20.組み紐ギルド
組み紐ギルドは、街の中心より少し海よりへ行ったところにあった。間口の広い立派な建物だ。人の出入りも多く、五つある受け付けも長蛇の列になっていた。
「すごい人ですね」
「今日は赤の地区の申告最終日だからね」
シシドリアは昔、地区によって屋根の色がちがっていたらしい。今はそれぞれ持ち主が好き勝手に塗るので、カラフルな町並みとなっている。ただ、地区の名前はその昔のまま引き継がれていた。ガラの店があるのは緑の地区だ。屋根は黄色である。
「申告?」
「わたしもこの間来たわよ。
ようは締め日を地区によって変えていると言うことか。
ガラは人の波を掻い潜り、一番左奥の受付へ向かった。そこには人の列がなく、受付の女性はガラに気づくとにこりと笑顔を見せた。
「いらっしゃいませ。ギルド長室へお願いします」
そういって、受付横の腰の高さの仕切りを外へあけて、二人を招き入れた。
奥の階段を先導して行く。
偉い人の部屋と言うのは大概奥の奥にある。
「ガラ様とお連れ様がいらっしゃいました」
ノックをしてそう言うと、どうぞとくぐもった男性の声が返ってきた。
扉を開けて入ると、奥の大きく広い机から、五十代を越えたくらいの大柄な男が立ち上がり二人をその手前の机へ促した。濃茶色の髪には少し白いものが混じりはじめている。面白いことに地球と同じく歳を取ると、髪の毛の色素が落ちる傾向にあるらしい。
「忙しいところありがとう」
「ギルド長こそ、お時間を作っていただき感謝します」
なれた様子で二人は握手をし、彼がこちらを見た。
「君がシーナだね」
「はい、よろしくお願いします」
ついやめられない、頭を下げる仕草に、ギルド長はうなずいた。
「組み紐ギルド長のガングルムだ。さあ、座って。早速本題に入ろう」
椅子に腰かけたところへ先ほどの女性がお茶を運んできた。彼女が出ていくのを見届けると、元々置いてあった数枚の紙を差し出してきた。
「神殿の方から、色々と条件や希望は聞いているが、まずは、あの索敵の耳飾りだ。なんなんだあれは」
青い目を爛々とさせて、シーナの方へずいっと顔を向けてきた。
「消費魔力を押さえるあの発想はどこから生まれたんだ!?
大興奮である。
たまたまなのだが、どうしよう。がっかりされないだろうか?
「えー、故郷に、組み紐の文化がありまして、その組み紐を使ったかわいい耳飾りがあったので真似て作ってみたら運良く効能が乗ったというか」
たまたまラッキーを遠回しに言ってみる。
「ほう、故郷にも同じような組み紐が?」
「こちらの世界のように精霊を使うためとかそんな力はないんですけど。……あーでも、色々と意味はあったかなぁ。願い事が叶いますようにとか、結び方で慶事に使うものとか弔事に使うものとか……ただもう本当に特別な能力はなく風習的なものでしたが」
ふんふんと食いぎみに頷いているガングルムと、始めて聞いた話に珍しそうにしているガラ。
「これも大樹様のお導きなのかもしれないなぁ」
結局そこに行き着くのである。
「さて、現実的な話をしよう」
マネーの話だ。
「一応神殿を通して要望は聞いている」
一、耳飾りの
二、従来の効能とさほど変わらないものは商品登録はできない。せめて二倍の効能がなければ登録できない。
三、索敵の
「ずいぶんと無欲だと思うのだが……」
「いえ、十分遊んで暮らせるほどのお金になると思うのです」
年数で商品登録が無効になったりはしない。本人が死ぬまでは適用される。帰ってからもう一度計算したがかなり余裕ができるだろう。このシシリアドだけでも。
「だが、今よりずっと良い効果のものが作られたら、君に使用料は入らなくなる」
「それでも、耳飾りとしての一分は常に入ります。いわゆる三つ目、四つ目の
魔除けは普通銀貨一枚程度。百本売れたら銀貨一枚手に入る。売れるのは百なんて数じゃない。
「それはだめよ。もらえるものはもらいなさい」
利益には厳しいガラ。それにうなずくガングルム。
「金はいくらあっても困らない。君は我らの倍生きると言われているし、老後の資金は溜め込むべきだ。神殿に預けておけば、
「お金……預けるところあるんですね」
「ん?……ガラ、もっと色々と教えてやらないと」
「それが難しいんですよ! 何を知らないのか知らないんですから。普段の会話で知らないことを察して教えてはきましたけど、漏れはまだまだ山ほどあります」
「ん、まあそうだな。半年くらいだったか? ふむ、もしよかったら、しばらくうちの店に来てみるか? 同じ場所では同じ質問しか出ないだ……」
「やめてください!
食いぎみにガラが否定すると、ガングルムは口許をニヤリと歪めた。
「面白そうなんだがなぁ」
「常識に関しては子ども以下なんですから、まだまだゆっくりと教えていくんですよ」
「君は、教えがゆっくり過ぎるんだ。どんどん一人前に仕立てていかねば、それでなくても
なんだろう、雲行きが怪しくなってくる。ガラもあからさまに不機嫌な顔を隠さない。
「それでなくても、不穏な噂を耳にするようになっているのに」
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