98.護衛

 とにかく、みな疲労困憊だ。王女も休ませなければと、解散できる者は解散することにした。

 ヤハトが言っていたように騎士団の相打ちがあり、残った騎士団の中でも誰が味方かわからない状態なので、フェナやギーレ、ダーバルクたち冒険者が警備を助けることとなった。

 特に王女の警護が問題で、すでに王都から軍が動いてきているが、先発隊がどれだけ無茶をしても三日かかるので、必然的にフェナ中心の警護となった。

「えー、もう帰りたいんだけど」

「えーとか言うなぁ! ちゃんとギルドから特別依頼をだしたことにするから仕事だ!」

「もう今日十分仕事したし」

「残党はさっき調べて多分いないだろうけど、なんか変な仕掛けでもあったら困る。軍がつくまでは頑張ってくれよぉ」

 冒険ギルド長が泣いている。

「フェアリーナ! 今は非常事態です。己にしかできぬ仕事をしなさい」

 ピシャリと言うのはディラーベル領主夫人だ。

「疲れた。一人であれだけ動いて疲れた」

「疲れているのは皆同じです!」

 若いピチピチの頃はもてもてだっただろうなと思える、ディーラベル領主夫人は、これまたフェナと同じように背が高く、また姿勢が美しい鼻筋の通ったキリッとした美人だった。きれいな金髪だ。

 それでも王女の前でぐだぐだとまだごねている。

 王女も困っていた。

 仕方ない、ここはシーナの出番である。

「僭越ながら……フェナ様……新しい食感のお菓子」

「……食感?」

「食べたことのない食感です」

「アイスより?」

「アイス並みに初めてです。たぶん、生まれて初めて」

「……料理の方も」

 ううん、それはまた難題。と思ったが、食べたかったものを思い出した。

「お屋敷に帰ったら。試行錯誤が必要ですけど」

「ふむ……三日だ。三日働いたら帰る。その前に少しだけ仮眠も要求する」

 皆がホッとした表情になる。

「確かシーナの客室用意したって言ってたよね? そこで寝る」

「はぁ!? それじゃあ私が休めないじゃないですか!」

 もちろんシーナも帰してもらえない残留組だ。

「寝てる間に作っといて」

「ええー、例のごとく分量に不安があるんですけど。電子レンジないし蒸し器でやらないとだしなぁ」

 蒸し器あるのか?

「まあやってみます」

 たしかに一番働いてるのはフェナなのでご褒美を作ろう。レシピがバレるけど、仕方ない。

「誰か、フェナ様を部屋へ」

「あ、私が連れていきます。皆さんお忙しいでしょうから」

「その後厨房に行くのに一人で歩かせるな。アルバート、シーナが館内を彷徨くときはお前が常についていろ」

 フェナが勝手に命じる。

「駄目ですよ、それでなくても領主様の護衛も少ないのに」

 何人も亡くなったと聞いている。

「いや、こちらには冒険者のゴールドランクもいる。アルバートはシーナについていなさい」

「はっ!」

 それではお先に失礼しますと、三人は部屋を出てシーナが前日から泊まっていた部屋へ向う。

「シーナ、洗浄して」

「えー自分でしてくださいよ〜」

「疲れた」

 その声が本当に疲れていてギョッとした。

「フェナ様、もしかして本当の本当に疲れてるんですか?」

「あれだけ咄嗟に無理やり精霊を使って疲れない方がおかしい」

「初めに皆を引き寄せたとき、防御系魔導具を持っているかの判断はつかないから、反発を食らいながらも集めてくださったんだよ」

 王女たちは当然持っているから端から呼び寄せはしなかったが、子爵や他領の領主たちはわからないのでとりあえず呼び寄せた。その中の何人もが魔導具を持っており、敵認定を受け反撃を食らっている。カウンター状態なので全てそのまま受けているのだ。

「治癒を施しながらあれだけの動きができるのは、感服致します」

「え! それなら仮眠じゃなくてしっかり休んだほうが良くないですか!?」

「ゆっくり休んだら姫様の警護をする人がいなくなるだろうが。だから、シーナのお菓子に期待している」

「お菓子食べても体の疲れは回復しないですよ〜」

「気持ちは回復する」

 そこまで気に入ってくれているのは嬉しいけど嬉しくない。

 部屋までフェナを送り届けて、そのまま厨房へ向かった。

「お疲れ様です。さっきはご飯ありがとうございましたって、食器そのままでしたね。後でまた持ってきます」

「おう! 食器は回収済みだ。んで? どうした?」

「お疲れのフェナ様ご所望のお菓子を作りに来ました。厨房の端っこ、貸してください」


 というわけで、今日はプリン・ア・ラ・モードを作りました!


 ゼラチンを使わない電子レンジでチンするタイプだったのだが、蒸しでやることにした。蒸し器がなかったのでいらない食器貸してといったら豪華なのが出てきて困った。今度またチャムの工房へ突撃だ。

 フェナ様は今まで見てきて割とフルーツも好きなようだったのでプリン・ア・ラ・モードにしたが、正解だったようだ。ちなみにフルーツの飾り切りは専門家に任せました。生クリームも泡立ててくれた。そのかわりガッツリ見られた。

 とにかく、フェナは機嫌を直して護衛業務に向かってくれた。そしてシーナは風呂に入りたいのを我慢して、泥のように眠った。


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