137.緑のドレス
部屋に荷物を置いたアルバートたちがこちらの部屋へやってくる。
「フェナ様の荷物です」
バルが持ってきたカバンを置くと、フェナがそれを自室に持って行く。
「シーナ、これを」
アルバートが持っていたカバンをテーブルに置き開ける。トランクタイプでちょっと可愛いなぁと思って見ていたものだ。
中から鮮やかなグリーンのドレスが現れる。ヒラヒラゴテゴテしたものではなく、至ってシンプルなワンピース。腕の部分はレースになっている。肩はきちんと隠れていた。
「わぁ〜きれい!」
と、思わずこぼしてから気づく。
「私に?」
「殿下からの招待を受けていたからね。マリーアンヌ様に相談したからドレスの形としてもおかしなものではないから安心してくれ。シーナは、緑が好きなようだったし、冬前に見せてくれたシーツ類の緑が似合っていたからこの色にしたんだが……」
最後の方が少し不安そうで、慌てて首を振る。
「好きです、この色。似合うかはわからないけど……」
「靴もこちらに。マリーアンヌ様と側仕えたちがずいぶんと楽しそうに準備してくださったから、こちらのトランクのものですべて揃っているかと」
「ありがとうございます。全然、そんなこと考えてなくて、助かりました」
「ふぅん、まあ、平民が着るドレスはこれくらいがちょうどいいね。デザインも悪くない」
「あとこちらは私からなんだが……その、気にしていたから。これもマリーアンヌ様に聞いて準備したから道具も足りていると思うんだが」
そう言って差し出されたのは、しっかりしたこれまた緑色の布を張った箱だった。
「カバン?」
テーブルに置かれたそれに触ると、わりと重い。
「バカモノ、こんなカバンを持っていくわけがないだろう。化粧箱だ」
横からフェナが手を伸ばし、カチっと音をさせて開くと、ガラが持っていた化粧品とよく似たものが色々入っている。
「本当に一式だな」
「これだけあれば間違いないと言われたので」
「ありがとうございます」
たくさん色々もらってしまった。嬉しいやら申し訳ないやらで感情が追いつかない。
「化粧は私がしてやろう。やりすぎると別人になるからな」
「前に別人のシーナ見た」
ヤハトは、本当に余計なことを覚えている。
「さて、夜の準備をするにはまだ早いし、時間まで出かけるか?」
ヤハトは眠いと言って出かけるのを拒否。朝まで見張りをしていたし、その後は引き連れて歩いている不埒者を見張っていたので十分な睡眠を取れていなかったのだろう。
お土産に昼ご飯を買ってくる約束をして、四人で出かけることにした。
三人は王都は初めてではない。というより、士官学校も王都にあるので、アルバートは久しぶりの場所ということになる。
「何か見たいものはあるか?」
「うーん、でももう三の鐘だから、ヤハトはなんだかんだとすぐ起きそうな気がします」
「違いない。そして腹が減ったと言い出す」
ならば今日はもう、昼ご飯を買いに行くこととなった。士官学校時代に、よく友だちと買い食いをして歩いたアルバートが、案内してくれる。
「ヴィルヘルム様ともよく出歩いたよ」
もうすぐ昼時ということもあり、出店がたくさん並ぶ道はそれなりに混んでいた。フェナはフードを被っておらず、それはもう目立つ。銀髪銀目の長い髪を持つ美人となれば、ピンと来る者も多く、ヒソヒソと噂されている。
「新鮮な野菜が食べたいなぁ」
「ピーネとか、欲しいですよね」
「マヨネーズを付けて食べたい」
「道具は荷馬車にありますね」
「バル!」
「わかりました。新鮮な卵を買わないといけませんね」
旅は、どうしてもタンパク質過多の野菜不足になりがちだ。正直シーナもサラダが食べたかった。冷しゃぶゴマダレサラダとか、サラダパスタとか。キッチンも付いていたらよかったが、さすがにそれはない。
宿の夕飯はかなり美味いらしい。フェナが定宿にしているのも食事の面がでかいそうだ。今夜は食べられないが、明日は期待しよう。
みんなの分のパンと肉。生のまま食べられる葉物野菜とピーネ。そして卵お酢。完全にサンドウィッチになる予定のそれらを買って帰路に着く。
「すみませんが、少し寄りたい場所があるので、先に帰っていただけますか? そんなに時間はかからないので」
「早くこないと昼ご飯なくなるよ」
「もう、フェナ様! ちゃんとアルバートさんの分もとっておきますね!」
市場からすぐの辻でわかれる。
「ちょうどいいですね、アルバートさんが帰ってくる前にマヨネーズ作っちゃいましょう」
荷馬車の罠を一度解いて必要な道具を持ってシーナたちの部屋へ行くと、まだ眠たそうな顔をしているヤハトがすでにソファにいた。
「腹減った〜」
予想通り過ぎる。
「ぱぱっと作るから待っててね」
焼いて味付けをしてある肉を買ってきたので、マヨネーズを作るだけだ。この作業は店でこれでもかというほどやったので手慣れたものだ。
バルも野菜を切ったり、準備を手伝ってくれた。
皿に材料を並べ、好きなものを乗っけるスタイルにする。
「さあ、召し上がれ」
当然のごとく、全部乗っけるヤハト。口を開けられる範囲にしてもらいたい。
勢いが怖かったので、早々にアルバートの分のサンドウィッチを作って取り置く。
久しぶりの新鮮なピーネは美味しかった。
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