124.一人の冬支度
狩猟祭が終われば冬支度の始まりだ。
去年はガラに言われるがままに作っていたが、今年から自分で揃えなければならない。家の方の工事はほぼほぼ終わっていて、確認をした。
二階の階段を上がったところが一段下がっていて、壁際にスリッパ置きも作ってくれた。スリッパも準備されていた。布と皮でできている。
キッチンもかなり素敵な仕上がりだ。
真ん中の大きな作業スペースは、表面が滑らかな石を希望したのだが、大理石のような素晴らしいものだった。ぶつけて割らないようにしなければと言っていたら、これは土の精霊使いが作ったものだから、多少値は張るが修復できるそうだ。コンロもかわいいし、キッチン用具を揃えなければならない。とりあえず冬に必要な最低限を。
そして浴室。
お風呂が無事出来上がった。ゴムホースのような素材はないらしく、壁に備え付けるタイプのシャワーとなった。このシャワーの湯は、浴槽から引いて来るようになっている。ちなみに、追い焚きできるようになっているので足りなくなれば水を足してすぐに沸く。とにかく理想の風呂場だ。
火の精霊石は、使い切ったら黒く変化する。そして、水の精霊石とは違って、火に焚べたら力が戻るわけではないらしい。
石屋に持っていって差額を払い新しいものを買うか、精霊使いに火の精霊を込めて貰うか。石屋は契約をしている精霊使いに頼むのだ。
冬の間はヤハトがやってくれる。これはきっちりお金を払うと言い張った。風呂を心置きなく楽しむためには必要なのだ。
冬支度を始めるにあたって、地下の倉庫の棚も新しいものにしてもらった。保存の陣もズシェにお願いして、紅茶などに使う。
虫除けの陣は、贅沢だが家全体に施した。
虫は苦手だ。さすがにこの陣への魔力の供給は自分では間に合わなそうなので、定期的に発注することにする。
ベッドが組み立てられ、家具類も備え付けられ家にもクリーニングが入ったところでヤハトに絨毯を敷く手伝いをしてもらった。
これで、家の完成だ。
「家の防犯の魔導具もきちんと稼働しているし、迎え入れるとき、入るときに相手にこれを渡してね」
四角い金属の板だ。パスのようなもので、フェナの屋敷に、まだあの赤い石の嵌ったネックレスを貰っていない頃は、同じようにこの板を持たされ招き入れられていた。
これは玄関近くに棚を置いておこうと思っているが、冬の間にゆっくり作ってもらう予定だ。
「そしてこちらが目覚ましの魔導具。ただ、時間合わせが必要だから、何度か試してちょうだい」
スイッチを入れれば同じ時間に音がなるようにできるという。ただ、最初にその時間を覚えさせなければならない。ガラの店にいる間に、ガラにやってもらおうかと思ったが、ガラもそこまで早く起きるわけではない。しかもドア・トゥ・ドアがゼロという。シーナは身支度をして朝ご飯も作って食べるのだ。ということで今度ソニアかシアにお願いしようと思った。普段から一の鐘より早く起きている。
一度お泊りさせてもらおう。
大きさは、スマホが三つ重なったくらいの小さなものだ。上手くいったらベッドのサイドテーブルに置く予定だ。
素材が詰まった部屋はまだまだたくさんの素材があり片付けきれなかったので、ゆっくりガラやガングルムに手伝ってもらって整理することになった。
「一人ならこれくらいの量があればなんとかなると思うわ。食べるものがなくなったら、フェナ様のお屋敷に泣きつきなさい。うちは無理よ! 私の分しかないからね!」
食料が尽きるかもしれないという恐怖に、少し多めに用意しようと決心する。市場で保存食も売られ始めている。頼めば家に届けてもらうこともできる。
実はパンをどうするか悩んでいた。というのも、米が大量に倉庫にあるのだ。フェナのおかげで米を定期的に取り寄せてもらっているが、販路はほぼシーナとフェナの屋敷だ。米がかなりの量、備蓄されていた。冬はヤハトもだいたい屋敷にいるので、一月分ごと精米して瓶に保存しておくのもいいなと思ったのだ。
夜炊いて、土鍋をそのまま保存の陣か、今後作ってもらおうと思っている冷蔵庫もどきに入れておいて、朝は雑炊にすればいい。
考えることがいっぱい過ぎて頭がパンクしそうだ。初めての一人の冬越しで、ひもじく寒い思いはしたくない。
ベーコン類の加工はバルから一緒にどうかと誘われた。ガラは店で買っていたから同じようにしようと思っていたが、肉は狩猟祭の後も何度も狩りに行き、調達したらしい。まあ狩りすぎるので、余剰がたくさんあるという。ここはもうお言葉に甘えた。もちろんお金はきちんと払う。
量がわからなすぎて、毎日てんてこ舞いでお店に顔を出す頻度が減るが、ガラからも冬支度はしっかりしておけと言われている。今年自分できちんと整えられれば、来年からは要領もわかるだろうということだ。確かに、聞きはするが量を任せてやるのと、自分で考えてやるのでは違う。
そして十月後半。フェナがもうひと狩りに出かけ、保存食の九割が揃った頃に、食器の買い出しに出かけなければならなくなった。キッチン用品と保存用瓶は冬支度に必要なので十月に入ってすぐに買い付けた。けれど、昼間保存食を作り、夜はまだガラの店で寝ていると、食器を買いに行くタイミングがなかったのだ。みんな基本的に忙しい。でも一人でウロウロするなと言われ続けている中、シーナは苦渋の決断をする。
「お忙しいところお付き合いいただいて、本当にすみません……」
イケメンの召喚である。
「いや、私自身は冬支度にはあまりかかわらないから。屋敷の使用人たちがみんなやってくれるんだ」
「なるべく早く済ませますね!」
「じっくり選んで」
イケメンのニッコリ顔に、後光がさしている。
おすすめの店はすでにイェルムから聞いている。食器類は選ぶだけで届けてもらう予定だ。
日本は食器は五つで一組、西洋は六つで一組。だが、ここは異世界。同じお皿を何枚ずつ買うのが正解か。
茶器はよく六つカップと一つのポットなので六つのようだ。
しかし皿になると同じものが大量に重ねられていたりする。好きな数だけ準備すればいいようだ。
「どれも可愛い模様ですね」
白い皿に小花が縁を彩っているものが多い。どうせならセットで買いたいなぁと思う。
「大皿、中皿、小皿、少し深さのある大きな皿と小さな皿、スープカップ、スープ皿あとは普段遣いのカップとポット。これくらいでいいかなぁ」
同じシリーズで、赤い小花と小鳥の絵柄の入ったもので揃えてみた。問題は数。割れたときを考えると最初から一枚多く揃えておくべきか。
イェルムのおすすめだけあって、一枚がそれなりにする。
「何枚あればいいんでしょうかね」
「うーん、シーナは家に人を招くのかい?」
「フェナ様あたりは招いてもないのに来てしまいそうで……」
シーナの言葉にアルバートも苦笑する。
「ならば最低四枚だね」
バルとヤハトの分も入っていた。割ってしまったときを考えて、六枚、思い切って買うことにした。あとは普段遣いのポットとカップだ。フェナが来たときはもともと置いてあったお客様用のカップを使えばいいので、好きな柄を好きなように買うことにする。
ポットは割と早く決まった。二人分のお茶を準備できるくらいの小さな白地に緑の葉と紫の花のものだ。
「カップは、これかな」
一つ目は即決する。二つ目も同じようなものにしようかと思うが、これ、と決められない。
「ううーん、アルバートさん、この三つの中ならどのカップがいいですか?」
「私が選ぶのか?」
「どれも可愛いけど、これはもうあと一つくらいでいいので」
彼はふむ、と言い波のような水色の模様と黄色い花びらが散っているものを選んでくれた。
「よし、これで終わりです」
シーナの選んだものを分けていた店の人が、ありがとうございますと言った。
金貨二枚と銀貨八枚。いいお値段だ。
「四の鐘の頃にお届けに上がります」
「よろしくお願いします」
まだ三の鐘すらなっていないので、少し市場に付き合ってもらうことにした。
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