11.火吹きトカゲ
今回の依頼は、西の森の奥で火吹きトカゲが目撃されたことによる、冒険者ギルドからの特別依頼だった。火吹きトカゲがいる場所には、火吹きトカゲの主食となる火の精霊石があることが多い。火の精霊石は、ぶつけると火花を散らすし、火種にすれば、炭よりずっと長く火を纏うし、少し魔力を流してやれば鎮火し、続きから使える。街の中でも外でも重宝される石だ。
商業ギルドも是非手に入れたい代物。
ただ、名前の通り火を吹くので危険だ。この火は、一度人につくと、なかなか鎮火しない。厄介な魔物なのだ。
ちなみに、このトカゲは主食によってその性質を変える。石を食べるものもいるようで、固い表皮の石トカゲや、鉄鉱石を食べれば鉄トカゲとなる。
「まず、出発して目撃情報のあった西の森の奥を目指した。大体二日はかかる行程だが、フェナ様がいるからな」
ここで偉大な精霊使いの出番だ。土の精霊で足場を固め、風の精霊をまといスピードをあげる。速度は普段の四倍にまでなる。
「半日もたたずに目的地近くまでたどり着いた」
なにより、走ることができる。
その日はそこまでにして、朝早くに目的地に向かうことにしたらしい。
「野営の準備をして……」
「ストップ! そこを詳しく」
「あー、まず寝床だけど、魔物避けと、隠蔽の魔法を地面に施して、火を使うのは森のかなり奥だからやめておいた。側に光源があると見えにくくなるし、魔物に自分達の居場所を教えることになるからな。夕飯は干した肉と、水」
「わぁ、侘しい」
「んで、交代で見張りたてて、見張りは定期的に探知の魔法を使う」
シーナがバルへ顔を向けると、彼は腕の
「左腕のは探知、索敵の
明け方に起きて、目的地へ近づけば、火吹きトカゲが五匹ほど見つかった。五匹は一瞬でフェナに始末され、そのあとは精霊石を探す。
結果かなりの数と大きさの火の精霊石を見つけたので、証拠としていくつかを持ち帰ったと言う。
「確実にあるとわかれば、冒険者を引き連れ冒険者ギルドと商業ギルドが一緒に隊列を組んで向かうだけだ」
「なんで、フェナ様に依頼が来たんですか?」
「今回はなにより確認のスピードが大切だった。火吹きトカゲの始末に手間取らない実力もね。他の者に横取りされるのが一番の問題だったから」
どこの街でも、どこの国でも、精霊石は重宝される。フェナの土と風を利用したスピードは有名だそうだ。
三人が街に帰るとすぐにあった場合を想定して準備していた組合が出発した。人数を割くだけの価値のあるものだ。
「隠蔽と、索敵はいいかもしれない」
「当然だけどこれ内緒な。今だってまわりに声が漏れないようにして話してたんだから」
「はーい」
索敵はちらりとバルの
「作ったら試してもらってもいいですか?」
「依頼がないときなら」
やったーと喜んでいると、ヤハトがバルを肘で小突く。
「ああ、その代わりといってはなんだが、シーナに頼みがあるんだ」
「私に?」
「あのときもらったパスタとやらを、作ってはもらえないだろうか?」
あの時というのは、シーナがこちらにやってきたときのことだ。つまり、冷製パスタを作ってほしいと言うことだ。
「いやー、ここって、麺類ないんですよね」
そう、この街に限ってなのか、国なのか世界なのかはわからないが、パスタと言うよりも麺類がないのだ。ラーメンとは言わないが、何かしらの麺が欲しかった。残念の極みである。
「んーでも、作ろうと思えば作れるの、か?」
パン主食だから強力粉はあるだろうし、あとは卵と塩と油だ。
「分量の試行錯誤は必要だろうけど……」
スパゲッティなどの細いものは無理でも、生地さえできればあとは包丁で切って、茹でればいい。昔生パスタだと、自宅で何度か作ったことがある。
「材料はこちらで何でも、どれだけでも用意するから、ぜひ!」
「結局できないかもしれませんよ?」
「似たものが全く見つからず、フェナ様にはせっつかれるし、困っている」
眉をひそめて項垂れるバル。あの好き勝手なフェナに再三求められるのは確かに面倒なことだろう。我が儘を言うことに慣れている人種だ。
「とりあえず、お休みの日に試してみましょうか」
「ありがとう!」
「やったね! あれうまかったもんなぁ」
かなり世話になっているので、とりあえず頑張ってみることにした。
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