12.索敵の組み紐

 早速その日から新しい組み紐の耳飾り製作に精を出した。索敵は自分を中心に円を描くように精霊を放つものなので、輪が三つ、互いに交差しているような一般的な形にしてみた。

 紐に本来の索敵の縦の紋様を二色の糸で作り、それをあわじ結びにするのだ。

 紋様もだが、使う糸も慎重に選びたかったが、本当に糸の組み合わせは複雑怪奇でシーナにはまだまだわからない。だから、バルの持っていたものに使われた糸をそのまま真似してみた。

 色合いは悪くない。薄い黄色に若草色の糸を合わせる。紐状に編み上がったそれで輪を作るのだ。

 耳元に輪が飾られる。


師匠せんせい! 新作です」

 作業の合間に進めていたそれを鼻息荒く提出すると、ガラはシーナから受けとった。そしてだんだんと眉間のシワが深まっていった。

「お、おかしなことになってますか?」

「うーん、いえ、糸の選択も紋様も間違いはないわ。けど……」

「けど?」

「うー、ん……だれかに試してもらうしかないわね。効果のほどがわからない。何この輪は。どんな影響がでるか予測がつかない」

 またしても問題作を作ってしまったようだ。

「バルさんに、できたら試して欲しいとはいってあるんですが」

 おずおずと提案すると、ガラの顔がパッと晴れた。

「いいじゃない。フェナ様の興味も引けば、耳が吹っ飛んでも治癒していただけるわ」


 耳が吹っ飛ぶとは。


「そうよ、フェナ様も巻き込んでおきなさい。この耳飾り、ちょっと物議を醸すかもしれなくなってきたのよ」


 本来、一般の者の組み紐トゥトゥガを持てる数は二本までである。それは、訓練していない者や適正のない者は、同じ腕に二本つけていると魔力を上手く通すのが難しいからだ。左右の腕に一本ずつ。

 組み紐トゥトゥガは腕につけるもの。

 その固定観念が世間を支配していた。

 それが、シーナの耳飾りで覆される。

 三つ目、四つ目の組み紐トゥトゥガを持てる可能性が生まれた。

「精霊使いには無用の話かもしれないけどね、私たち一般人からすると増やせるのはありがたい。魔除け、火起こし以外に何を持てるか。今まで用途に応じて付け替えていたその手間を省けるの」

 とは言え懸念がないわけでもない。

「耳飾りの組み紐トゥトゥガは効果がまだわからない。安全性がわからないのよ」

 落とし子ドゥーモが作った耳飾り、と言うことで目こぼしされているのが現状だ。他の職人たちが手を出してこない理由のひとつもここにある。長い歴史と実績のある組み紐トゥトゥガ、その紋様。培ってきた技術。上乗せされた信頼。そこへ現れた耳飾り。

 新しい物に興味は持てど警戒するのはどこの世界も同じだった。

「フェナ様を巻き込んでおきなさい。あの人の発言には力がある」

 この街に滞在する実力のある精霊使いの言葉は重い。

「この耳飾りはあなた発案だということを知らしめておく必要があるの。……先日、神殿に相談に行ってきた。新しい紋様や編みかたを産み出したら、神殿に登録するの。そうすると、それぞれの工房が使用料を払って、その新しい紋様や編みかたを使った商品を作る。使用料は、手間賃を除いて産み出した者に渡されるの」

「特許、ですね」

「トッキョ?」

「そのシステムです。私の世界では特許と言ってました。使用料を払って技術を使うんです」

「同じようなものがあるのね。なら理解しやすいでしょう? 先に登録されたら負けなのよ。だから、私は耳飾りの組み紐トゥトゥガを登録しようと相談してきたの。それなら、新しい形がでても、耳飾りである限り、シーナにお金が入ってくるからね」

 そこで、ガラは少しトーンダウンする。

「あなたは落とし子ドゥーモよ。周りよりずっと長生きをする。私や、フェナ様が健在な間はなんだかんだと面倒を見てあげられる。でもね、シーナ、確実に私が先に老いるのよ」

 ガラは力強くシーナの両肩を掴み、目を真っ直ぐ覗き込む。

「お金は大事」

「ですね」

 師匠の言葉はとても重いものだった。

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