127.出立
さすが普段から細かい作業をしている職人たちで、三日目にはもうシーナより上手に組み立てられるようになっていた。
色の組み合わせも見事なものだ。髪色を考えて作り上げている。これはもう任せた方がよいと判断し、皆が作業している横でマリーアンヌの髪飾りを作った。さらに王女の分を作ろうと、イェルムに色の助言をもらおうとしたら、職人たちに髪色を聞かれ、彼らが組み合わせを決めた。
やはり、職人たちの色彩感覚はさすがだった。
さらに、光の糸を入れられなくなったので、ビーズをもらってところどころ縫い付ける。リボンの中央には大きな石をつけることにした。イェルムが土台の金属加工を手配してくれたので、あとはそれを縫い付ければ完成だ。簪の先には梅結びをつけて、さらに金属の細い棒を垂らすようにしたら更に可愛くなった。急ぎじゃないのでチャムとよく相談して作ったこの簪は、他の髪飾りにも使えそうだった。
初めての一人暮らしは心配して準備を重ねた分、暖かく過ごすことが出来た。たまにヤハトがパンを持ってきてくれたり、フェナに連行されお屋敷で料理をしたり。
仕事は、二色の
領主の屋敷の料理人たちに呼び出され、ヤキニクソースのバリエーションを味見させてもらったりと家でゆっくりゴロゴロというわけにはなかなかいかなかった。
だがそんなことをしている間に冬が終わり春が来てもうすぐ六月。
シーナは自分の荷物を改めて点検していた。
「シーナ! そろそろ行くってよ」
ヤハトが部屋をノックして、少しだけ顔を出して言う。
「はーい」
荷物を背負うと、ブーツを履く。普段街なかで履いているものとは違う、頑丈な物だ。
薄手のフード付きマントと、ナップザックのような荷物入れに、着替えを一式と丸台を分解したもの、フェナ用の糸、その他ちょっとした物が編める程度の糸を詰めたら結構重い。
本来はここにさらに携帯用の保存食と水筒を持つのだが、水は水使いがいるから大丈夫なので、省略。食料も今回は馬車が二つあるそうなので最低限でいいらしい。
「気をつけてね、シーナ」
シアが心配そうに見上げている。
「うん。みんなの足を引っ張らないよう頑張る……」
「大丈夫だろ。神官も普段街を出て歩き回るようなことはないし、シーナとどっこいだよ」
「旅程はかなり余裕をもっているし、途中の補給も多い。それよりも、はしゃぎすぎないように」
バルの心配は、正直シーナ自身も心配していることだ。
シシリアドを出て二か月近く歩いていくのだ。移動が徒歩だということはネックだが、今から楽しみで仕方ない。
ゴートとソニア、シアに手を振り屋敷をあとにする。
フェナたちの出で立ちは普段と変わらない。旅慣れた彼らはなんの気負いもなく歩いていった。
ギルド広場を通り、ガラの店の前を通ると、一の鐘前だというのにガラが店先にいた。
「大樹様のお導きがありますように」
そう、今年は大祭が開かれる年なのだ。八月の頭に世界樹のもとに世界各地から人々が集まる。シーナは以前から大祭に行くと公言していたので、四月ごろから打ち合わせを重ねていた……というより、周りが準備してくれた。
そして当然のようにフェナも行くことになった。
距離が長い割に戦闘経験もなし、旅慣れてもいない神官のお守りとなる護衛任務はなかなか決まらないらしい。結局その街にいる有名どころに指名依頼を出すこととなるらしいが、シーナが行くなら行くと言うフェナに、今回はすんなり決まって助かったとローディアスかこぼしていた。
そんなローディアスは今回は見送る側だ。
「大祭への参加は若い神官の役目ですから」
とのことだ。
普段から穏やかな物腰のローディアスは、若く見えるがもう四十過ぎだそうだ。
行き帰りで三ヶ月以上はたしかに辛いだろう。シーナも不安でいっぱいだ。
が、それ以上にワクワクしている。
門前には見送りの人たちが群れをなしていた。
フェナが行くと聞きつけたフェナファンの面々も多い。
普段は真っ白な衣装を身に着けている神官たちも、流石に暗めの色のフード付きマントを着ている。中の服も移動に適した物だ。
今回同行する神官は五人。女性が一人と男性が四人だ。三十代の男性が一人。他は二十代がほとんどだ。その三十代の男性、トールナーグが代表で以前にもこの旅程を経験している人物だ。
「おはようございます。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
トールナーグは濃い緑色の髪に茶色の瞳で背も高い。フェナやアルバートが、百七十後半くらいだと思うのだが、それよりも高いので百八十半ばくらいだろうか。バルはさらに上を行く。
ヤハトは……可愛い弟分だ。頑張れヤハト。シーナよりは高い。
そう、今回の領主の名代はアルバートになった。特に途中の王都では当然会いに来るよね? といった趣旨の手紙が第三王女から届いているので頼りにしている。
「アルバートさんもよろしくお願いします」
「ああ。旅程はかなり余裕を持っているから、無理せずに」
みんなから心配されている。
一応、耳に魔除け、左腕に疲労軽減、右腕に身体強化の
「そうだ。いつももらってばかりだから……これを」
そう言ってアルバートが出したのはフェナファンクラブの面々が、フェナにどうやって渡そうか渡そうかとジリジリ距離を測っている、守り袋だった。
アルバートの瞳と同じ青緑の紐だ。
「わぁ……」
「……屋根の色が好きな色かと思って、この色にしてみたんたが」
少し照れたようなアルバートからそれを受け取る。
「ありがとうございます」
屋根、そう、屋根の色か。
動揺を悟られないように、腰のベルトに結びつけた。
「シーナ、一つで大丈夫か?」
「うっ……一応守り石自体は準備はしてるよ。カバンに入ってる。普通に歩いてて足くじきそうだし」
ヤハトのツッコミが今回ばかりはありがたい。
「荷馬車に乗ることもできるし、疲れたら早めにね」
神官たちも交代で乗っていくらしい。歩きなれないものはなるべく楽をしろと言われた。
こうして、長い巡礼の旅が始まる。
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