273.身分

 シーナからの提案には少し思うところはあるらしく、要相談案件となった。

 小難しいことを延々と述べてエセルバート中心にまとめていく。それを明日王と話し合うらしい。

 そして次に一番問題となったのはシーナの地位だった。

「爵位がないと、他の領地に強引に連れていかれても所詮平民だからで終わってしまうんだよ、表面上は」

「表面上でそう終わっても裏でボッコボコですよね」

「ボッコボコにする間に既成事実を作られてごらんよ。アルバートの立場は弱いよ? 爵位のない子爵令息でしかない。伯爵や侯爵クラスにそういったことをされたら、彼は黙るしかなくなる」

「そんなことになりそうになったら、リュウ召喚……」

「それをさせないために考えてるんだが!?」

 何度目かのエセルバートブチギレ。

 【五葉】の中でもエセルバートが中心となっているようで、【常緑】は基本ずっと黙って頷くのみ。【深緑】や【万緑】は指摘はするが反対しているわけではない。【若葉】は暇そうに眺めている。

 ジェラルドは微動だにしない。

「アルに爵位あげるとか!」

「伯爵以上は確実に土地持ちだ。シシリアドを離れなければならない」

「却下で」

「君の前提条件が覆されないから頭を悩ませているんだがな」

 でもシシリアドは絶対です。マイホーム手に入れちゃったしね。

「ジェラルド様! 養女にして放置しておいてください!」

「構わんが、ふろらん――」

「「「「それなら我が家門に!」」」」

 だいぶ被った。

「まあそうなるだろうな」

 エセルバートが額を押さえた。

 ジェラルドはホークショー侯爵で、すでに二人の妻がいるらしい。あまりこちらを取り込もうという様子が見られないので、いいかなと思ったのだがこうなった。

 こうなるから、具体的なことをエセルバートも言い出さなかったのだろう。

 めんどくさぁー!

「夕飯フェナ様にハンバーグ作らないといけないんで、ちょっと私は抜けますね! ヤハト〜手伝って!」

「任せろ! 俺も食べる!」

「ハンバーグは結局食べていないから私も欲しい!」

 大の大人が席を立って手を挙げたよ。

 そしてエセルバートに続き他の【五葉】も主張する。

「……【五葉】様たち五人とジェラルド様と、フェナ様にバルさん、ヤハトそして私の分。十個……多いわぁ……でももうそれしか作りませんからねっ!」

 煮込みハンバーグにできるような器あるかなぁと漁りながらヤハトにキリツアや肉のミンチを作ってもらう。オーブンに入れてもいいというのが金属製のものしかなかったので、それで一気に作ってお皿に分けることにしよう。本当はグラタン皿みたいなものに一人ずつのほうが見栄えがいいが仕方ない。となると、付け合せにポテトフライと、人参のグラッセ、ブロッコリーのような野菜を添えよう。

 そしてなぜかスープまで作る羽目に。仕方ないからクリームスープだ。あー、クラムチャウダー食べたい。

「シーナ、実は陛下が到着なされて……」

 人参のグラッセを作っていると、後ろからジェラルドが声をかけてきた。

「えー!? 明日じゃないんですか? うーん、面倒くさいな……」

「面倒臭くて申し訳ないなぁ」

 聞いたことのある声が聞こえる。バッと振り返ると以前一度会ったことのある顔が。

「へ、陛下っ!? もー! ジェラルド様いるならいるって! も、もうこれは、何故面倒くさいか証明します! じゃないとお付きの人から睨まれるし!!」

 第二王妃に第三王女までいる。

 厨房から飛び出すと、フェナに問いかける。

「フェナ様! 陛下がいらっしゃったのでハンバーグが足りません! フェナ様は食べたことあるから我慢し――」

「ヤダ!」

「ヤハトくん……?」

「えっ……俺頑張って手伝ったのに……」

 ちょっと泣きそうになってる。

「俺の分はまた今度でいいよ」

 バルがそう言うのはわかってる。

「私の分はもちろんいいので、あと一人ハンバーグ食べなくていいひと!?」

 誰も手を挙げようとしない。

「ほら、陛下。面倒くさいでしょ?」

 必死のシーナに王族の方々は微笑んでいた。

 いや、これから大人たちが本気のじゃんけん大会ですよ。


 【若葉】が負けました。じゃんけんと同じようなものがあった。指三本使ってやるんだけどなんか面白かった。

 そして【若葉】がめちゃくちゃ落ち込んでる。

「メインがなくなるんじゃ可哀想なのでチキン南蛮作るかぁ」

 バルにタルタル作りをぶん投げて、鶏ももを卵液にくぐらせて揚げた。

「え、チキンナンバンは俺も食べたい」

「ヤハトくん、ハンバーグ食べるでしょ?」

「ええ……」

「シーナ、フェナ様も同じことを言うだろうし、少し多めに作ろう」

 バルは先を読みすぎだ。まあ同じことを思ったが。

 一番最初に来たとき通された宴会場で夕飯にするのかと思いきや、そのままエセルバートの食堂での会食となった。

 神官たちも厨房に入り、急遽サラダも追加する。

 仕方ないのでヨーグルトを使ったドレッシングと、マヨネーズを追加で作った。

「これは美味……素晴らしいな」

 たぶんミンチ肉知らないんだよね。グチャグチャやだって言ってるし。

「チキンも、この黄色のソースがとても美味しいです」

 結局皆さんチキン南蛮もご所望でした。

 ハンバーグの形を見たところで、手を付ける前に【万緑】と【常緑】が【若葉】に少し分けて上げて欲しいと言ったので、本来はお行儀が悪いが今回は特例だと別の皿に取り分けた。

 喧嘩にならなくてよかったです。

「そう言えば、シーナが料理を作っている間に少し話をしていたのだが、シーナの爵位で揉めていると」

「揉めていると言うか……身分が平民では今後問題が起きた時の対処に困ると言われました」

「そうだなぁ。平民では、相手が貴族の場合咎めにくくなる……ということで王族の末席に加われば問題ないのではないか?」

 一瞬言われたことがわからず、わかったあとは言葉が出ずポカンと口を開けて間抜けな顔をさらす。

「もちろん、今のまま暮せば良い。末席に加わるのもシーナだけだ。子どもには継承されない。良い人がいるそうだな。婚姻届をさっさと出しなさい。それでほとんどが手出しをできなくなる」

「え、エセルバート様……」

「良いのではないか? 我々も揉めずに済むし、ようは王族の務めも果たさなくてもいい、本当にシーナの身を守るためだけの身分ということだろう。もちろん王位継承権はなしだ」

「第一王妃と王太子にも話は通してあるし、今回の功績と退魔の髪飾りのことを考えればそれくらいのことをして当然だということだ。あまり公にしなければよい。面倒事もさほど起こらんだろう。まあ、うちの国に所属してくれているという何よりもの利益がこちらにある」

「フェナ様……」

「もらっておけ。シシリアドに住むのもこれからの生活も変わらないってことだ」

 とんでもない印籠を手に入れてしまった。

「謹んでお受けいたします」

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