135.王都への道

 ヤハトの活躍で鶏肉もどきをゲットした。

 が、解体は無理だった。

「匂い……うさぎくらいはいいけどやっぱりあの大きさになるときつい」

 コベルナは、ダチョウくらいの大きさの魔物だった。

 ダチョウくらいの大きさのニワトリだった。こわい。

 ヤハトが走っていった方向で爆音とともに土柱が上がり、やがて宙に浮いた巨大なニワトリがやってきたのだ。

 その頃にはフェナも起き出して、さっそく解体が行われた。

 要らないものは穴に埋められていく。

 バリバリと毟り取る羽毛も捨てられていく。コベルナはわりとどこにでもいるような魔物らしく、魔石くらいしか素材にもなり得ない、完全に食用の魔物だ。

 魔物の肉は腐敗が遅い。しばらくはタンパク質に困らない。

 ただ、体がでかい分、血の量が半端ないし、内臓が危険。


 夜は野営で、さっそくクリームシチューを作ることとなった。フェナとヤハトがいるので、火の精霊石は二つだけ持ってきている。補充できる人がいるというのは良いことだ。

 シチューなので、パサつくむね肉の方を使うことにした。明日はもも肉を照焼チキンにしよう。それでも、魔物の肉は美味しくて、むね肉でもそこまでパサパサというわけではない。

 牛乳の実はバルがきれいに外側の厚い皮を切りとってくれた。そこからそのまま小麦粉で炒めた野菜とむね肉の入った鍋に注ぐ。少し舐めてみたが、確かに牛乳特有の甘さが、普段使っているものより濃かった気がした。

 翻訳機はシーナが、牛乳を牛乳でないと自覚しても、牛乳と訳し続けている。諦めるしかないようだ。

「野生の牛乳の木は結構あるから、旅の間の栄養補給には重宝するんだ」

 ヤハトはこういった旅がもともと好きなのか、シシリアドを出たあたりからずっと浮かれている気がする。

「アイスが食べたい」

「フェナ様、それはちょっと……」

「この時期はやはり暑い」

「日が暮れてきたらだいぶ涼しくなりましたよ」

「ならば、明日の昼だな」

 新鮮な牛乳が手に入ってから狙っていたようだ。

「砂糖は、少しは持ってきてますけど……みんなにどう説明するんですかぁ……」

「内緒だよって食べさせればいい。なんなら食べさせなくていい」

「それはちょっと」

 これはもう、作らなければならないやつな気がする。まあでも、美味しいだろうなぁ、外で食べるアイスクリームは。

 ホワイトシチューは神官たちも大絶賛で、すでに三回目の野営の夕飯だ。飽きるんじゃないかと思うが、シーナが作らなければ、鶏の出汁と塩のみのスープとパンが夕飯となる。神殿と同じような質素な食事になるのなら、毎晩ホワイトシチューでいいというのが、神官五人の見解だった。

「孤児院の子どもたちにも、これは食べさせてやりたいですね……」

 ダールがしみじみと言う。

 魔導具のランプを囲んでの夕食。あたりはすっかり静まり返っていて、彼のこぼした言葉は予想以上に響いた。

「んー、ホワイトシチューなら構いませんよ。子どもたちやっぱり痩せてるし、栄養を取りやすいですからね、スープ、シチュー系は」

「それは、本当に?」

 トールナーグが確認を取る。

「これは、材料も一般的で広まってもさほど市場の何かがとんでもなくなくなるといったことはなさそうですから」

 マヨネーズは危険だが、ホワイトシチューくらいなら構わないだろう。

「まあ、神殿内だけのものにしてもらえれば。野菜嫌いの子どもも食べやすいだろうし」

 神殿教室の昼食で見ていて、食べるものが限定されているから完食はするが、やはり苦手なものはあるらしかった。

「ならば夕食でしょうね」

「ここまでとろみをつけなくても、少し鶏ベースのスープでのばしてもいいかもしれませんね。牛乳をたくさん使うことになりますし」

 神官たちのために、野営でホワイトシチューを作る時はお料理教室が開催されることとなった。少し薄めのシチューの作り方も伝授する。

 そんなことをしながらいくつかの領地を通り、そのたびにクッキーで相手の不満をいなして、あと一日で王都というところまでやってきた。


「人が多いですね」

 街道を行く者がかなり増えている。巡礼者だけでなく、商人も多い。冒険者もいるようだ。荷馬車があるので、こうなるとなかなか思うスピードでは進めない。

 フードをしていても目立つフェナは、すっかり幌を張った荷馬車の住人と化している。シーナもずっと御者席の隣だ。歩いていて変なのに絡まれたら面倒だからと、人が増えてきた時点で早々に座らされた。神官たちには少し申し訳ない。

 王都の門には残念ながら間に合いそうにないと、日が暮れだしたあたりで人々が野営の準備を始めた。

 街道を少しそれたところで野営の準備だ。昼間が長くなったとは言え、七の鐘には真っ暗で何も見えなくなる。

 あまり目立ったことはしたくなかったので、今日は薄味鶏出汁スープと硬いパンである。

 フェナの作る簡易ハウスはそれなりに目立つが、他の冒険者もしていないわけではない。チラホラと同じような塊が見える。

 日が暮れる前に後片付けをしてとっとと就寝することにした。

 魔物の気配には敏感だが、人はよくわからないというフェナが一晩中寝ることになり、バルとヤハトが見張り番となった。


 朝起きると荷馬車に男が二人繋がれていた。

 男たちは起きてはいるようだが、無言で地面を見ている。

「おはよ?」

 昨日の後半の不寝番はヤハトだったはずだ。

「おはよ、腹減った〜」

 視線をやると、あ〜と言ってニヤリと笑う。

「不埒者捕まえた」

「あれだけ騒ぎになって起きてこないシーナはちょっと心配だね」

 フェナに言われてあたりを見渡すと、皆、苦笑していた。

 ただ、セサパラだけが目を伏せている。

「セサパラも気付いてなかったよね!?」

「わ、私だって気づいてはいましたよっ! でも問題なさそうだし隣で寝ているシーナさんを起こしてはいけないと……」

 嘘だ! 絶対に嘘だ!

「とりあえず王都がすぐだから荷馬車に繋いで歩かせる。それよりシーナ〜朝ご飯はやくー!」

 隠蔽陣を持ち、荷馬車の物を狙ったが、ヤハトがすぐに気づいて風で手首を切り落としたそうだ。絶叫が辺りに響き、すっかり寝入っていた周囲の旅の人々も起きてくる事態になった。

 手首を切り落とし、組み紐トゥトゥガを取り上げたら、起きてきたフェナが失血死されても面倒なのでとりあえず手首を治療しくっつけたという。

 それでここまで無抵抗なのだ。

「ヤハトヤバっ!」

「人で混み合ってる王都の前のこの辺りではこういった手合いがよく出るんだよ。二度と同じことしようと思わせない方がいいだろ?」

 いいだろ? じゃない。容赦がなさすぎてエグい。

「こすい精霊の使い方知ってるから。たまに女の子襲うやつもいるし」

「ちょん切るとこ間違ったんじゃない?」

 ポロッとこぼしたシーナの発言に、男性陣がヒェッて顔をしてたのは見ていないことにした。

 自業自得ということで。

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