100.シーナ空を飛ぶ【100話記念番外編】

ほうきってこれでいいのか?」

 ヤハトが物置小屋から庭の落ち葉を掃くための大きな箒を持ってきてくれた。

「おお! 理想の大きさ!」

「シーナの故郷っておかしなところだな。なんで箒に乗る必要があるの?」

 なんでと言われるとたしかに何故だろう? でも魔女って良いのもいれば悪いのもいるが、基本は悪いよりだし、そう考えると堕落とか、まああっち方面でアレなんだろうなとは思いつくことはいくつか。

 そして気付いてしまった。

 これまたがって飛ぶの、きつくない?? 痛そう……?

 てことで横乗りにします。

「よし、ヤハトGO!」

「これ、シーナを飛ばすの? 箒を飛ばすの?」

「もちろん箒さ!」

 ヤハトが腕を振るうと、ぐっと下から押し上げられて――後ろにぐるりとひっくり返った。

「ぎゃー!!」

 小学生の頃コウモリとか言っていた状態だ。鉄棒に膝だけでぶら下がっている、あの状態になった。

「ゆっくりー! ゆっくりおろして〜!」

 頭が地上について、そのまま下まで。地面に大の字で呆然とする。

「あやつらどうやって箒に乗ってたんだ?」

「なんとなくそうなる予感がした」

 バランス感覚も体幹もゼロに等しいシーナにこれは無理だ。

「シーナを飛ばしたほうがいいんじゃね?」

「ううう……」

 その通りにしてみたが、これは違う。絶対に違う。

 シーナがふんわり宙に浮いて、箒を

 やっぱり箒に乗るには魔女の血が必要なのだ。箒を乗り回すとともに、きっと本人自体も浮いてるのだ。

「よし、絨毯です」

「絨毯?」

 箒がダメなら空とぶ絨毯だ!

「シーナ飛ばせば早いのに」

「それはわかるんだけど〜、ロマンが足りない〜」

 ということで、後できちんと洗浄すると約束して絨毯を借りた。

「空飛びたいの? なぜ?」

 と、ソニアさんに不思議がれれた。

 そこに空があるからです。

 この世界の人、空中の高い視点から指揮官が指示をしたりするのを知っているので空を飛ぶことにそこまでロマンはないらしい。

 フェナも、ひろい場所で魔物の群れなどを相手するときは浮いてると言っていた。

「えー、これ難しいなぁ」

 ヤハトが悩んでいる。ちなみに絨毯は小さい二畳分くらいの大きさのものにしてもらった。庭の真ん中で広げて、シーナは座る。正座で待機!

「さあ! ヤハトくんお願いしますよ!」

 険しい顔をしながら何やウンウン唸っていると、突然後ろの方がぐんと浮き上がり、シーナは前に倒れる。と、慌てたヤハトが、今度は前側を上げてシーナは転がる。

「や、ヤハトぉ〜」

 その後もゴロンゴロンと転がりすぎて降ろしてもらった頃にはぐったりだった。

「絨毯難しい!」

「いや、うんわかった」

 曰く、箒のような硬いものならどこを中心に上げても他がついてくる。人の体もしたから押し上げるようにすればいい。

 たが、絨毯は芯がしっかりしていないので持ち上げる点がない。そうなると精霊にも命じにくいのだそうだ。

「あとは何が飛んでたっけなぁ……」

「シーナ本体飛ばす方が楽なんだけど」

 本体言うな、本体。

「シーナの故郷は空になんにも飛んでない世界ってことか?」

「鳥や昆虫は飛んでるよ。羽を使ってね。こちらの世界と同じ」

 そう、わりと同じなのだ。人は二足歩行で手や足二本ずつ。落とし子ドゥーモも選ばれているということなのかもしれない。そこまでとんでもない違和感のない世界。

「ただ、故郷には技術があった。科学も。空に金属の塊を飛ばすんだよ」

「金属の塊?」

「そう。座席やなんやかんや、三百人くらいが座って空の高いところを行き来するの。船でしか行けなかったところを空路を開拓したんだ。つまり、金属でできた空飛ぶ大型船」

「シーナの故郷の方がすごくね? フェナ様でも金属の塊と三百人は飛ばせないよ」

「技術は、すごく、すごいと思うよ」

 ヤハトにとっては飛行機がロマンなのかもしれない。

「じゃあ次は椅子だな!」

 きちんと洗浄する約束をして椅子を借りてきたヤハト。

「その三百人は椅子に座ってるんだろ? シーナ座って」

 椅子……椅子で空飛ぶ?

 しっかりした椅子という形つくられたものだったので飛ばすのは簡単だったらしい。

 絵面はイマイチ、シーナのロマンには引っかからなかったが、安心安全ではあった。

「すごいーすごいすごいー!!」

 かなり高くまで飛ばしてくれて、シシリアドの街が一望できた。

 西の門からギルドが立ち並ぶ広場、そして海へと向かう大通り。広場から伸びるフェナや領主の館へとつながる道。そして色とりどりの屋根。

 と、突然椅子がくるくる回りだす。

「や、ヤハト!?」

 体は抑えられているのか、落ちることはないが逆さまになったり目まぐるしく動く。

 これは間違いない。

「フェナさまーっ!!!」

「なんだい?」

 しかも直ぐ側にいる。

「びっくりするからやめてください」

「うちのイスが空を飛んでいたら気になるに決まってるじゃないか」

「もー、ゆっくり降ろしてもらえますか?」

「もう終わりでいいの? 仕方ないなぁ」

空の上で寝そべった格好で浮いていたフェナと一緒に、元の庭に降り立つ。

「フェナ様にとられた」

「うん……まあ、ありがとう。楽しかった」

 座っていた椅子を浮かせてもらい、丸洗いする。

「シーナ、この絨毯はなに?」

 フェナが庭に広げてあるものを指差す。

「あー、私の故郷の物語で、空飛ぶ絨毯っていうのがあったんですよ。絨毯の上に乗って、空を飛ぶんです。ヤハトにお願いしたんですけど、絨毯は芯が通ってないから難しかったみたいです」

「ふぅん、こんな風?」

 ふわりと、絨毯が水平に浮く。

「そ、それ!! そんな風です!」

「乗ってもいいよ」

「えっ、ホントですか? あんまりスピード出さないでくださいね、転げ落ちたら怖いから」

「そんなことはさせないよ。ヤハト! お前も乗りなさい。風の使い方を学ぶ良い教材だ」

 

 そのあと三人でシシリアドの上空をあちらこちら巡った。

途中ヤハトがやろうとして落下しかけたりとスリリングではあったが、空飛ぶ絨毯はとても面白かった。絨毯の上で風に吹かれないよう、寒さも感じないようにしてくれたので、快適な空の旅を楽しんだ。


 領主にバルが呼び出されたのはまた別のお話だ。

 


 

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