99.組み紐髪飾り検討会

 問題の髪飾りは、宝飾品を並べるような大層な布の張ったトレイに乗せられていた。やたらと、仰々しい。

 昨日食事会に来ていたギルド長は、冒険者ギルドと商業ギルド、シシリアドでも規模の大きな二つ。最近盛り上がっている組み紐ギルド。そして、今回マリーアンヌの花嫁衣装を作った服飾ギルド長だった。

 この場には組み紐ギルド長がいた。彼もまた優秀な組み紐トゥトゥガ師だ。その他は領主夫妻、ディラーベル領主夫妻、第三王女と護衛たちである。

「朝から見せてもらったが、何がどうなってああなったか全くわからん。紐の組み方なのか、それとも光の糸の入れ方なのか」

 へー、と他人事で聞いていたら怒られた。

「お前に関わる大切なことだろうが!」

「そう言われても……この話し合いの目的をはっきりさせてください」

 議題の提示は大切だ。

「目的?」

「目的です。私は糸をもらったので作ってみたら可愛くできたから、これをマリーアンヌ様に差し上げただけです。正直ここに呼ばれていったい何を私に求めているのかわかりません」

「お前は……このすごい発明を、え?」

 ガングルムが思考停止した。

「んー、同じものを作りたいということですか? 作って商品登録して世に広めたいと?」

「そりゃ作ってみたいだろ!」

「この攻撃魔導具のような髪飾りを? まあ貴族御用達になるでしょうけれど、敵対貴族がこれをつけていたらどうするんですか? 攻撃効きませんよ」

 ぐっ、と皆が押し黙る。

「プレゼントした側としては申し訳ありませんが、破棄してなかったことにするのが一番かなぁなんて」

「それは無理ですね。私は間違いなく陛下にお伝えします」

「組み紐を髪飾りにするという手法を、俺も知ってしまった」

 まあそうだろうなぁ。こんな有効的な防御系魔導具ないだろう。先ほどは攻撃といったが、発動したタイミングを聞くに攻撃されてからの反撃に思える。しかも死体の上がり具合などを聞くに、敵意のあるなし、装着者との敵対関係があからさまに結果に出ている。

「索敵の組み紐はわりと融通がきいて、試してみることも簡単でしたけど、これは試してみるのはどうやってやるんですか?」

「王都に特別な魔導具がある。必要魔力量も半端ないからなかなか使いづらいが、そうも言ってられないだろう」

 性能を試すことは出来るらしい。

「同じものを作ることが出来るか、どの部分がこの結果になっているかなとの研究をするのは決定と言うならば、私から申し上げることはもうなにもないのですが?」

 呼ばれた意味がわからない。

「お前は……これの制作者であるとの権利を主張することはしないのか?」

「してどうなるんですか? もうお金は十分ですよ……あーでも後発に持っていかれるのは少々腹立たしいですよね。じゃあ、髪飾りの組み紐を商品登録しようとしてきたら、もうすでにあるって断ってください。というか、なんの素材も含んでない糸で可愛い組み紐髪飾りを作る許可がほしいです。あと、ひと手間省くなら、ここで私に同じであろうものを作らせて、紐の位置の違いとかで変わるのか、光の糸を入れる場所もそっくり同じでないといけないのかを試したほうが、実験……研究がスムーズでしょうね」

 対比実験したほうが早いと思う。

 光の糸を入れる数増やしたり場所変えたり。糸の長さは微妙に違うし、これを作っていたときは適度にキラキララメのように光らせたかっただけなので、糸の入れ方は本当に適当なのだ。適当を再現するのほど難しいものはない。

 とはいえ、面倒くさいのでそこら辺はお任せである。

「……対比実験。やってくださいますか?」

 王女に言われたらそれは命令だ。本人もそれをわかっているのだろうが、その上で言ってきた。

「いくつ作りますか?」

「そっくり作ることは難しいのですよね?」

「光の糸を入れているのが完全に気分なので、私の腕では難しいです」

「では……光の糸を少な目と、同じくらいと、もう少し多め。これはどうでしょう」

「三つですね、わかりました。素糸のみで髪飾りを作るのは許可いただけますか?」

「……少し研究してからにしましょう」

 まあ、光の糸だけがあの結果を生んだとは証明されていないから当然だろう。

「服飾ギルドや商業ギルドから髪飾りの商品登録があった場合はきちんと私が叩き潰しますから安心してくださいな。この可愛い組み紐の髪飾りはシーナ、あなたが初めて作り上げたのだと、私が証人となります」

 割と攻撃力強めの姫君らしい。

「では早速作っていただきましょうか。材料などを手配しなければなりませんね」

組み紐トゥトゥガを編む道具もですね。私が手配いたします」

 マリーアンヌが買って出る。まあ、二度目ですから容易いことですね。

「あ、それなら師匠せんせいに無事を伝えていただけますか? あと、金属加工のお店に簪を頼まないと……」

「それもこちらに任せていただきましょう」

 それが一番早いだろう。

「シーナ、もし素糸で髪飾りを作る許可が出たら、私にも作ってくださいます?」

 え、王家御用達?

「糸を支給していただけますか? 王女様に似合う色を選んでいただいて」

「ええ。楽しみにしているわ。もちろんマリーアンヌの方を先に。せっかくのこれを奪ってしまうことになるから」

「キラキラしてるほうが可愛いので小さな石をくっつけるのもありですね」

「それも合わせて渡すわ。マリーアンヌの分も」

 殿下! とマリーアンヌが恐縮して止めるが、シーナはよろしくお願いしますと返した。

 マリーアンヌの髪飾りを取り上げるのだからそれくらいしても罰は当たらない。

「シーナは何か欲しいものはないの? お金もそこまで必要ではないんでしょう? 爵位は……もっと必要ないようね」

 ブンブンと頭を振ると、王女は苦笑してそういった。

「それでも褒美は必要よ。功績に対する褒美を十分に与えられないのかと、こちらが言われてしまう。私は陛下と相談するけれど、シシリアド領主もそれ相応のものを準備しなければならないのよ」

 そう言われても、欲しいものというのはなかなかに難しい。アルバートの礼装写真集なら欲しいのだが、言えるわけがない。

「まあ、お互い頭を悩ませましょう」

 と、王女はエドワールに言った。

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