272.北の処遇の相談
「フェナ様自分の部屋で寝てくださいよぉぉ!」
「面倒くさくなった。ベッド広いし」
「アルが嫌がるし、エセルバート様に殺される……」
しかも上半身裸のあられもない姿!
「とにかくご飯よろしく」
フェナがあくびをしながら身を起こす。さすがに疲れているらしく、まぶたが重そうだ。
「ううう……」
言い返しても暖簾に腕押しが酷くて虚しい。それに、服が一着だめになってしまった。引きずられたりなんだりで、破れてしまっている。割と気に入っていたものなのでなんとか、アンジーにでもリメイクしてもらえないだろうか。
「もう一着しか持ってきていないのに困ったなぁ」
ベッドの上で服を広げて悩んでいると、フェナが指を鳴らして、燃えた。
「はぁぁぁ!?」
「新しいものを準備させればいい」
「金持ちの言い草ですからそれ!」
「お前も金持ちだろうが。ほら、もう一着あるんだろ? さっさと着なさい」
急かされて着替える。
フェナと連れ立ってエセルバートの食堂へ行くと、バルとヤハトが食事をしていた。
「おはよ〜今何時頃?」
「もう四の鐘鳴った。シーナが御飯作るなら食べたい」
ヤハトはすでに目の前にパンくずの散らかった皿を抱えているのだが、まだ食べるらしい。
「クロックムッシュがいい」
「はーい」
アルバートの命を救ったフェナには、しばらく頭が上がらないのだ。
フェナとヤハト、バルの分まで作ったところにエセルバートがやってきて追加注文された。
「エセル、シーナの服を調達してくれ。破れてしまった」
「わかった」
軽い感じで返事しているが、本来服は高いのだ。
食事の後は救護室へ向かった。バルとヤハトがついてきてくれる。
アルバートと、タムルが少し間を空けてベッドに並んでいた。タムルの顔色が随分と悪い。
「ラコちゃん、タムルさんに祝福あげて」
お願いするとどこからか現れ、タムルの頭上でカッカッと祝福の光を振りまいていた。
「おはようございます。先ほど少しだけ目を覚ましていらっしゃいましたよ」
救護室の担当神官がにこやかにそう告げた。
「みなさん無事だとお伝えしましたら、穏やかに微笑んでまた眠ってしまわれました」
「よかった……しっかり目を覚ましたら教えてください」
「はい、ご連絡差し上げます」
救護室にクッキーのお裾分けをして、部屋に戻ろうとしたら捕まった。
「みんなもう起きているらしくてね、早く話し合いの続きをしよう」
もう少し部屋でゴロゴロしようと思っていたのに、エセルバートの笑顔が憎たらしい。
危機は去ったということで、これだけの軍を留めておくのはよくないと、順次帰還することになった。
それは冒険者や
シーナはもちろんアルバートが動けるようになるまで聖地に残るし、フェナたちも同じだ。帰りは絨毯となる。
「さて、リュウ様もしばらくは聖地に留まってくださるという話になったので、次は北の処遇だね」
昨日は、ほとんどリュウの今後についてああでもないこうでもないと話していただけだ。
特に冒険者などあの場にいた者への説明だ。結局九の雫にあやかることとなった。フェナが実はすでに出会っていたリュウと、
ただ、王族や高位の貴族には事実が伝わるという。魔物を操ることのできる
精霊使いを配置し、北への警戒を強めなくてはならないためだ。
リュウが棲むことにより、下手な手出しはできなくなるが、それがずっと続くかはわからない。十年二十年は大丈夫だろう。問題は百年後、二百年後だ。
「陛下が明日にも到着なされる。それまでにだいたいの方針は打ち出しておきたい」
ジェラルドの発言に驚いて反射的に聞き返す。
「え、王様来るんですか!?」
「そりゃ、今後の国政に関わることだからね。本来はこちらから向かわねばならないんだが、聖地が特殊で神官は基本出られないし、シーナはここから動く気ないだろ?」
まあ、確かに全く今ここから動く気はない。
「ならばお越しいただくしかない」
「まあ、そうですけど」
ちょっと面倒くさそう。
「……私がいる意味あります?」
国政とか、関わりたくないんだけどなぁ。
「まだ状況がわかっていないようだね、シーナ?」
エセルバートの笑顔が深くなる。
「君が楽しくシシリアドで暮らすために話し合わなければならないことがたくさんあるんだよ? 聖地で暮らしてくれるならそれで簡単にことは終わるんだが?」
「ヤダ!」
「じゃあ黙ってこの場にいなさい」
怒られました。
「北との国交ってそんなにないんですか?」
「ないわけではないが、あまり良好とは言えないな。すぐ南下して土地を欲するし、聖地の権利を主張する。まあそれは帝国にも言えることだ」
世界樹の北側一帯は北の諸国に接しているが、世界樹周りの溝がこちらよりもずっと幅が広いそうだ。
「軽く五十倍はある。この聖地は奇跡的な近さなんだ」
さすが土の精霊使いでも難しいそうだ。
「土地を欲する理由は冬の厳しさもあるでしょうけど、やっぱり陽の光らしいですね。あと、精霊石はたくさんあるそうですよ? そこら辺を上手くお互いの利があるようにして冬生まれの妊婦受け入れとかできないんですかね?」
「妊婦受け入れ……」
「結局発端がそこなんですよ。魔に寄らなければ今回みたいなことを発見することもなかったし」
まず魔に寄る子どもが現れなければいいのだ。
「生後一ヶ月太陽光のあるところにいればいいってのもわかったし、北の冬は早そうだから、十月くらいから出産予定の妊婦だけ、安定期の、五ヶ月くらいからだから、七月、いや、八月かなぁ。それくらいに一便作ればいいんじゃないですか? 聖地まで届けてもらって、こちらの領地内はこちらの冒険者に依頼して。届けてくれた冒険者は聖地巡礼おまけ付きにしたらいいし、費用は国が交渉して精霊石を準備して貰うことにしたら」
「簡単に言うけどさ、結構大変だよ?」
【若葉】が言う。
「でも、一年中日の当たる土地をあげる気はないんでしょう? なら、彼らはいつか爆発しますよ。それこそ百年後に。フェナ様もいなくて、リュウももう飽きたからと聖地を去り、誰が防波堤になるんですか?」
百年後を見据えての北との関係回復は大切だと思うのだ。
「食料も不足するようなら、妊婦と引き換えに食料受け渡しもしたらいいと思いますけどね。もちろん買ってもらうんです。私の故郷では、戦争は起こした時点でその指導者は無能なんだと言われますよ」
ちょっと大げさに言ってみる。王への侮辱とも受け取れる言葉にジェラルドの表情筋がピクリと動いていた。
「妊婦受け入れの代わりに、魔物を操る
牽制は大切。
「人類皆平等なんてことも言ってましたね。まあ、平等は無理でしょうけど、人には生きる権利と生きるために足掻く権利はあると思います。その権利の行使を戦争にさせないために動いたほうがいいですよ。なにせ、北は、魔物を操る方法を手に入れてるんですから。聖地に来ないで、帝国の西の方から攻め始め、南を回ってセルベール王国を攻め立てることだってできる」
ラーシャとの話し合いで、彼らの事情にちょっと同情してしまうところはあった。あの妊婦を見てしまったのもある。
「気づいたらリュウのいるこの聖地のみになっているかもしれないですね」
皆が押し黙った。
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