136.第四騎士団のお出迎え
王都の門にはずらりと人が並んでいた。荷馬車は邪魔なので、代表でアルバートとトールナーグが列に並び、順番が来たら一緒に審査を受ける。
フェナやヤハト、バルは冒険者としての身分証があるから問題ない。神官たちも、巡礼の者として神殿から証明書がある。アルバートとシーナはシシリアド領主から手形をもらっていた。
「さすがに王都に入るのは時間がかかりそうですね」
長蛇の列にシーナがため息をつくと、バルが首を振った。
「今は午前中の早い時間だから、もう少ししたら門番の人数が増えて列の進みも早くなるさ」
しかし、それもすぐに状況が変わった。
荷馬車のそばで座って神官あるあるを聞いていたところ、辺りがざわつき始めた。そして、その中心がこちらにやってくる。
「ぁー、これはお迎え?」
「そのようだな」
黒衣の騎士たちが五人ほどこちらに向かってやってくる。
列に並んでいたアルバートがその後を追って掛けてくる。
なかなかに威圧感のある騎士たちが、シーナたちの前で止まった。
「お久しぶりですね、シーナさん。フェナ様は……」
荷馬車から億劫そうにフェナが起き出した。
黒の鎧に赤い刺繍。第四騎士団だ。
「道中お疲れ様です」
「ああ、ヤハト、それ引き渡しておけ」
それとは不埒者のことだ。
「人の荷馬車から泥棒しようとした奴ら。と、これが
「承りました。素直に
「手首切り落としただけ」
何の悪びれた様子もないヤハトの言葉に、一瞬言葉を詰まらせる、
「良い判断ですね。フェナ様がいらっしゃるからできるのでしょうが」
彼は、シーナに大変な失の礼を働いた彼である。
「久しぶりだね、アルバート。第三王女殿下からのご招待がある。神官の方々は神殿に向かわれますか?」
追いついたアルバートに向き直り、彼――クリストファが告げる。トールナーグも結局列から抜け出しこちらに向かっていた。
「我々五人は神殿に向かう予定です」
代わりにダールが答えると、クリストファが頷く。
「アルバートたちはどうする? 王宮に部屋を準備することもできるが……」
ちらりとフェナを見る。
「嫌だ、面倒くさい」
ですよねー、といった表情の騎士たち。
「宿は準備されているのですか?」
「いつもの宿を予約している」
フェナの懇意にしている宿があるらしい。
「ではそこまでお送りして、アルバートとシーナには一度王宮に来てもらいたい。今夜はどうだろうか?」
「……構わないか?」
アルバートに同意を求められたが、基本的に拒否権はないのだろう。
「お昼じゃなくて夜なんですね」
昼食より晩餐の方が格式張っていそうで不安だ。
「王族は第三王女殿下のみなので、気負わないでいただきたいとのことだ。衣装も普段通りで構わない」
まあ、ダメと言われても服は二着しかない。
クリストファの先導で検問なしにするりと通り抜ける。荷馬車も騎士が動かしてくれる。
王都の壁はシシリアドのそれと同じく、淡い紫色をしていた。門もかなり大きい。しかも二つもある。そしてシシリアドの物よりも高く見える。門の周囲には兵士が何十人もいた。
門を抜けると大通り。これは、シシリアドの三倍はあった。平坦な地なので荷馬車の数もかなり多い。
「今の時期は巡礼者が多いので、どうしても人の出入りが激しいです。くれぐれも誰かと一緒に行動してください」
前を歩くクリストファが、振り返ってシーナに告げる。
「シーナキョロキョロしすぎ」
お上りさんがバレるということか。
「犯罪に巻き込まれるのは、外の人間が中の人間の倍ですから」
シーナのようなお上りさんは格好の獲物らしい。
「まあ、一人じゃ出かけません」
流石に怖い。
クリストファは頷く。
「ぜひそうしてください」
宿は道を何度か曲ったあたりにあった。表にひしめく呼び込みがたくさんある宿とは違ったわりと静かな場所にある宿だ。騎士たちも知っているのか荷馬車を勝手に奥へ運んでいる。
「荷台にあるものは全部運びますか?」
「いや、必要なもの以外そのままで。私が細工する」
細工? と首を傾げると、ヤハトがこっそり教えてくれた。
「勝手に触ると悶絶する罠」
「おおう……」
「シーナたちもなにか荷物を取る時は私に言って」
「はーい」
アルバートがカバンをいくつか降ろし、バルとヤハトも手分けして運ぶ。
「それでは、夕方六の鐘前にお迎えにあがります」
犯罪者二人を連れ、騎士たちは去っていった。
フェナを先頭に宿の中へ入ると、中年の男性がすっ飛んできた。
「これはフェナ様。お早いお着きで。お連れ様もお疲れ様でございます」
「またしばらく世話になるよ」
宿の中はそうどことも変わらないが、床がとてもきれいで、シミ一つない。
「お部屋はお二つで良かったのですか?」
「シーナと私が一緒の部屋。残り三人が同室だ。アル、構わないな?」
「ええ、もちろん」
たぶんアルバートが貴族だと見てわかるので、バルやヤハトとの同室でよいかということだったのだろう。
案内されたのは二階の一番奥の部屋とその手前の部屋だ。
家の作りはシシリアドのような、石と漆喰で真っ白に塗り固めるようなタイプではなく、石と木でできているものが多かった。レンガのように均一に切りそろえられた石を積んでいる。
階段や壁、いたる所にシンプルではあるが品の良い装飾品が置かれていた。
そして極めつけは通された部屋。
「スペシャルスイートルームだぁ……」
入ってすぐのリビング、風呂と、奥に寝室が三つもある。
「普段は三人でこの部屋なんですか?」
「そうだね、食事もここに運んでもらえるし、風呂付きなのがいいだろう?」
「ここの、宿泊費って……」
「もちろん、全部私だ」
そりゃ、王宮になんて行きたくない。ここが最高だもの。
「私も……ここでゴロゴロしていたかった……」
「行くと約束したんだから、諦めて行って来い。王女はお前が何を言おうが不敬だなんて言わないだろうが、他の側仕えや騎士たちはそうは思わない者も多いだろう。話運びはアルに任せておきなさい」
「はい……」
まだ昼前なのに気が重い。
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