121.雪だるまホェイワーズ

 再び予約取りを組み紐トゥトゥガギルドの一角でさせてもらい、八人決まったところで終了。二日間組み紐トゥトゥガを編んで、を何度か繰り返した。

 月半ばで、ホェイワーズを最寄りの街まで移動させたと連絡があった。あとは帰ってくるだけらしい。その運搬に時間がかかるのだ。

 店もだんだんと忙しくなってきている。あと三日もすれば狩猟祭だ。流れの冒険者たちの住まいも壁の向こうに層をなしていた。今年は去年よりもさらに多いらしい。

 組み紐トゥトゥガの予約も流石にやめている。あまり一人でウロチョロするなと言われたのだ。

 なので基本的に昼ご飯を作って、魔除けの組み紐トゥトゥガや耳飾り、索敵の耳飾りなどを作っていた。兄姉弟子は午前中に四本、色数が少なく早く終わればさらに五本目まで作っている者もいた。

 それくらい忙しい追い込みの時期だ。

 狩りの獲物も毎日運ばれているらしく、冒険者ギルドは大忙しだ。ガラの店はギルドへ続く大通りにあるので、小さめの魔物はそのまま運んで冒険者ギルドへ。その姿を日に何度も見る。

 大きな獲物を運ぶ荷車は、この時期常に森の外にスタンバっていて、運ぶ料金も格安になる。何より冬のために肉を確保したいのだ。冒険者と街が協力しての冬支度だった。


「シーナ! フェナ様がお帰りだぞ!」

「えっ!? 迎えの荷馬車要求は?」

 ホェイワーズを確保する谷の、一番近くの街から少ししたら、連絡が入り、こちらからも荷馬車を出してあちらからの人夫を返してやるのが普通だと聞いていた。中間地点とまでいかずとも、交代をすれば、帰路というあちらの負担も減る。

「驚かせたいから人夫たちに倍額払ってるらしいぞ」

 呆れたように冒険者ギルド長のビェルスクが言った。

「今客を取ってないなら一緒に行こう。ガラに言っておいてくれ」

 最後は姉弟子に向かってだ。

「あいよ! シーナいってらっしゃい」

「じゃあお願いします。お昼は奥にもうできてますから」

 店から出ると、フェナ帰還の知らせを聞いた街の人達がソロゾロと門へ向かって集まり始めていた。やはりフェナは大人気だ。

「ホェイワーズって、毛皮以外の素材って何かいいものあるんですか?」

「肉は不味い。から捨てるなぁ。まあその肉が言うほどない。魔石はいいのがとれる。魔導具の材料になる。牙や爪は特に。まあとにかく、あの毛皮だ。弾力がすごい。他の素材より毛皮をいかに上手く刈るか、なんだ」

 門で待っていると、平原の方からキャアキャアと叫び声が聞こえてきた。それがだんだんと近づいてくるとともに、巨大雪だるまが馬に牽かれてやってくる。

「また丸々と肥えたやつを……」

 肥えた? 毛皮部分もそのような表現になるのか?

 アフリカゾウくらいは軽くある、噂のホェイワーズ。たぶん横向きに乗せられているのだろう。黒くて細い足が見える。

「フェナ様、おかえりなさい」

 先頭を歩いていたフェナに駆け寄る。

「これはこれは依頼主様。長らくお待たせしました」

「お疲れ様です。でも、なんで二体あるんですか? あちらの街で卸してこなかったんですか?」

 大きな雪だるまが二体、荷車が二台。後ろの方にヤハトがついている。

「フェナ様、街なかに入っても解体場に入り切らねぇ、表でやります」

「まあそうだろうね。短い距離ならもう私が移動させる。北側に持っていけばいいか?」

「お願いします。解体場の奴らも移動し始めてます」

「わかった。バル! 報酬を渡しておけ。泊まる場所がないなら特別にうちの庭を貸してやろう」

「いえ、もうこのまますぐに帰ります。そのつもりで算段していますので。ありがとうございました」

 荷馬車の人夫たちが、揃って頭を下げた。

「無理を言ったな」

 バルが彼らに金貨を渡している。帰りは荷車を牽いている馬のような生き物に乗って帰るらしい。

「じゃあ行こうか。シーナもおいで」

 フェナが腕を振るう。緑のキラキラが宙を舞うとホェイワーズが浮き上がる。

「シーナも飛ぶか?」

「歩きますって!」

 門の外を出ると、噂には聞いていたが壁の周りに簡易宿が延々と出来上がっていた。お世辞にも居心地が良さそうには見えないが、冬の魔物が少ないのは安心なのだろう。

 宙に浮くホェイワーズを見るために、皆が顔を出していた。

「ヤハトもおつかれ!」

「うん。すっげえつかれた。フェナ様が張り切りすぎてて……」

「お前がやる気満々だったから合わせてやったのに」

「そうですね」

 そこは否定できないのか、ヤハトが困った顔をしていた。

「そうだ! シーナこれありがとう。ちょっと足場が悪くてコケたときに身代わりになってくれた。粉々になったや」

 腰にぶら下げている守り石のお守りだ。

「役に立ったなら良かったけど……粉々になるのかぁ。また新しい石買わないとね!」

「粉になったやつが散らばらなくていいや、これ」

「ヤハト、それもっと人前で言ってちょうだい」

「人前?」

「売り出ししたいの! ホェイワーズでお金が消えていったから、稼がないと……流行りを作ろうかなってね」

「ホェイワーズ、シーナの取り分以外で大金貨五十枚補填できるだろ? しかも今回の大きいから四つ分くらいいけそうだし」

「え、あれでかいの?」

「うん。丸々肥えてる」

 それは肉付きに言う言葉だと思っていました。

「依頼ってさ、普通は前金払うし、フェナ様に依頼するならもっと金積まないとだし。それでいて、フェナ様はないけど、全滅による依頼不達成だってあるんだぞ? こんな品質の良いものも手に入らないかもしれない。だから、わりとものによっては損することも多い。そのかわり、こうやって当たりが引ければ依頼金よりさらに儲けることができるんだよ? じゃないと、ホェイワーズ狩り依頼したシーナが損じゃん」

 まあ言われてみれば。なんのリスクもなくお得ならイェルムが在庫を欠かさないように都度冒険者に依頼するだろう。

「金の心配はしなくていいだろ」

 そう言い切ってもらえると、心が少し落ち着く。

 先ほどビェルスクに、他の素材は金になるか聞いたが、イマイチっぽかったので心配していた。

 分厚い層となった仮設宿を越えて、糸の素材を染めたりする建物の多い、街の北側にやってきた。

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