120.オーダーメイド家具

 二日間、予約をとった人たちの組み紐トゥトゥガはかなり満足のいく出来だった。相手もまた利用したいと言ってくれている。

 今日は予約をギルドの隅でと思っていたが、イェルムから家具の選定のお誘いを受けたので、そちらを優先することにした。あまりモタモタしていたら冬になってしまう。

「お仕事を始められたそうで、おめでとうございます。手応えはどうでした?」

「ありがとうございます。色見本の選定をしっかりしているのでかなり順調でした」

「それはそれは」

「おめでとうシーナ」

 今日はアルバートも一緒だ。お祝いの言葉になんだか照れてしまう。

「あ、アルバートさんにもこれをどうぞ」

 守り袋だ。

「これは?」

「中に守り石が入ってます。ここの結び方が私の故郷では、願いが叶いますようにって意味を持っているんです。アルバートさんが無事に過ごせますようにという意味で」

「なんだか可愛いね。ありがとう」

「今後、イェルムさんと流行らせていきたいんです。もし良かったら見えるベルトとかにつけてください」

 シーナか言うと、アルバートは素直にベルトにつける。

 くっ……可愛い。プラプラぶら下がっている姿が可愛い。

「おや、黒じゃないんですか?」

「黒? ああ、紐ですね。アルバートさんは何色でも似合うと思うんですけど、この間の礼服の白と金と赤がとっっっても似合ってたので赤い紐にしました」

 いやー、何度思い出してもあの礼服はいい。

 イェルムが何やら言いたげな顔をしていた。


 家具屋は広い敷地が必要なのか少し中心からは離れたところにある。三人で連れ立って向うと、奥から工房の親方であろう人が出てきた。

「お待ちしてましたよ、こちらです」

 工房の裏に展示品がずらりと並べてあった。

 机の形から大きさ、足の部分の装飾と、様々なものが並んでいる。

「木材が揃いましたので、形が決まれば最優先で作りますよ」

「わぁ……家具は揃えたいですよねぇ」

「ベッドのフレームもこちらで頼むつもりですよ。まずは、テーブル、椅子、クローゼット、食器棚の類を決めましょう」

 キッチンに置く、食事用テーブルと椅子。食器棚。クローゼットとサイドボード、ベッド横のサイドテーブル。洗面所に置くタオル類の引き出し。

 冬までに必要なのはとりあえずこれくらいだ。

「冬以降また少しずつ家具を揃えようと思っています」

「そうですね。冬までとなるとこのくらいで……」

 

 次はコンロやシンクだ。

「わぁぁ可愛い……」

 フェナの家にあるようなコンロが、屋根と同じような色に塗られている。もちろん直接火にあたるような場所は塗装されていないが、可愛いノブが付いていたりとめちゃくちゃ気に入った。

「これ、これがいいです!」

「了解いたしました」


 絨毯も見せてもらった。

「臙脂色!」

 濃い重い赤にきれいな模様がたくさん入ってる。蔦のような感じだ。

「ベッドのカバーやシーツ類にも合う色にしたつもりです。こちらがカバーの緑ですね」

 きれいな青緑。

「素敵な色でしょう?」

 イェルムの言葉にシーナはうなずき、見本の布を広げてアルバートに見せる。

「どうですか? この色」

「素敵ですね。シーナさんはそんな感じの緑が似合うんですね」

 なんて完璧な返答! さすがだ。

「夏のカーテンは白系にこの緑を入れたら良さそうですね。冬の分はこちらのベージュベースのものにしました」

 これまた趣味が良い。

 こんなに早くに用意できるということは、すでに作られていたものが多いのかもしれないが、それでも色が合っているし、全体的に落ち着いた雰囲気で素敵な物が多い。何かの横流しだとしても問題なしだ。

「あとは食器や調理器具ですね。そこら辺はご自分で揃えますか? おすすめの食器屋は紹介できます」

「まず冬の間使うものだけ揃えてみます」

「来客用の茶器などは残っていましたから、そのまま使うのもよいかもしれませんね」

 茶器は高価そうだし、自分で普段使いするものは買えばいいのでそうしようかなと思う。

「買い物に行くなら付き合うので声をかけてくれ」

 アルバートの、申し出にブンブンと首を振る。

「そこまで甘えられませんよ」

 荷物持ちなぞさせられない。

「甘えられるところには甘えたほうが良いですよ?」

 なぜかイェルムさんからそう言われて、アルバートがニコリと微笑む。百万ドルの笑顔だ。

 でも確かに、しばらくフェナたちがいない。バルやヤハトについてきてとお願いできない。

「お言葉に……甘えます。まだちょっと先ですけど」

 三人でそのまま家までやってきた。もう工事が入っているそうだ。

 もともと周りがギルドで、人通りも多く賑やかな場所だが、今は工事が入っていていっそう賑やかだ。トイレのところと、キッチンと小部屋の壁がすでに取り払われている。作業の邪魔にならないようにそっと覗き見た。

「シャワー部分は悩んだのですが、少し浴槽から離して、立ったまま浴びることのできるものと、座って浴びることのできるもの。二箇所にしました。その、ホース? とやらのような材質のものは見つからなかったのです。今後見つけたらまた作り変えても良いですね。おっしゃっていた追い焚き機能もこちらで実現いたしました。ズシェさんがかなり楽しんで作ってらっしゃいましたよ。シャワーも、追い焚きも」

 蓋がないので、冬場は長湯したら冷めるかとおもい、追い焚き機能を搭載してもらった。浴槽は壁よりに作ってもらったので、壁にボタンがある。

 浴室の外には洗面台とタオル類をしまう棚。そして浴室と反対側にトイレの扉だ。

 洗濯機はない。

 自分が居たのがガラの店だったせいで、その頃から洗濯物は出ない。なぜなら自分を丸ごと洗浄するからだ。洋服も傷まない画期的な方法である。

 もちろん組み紐トゥトゥガに頼れない者たちは手洗いだ。

 二階への階段を登りきったところは、お願いした通り一段落下がって作られていた。

 上がり框みたいでかなり良い感じだ。

「おっしゃっていたスリッパ、と、スリッパかけ、も用意しておりますよ」

 スリッパのようなものはなかったそうで、一応図解してみたら、上手に作ってくれていた。

「冬用に少し温かい生地にしてみました」

「完璧です。ああ、仕上がりが楽しみです……」

 本当に、大変ではあるが楽しみだ。日々、せめて維持費を捻出できるよう、組み紐トゥトゥガ師としても頑張らねば!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る