーナが少し先行して走るとか、もっとやりようがあったのだ。あんな細くて狭い避けるということができない道を何の警戒もせず走ることなんてしなかった。

 初撃から逃れられればどうにでもなると思っていたから、シーナはあんな風に無防備に走っていたのだ。

「それは……私が浅はかだった……」

 呆然としたようにアルバートが呟く。

「そうだよ。アルは私に自分の身を大切にしろって言うけどさ、アルも自分のこと大切にしてくれないと……アルがいないともう生きていけないよ」

 シーナの言葉にアルバートは驚きに目を丸くしている。

 なんだか考えていた反応とは違うが、こうなったら勢いだ。

「だからね、アル、結婚しよ?」


 戸籍は領主の管轄だが、結婚は神殿が関わる。というより世界樹へ報告するといったものらしい。

 なら、聖地こそ結婚の誓いをするにふさわしい場所はない。

「この私を差し置いて……」

「だから、エセルバート様を待ってたら誰も結婚できないんですってば」

「くっ!!」

 すごく悔しそうにしているが、誰からも慰めの言葉はなかった。

 善は急げと、婚姻届を出してしまおうということになった。もちろん、王族の末席となっている話もしてある。アルバートはそれなら安心だと言ってくれた。

 まだ思うように動けないアルバートがいるので、最小限の人数で救護室で誓うこととなった。

 そう! ここにも誓いの言葉がある!

 マリーアンヌから神殿で契約を結ぶとは聞いていたが、誓いの言葉が契約となるらしい。



 火の精霊の如く、互いに情熱を傾け、

 水の精霊の如く、互いに清廉であり、

 風の精霊の如く、互いに常に新しいことへ挑戦し、

 土の精霊の如く、互いを愛し、

 光の精霊の如く、互いの内なる輝きを磨くことに努め、

 闇の精霊の如く、互いの安寧を願う。

 世界樹様のお導きのもと、ともに進むことを誓う。



――――――――――

ここまでありがとうございました。

明日で最後の更新となります。

エピローグと番外編二つです。

エピローグ 16:00

番外編1  17:00

番外編2  18:00

18:00に覗きに来て頂ければ3つ一気に読めます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る