10.冒険者

 この世界には、冒険者と呼ばれるものたちがいる。

 彼らは大まかに二つのタイプにわかれていた。街に定住し、ギルドや個人からの依頼を受けて生計を得る者。街から街へと移動し、それぞれの街で依頼を受けるもの。

 移動をするタイプには若い者が多い。世界を見てまわりたい、たまに産まれるダンジョンの踏破者になりたい。若者が多いのも特徴だ。

 定住するのは、元よりその土地の生まれだったり、流れて冒険者をやっていくことに疲れを感じた者、歳を取ったり、結婚で、などと理由は様々だ。

 フェナは、何年か前に近くに現れたダンジョンを踏破し、その時滞在したこの街が気に入ったとかで留まっているらしい。本来は流れタイプの冒険者だったと言う。

「未だに王都からきてくれって言われてるほどすごいんだぞ」

 とは、ヤハト。フラフラと気の向くままに魔物を爆発させてたフェナに、無理矢理くっついていった、いわゆる押し掛け弟子。剣も扱えるが、実は精霊使いだった。

 バルは、途中で無理矢理同行を強要された冒険者。彼はほとんど精霊を使えない。魔力もシーナ以下らしい。物知りで器用で旅に便利だから連れ去られた。周りがとても名誉なことだと逃げ道を塞ぐので、最初は渋々だったが、今は生活能力皆無のフェナを放っておけないと、甲斐甲斐しく世話している。

 精霊使いは神殿に、冒険者は冒険者ギルドに登録するのが決まりだ。精霊使いは冒険者を兼ねることが多く、両方に登録することになる。

 神殿では、魔力量や熟練度を調べられ、ランクを決められる。それにより、専用の組み紐トゥトゥガを持てる最大本数が決まる。一の雫が一番弱く、フェナは七の雫。歴代の大精霊使いだと、最高十らしいので、フェナはかなりの使い手といえる。ヤハトはまだ四だそうだ。雫という単位は、精霊は世界樹の雫から産まれると言われているからだそうだ。

 冒険者のランクは、ブロンズから始まり、シルバーゴールドプラチナの四段階。実際はブロンズ前の駆け出しと言われる冒険者のランクカードをもらえる前の試験のようなものがあるらしい。その街ごとに決められた討伐対象をこれまた決められた数こなしてようやく冒険者と名乗れるブロンズカードを与えられるというわけだ。


「駆け出しが大変なんだよ、数が多くてさ。まあ、ギルドもひよっこの面倒見るのが嫌だから、それなりに本気で冒険者としてやっていこうと、思ってないとやりきれないような試験を出すんだ。俺の場合は一角ウサギ百匹。半年かかった」

「百はきついな。俺は採集五十の一角ウサギ五十だ」

「採集の種類によるなぁ」

「ミカカミ草だな」

「げー、時期と時間限定かよ」

 冒険者と聞いて真っ先に思い出したのがバルだった。聞きたいことがあるので、時間が空いたら少し話を聞いてもらえないかと近所の子どもに言伝てを頼んだら、ちょうど討伐依頼を片付けて帰ってきてたらしく、次の日の夜酒屋に誘われた。そして店まで迎えにきたのはバルとヤハトだった。

 最初に街につれてきてもらってから、何度も会っていた。フェナの付き添いだったり、心配してくれているのかふらりと菓子を持って上手くやっているか? 食べ物は口に合っているのか? と、様子を見に来る。心の中で、母親かよと突っ込んでいたが、知り合いの少ないこの世界では、そんな気遣いにずいぶん助けられた。

 だが、酒場に誘われたのは初めてだ。

「いや、そのずいぶんと幼い顔だちをしているので、未成年かと……」

 というまさかのお言葉もいただいた。チキュウ種の中でも日本人だからか。

「俺より上だとは思わなかった」

 シーナは一目でヤハトが年下だと見抜いたが、相手はわかっていなかったようだ。

「若くみられるのは全く問題ありません」

 むしろ嬉しいくらいだと思っていたが、そんなシーナに二人はキョトンとした目を向けた。

「侮られるだろ?」

 バルの言葉にうーんと唸る。

 半年過ごして、侮られたと感じたことはあまりない。ご近所ではシーナが落とし子ドゥーモであることは有名で、シーナが何も知らないのを前提として話してくる。シーナも何も知らないのを前提として話を聞く。正直相手がシーナを侮るような事態が起こらない。

「そんなものなのか」

「私のことなんていいんですよ! それよりも、冒険者のお二人に質問があるんです」

「そう言えば、聞きたいことがあると言っていたな」

 お酒と料理が並び終わったし、とっとと本題にはいることにした。

「冒険者としてあると便利な既製品の組み紐トゥトゥガってありますか?」

「あると便利な?」

「あれか、フェナ様がやたらと気に入ってる耳飾りのやつか」

「そう! いま作ってるのは疲労軽減と魔除けなんだけど、なんかもう少し役に立つものはないかなぁって。腕に許可がない人たちができる本数って、二本まででしょ? ピアスで代用できたのはいいけど、精霊使いが町のそとに出たときに、使う頻度の高い魔法があって、紋様があるならピアスで作れないかなって」

「へー、面白いな。着火は? 夜営でも必須だし、たしか紋様あったよな」

「着火の魔法って、少し火花が散るでしょ? 耳元、顔の近くでそれは嫌かなぁって」

 確かに、とヤハトが頷く。

 着火とまではいかないが、それなりに使用頻度が多く、攻撃的なものではないのを求めている。

「冒険者の一日の流れ的なのを教えてもらいたいなって思って。最近まで依頼をこなしていたんでしょう?」

 外の世界に少し興味もあった。

「そうだな……」

 

 そうやって、バルとヤハトが今回の依頼について語りだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る