第23話「一斗の告白は」

 テストの日となった。

 青桜高校は三日間テストが行われる。俺、一斗もちゃんと勉強はしてきたつもりだが、どうだろうか。今日は苦手な数学がある。俺は計算ミスに気をつけながら解いた……つもりだが、分からないところもあった。これはまた二葉に教えてもらった方がいいかもしれないなと思った。


「うあー、やっと終わった……マジでしんどいなー」


 テストが終わり、洸太がやって来てうーんと背伸びをしながら言った。たしかにしんどいのは間違いないが、テストはあと二日あるのだった。


「ああ、なかなかきついな……あと二日もあるなんて」

「ほんとだよなー、誰だよテストなんて考えた奴……マジでぶん殴ってやりたいよ」

「それはさすがにまずいのでは……まぁいいか。帰るか?」

「あ、ああ、俺ちょっと用事あるから、あ、明日また一緒に帰ろうぜ」


 なぜかそわそわしている洸太だった。よく分からないが、用事があるなら仕方がない。帰ろうかと準備をしていると、


「あーいたいた、一斗くーん!」


 と、俺を呼ぶ声がした。見ると横溝さんが手を振りながらこちらに来ていた。


「ああ、お疲れさま。なにかあった?」

「あ、もしよかったらなんだけど、一緒に帰らないかなーと思ってね」

「おおっ、なんだよ一斗もモテるなぁ、女の子と下校できるなんてさー、んじゃまた明日なー」


 そういうわけではないと言おうとしたが、洸太はあっという間に教室から出て行ってしまった。


「川島くんの言ってた通りだねぇ、一斗くんもモテるようになっちゃってー!」

「い、いや、それ横溝さんが言うセリフかな……ま、まぁいいか。じゃあ帰ろっか」


 よく分からないことが続くが、とりあえず横溝さんと一緒に帰ることにした。


(そ、そういえば二葉に横溝さんのことどう思っているか訊かれたんだった……ま、まぁ、横溝さんは可愛いし、いいなと思わなくもないというか……)


 チラリと横目で横溝さんを見ると、なぜかちょっとだけ下を向いていた。何かあったのだろうかと思ったが、訊くことができずにいると、


「……あ、あの、一斗くん」


 と、逆に名前を呼ばれてしまった。


「ん? どうかした?」

「あ、いや、そのね、あの……」


 いつもの横溝さんらしくない、ハッキリしない言葉が聞こえてきた。なんだろう、何か悩み事だろうか。


「……あれ? もしかして何か悩み事?」

「ああ、まぁ悩み事というか、なんというか……って、ハッキリ言わないとダメだな、い、一斗くんに聞いてもらいたいことがあって」


 そう言って歩みを止めた横溝さんだった。聞いてほしいこと? なんだろうか。


「え、ま、まぁ、聞くけど……?」

「あ、あのね……私、一斗くんのことが好きです。もしよかったら、お付き合いしてもらえませんか?」


 ああ、なるほど、俺のことが好きと。


 ……って、理解するのに数秒かかった。え!? お、俺のことが好き……?


「え、あ、俺のことが……?」

「……うん、RINEでも話して、この前もデートしてさ、私の中で一斗くんがどんどん大きくなっていってさ……って、は、恥ずかしいな……」


 恥ずかしそうにもじもじする横溝さん。ま、まさかこれが、告白というやつか……? 初めてのことで混乱してきたが、さっき横溝さんはお付き合いしてもらえませんかと訊いてきたのだ。これは返事をしないといけないよな……ぐるぐると頭の中で考えた。


「……あ、ごめん、返事を急ぐわけじゃないからさ、ゆっくり考えてもらって――」

「……いや、せっかく横溝さんが告白してくれたから、返事しないと。お、俺も実は、横溝さんのこといいなって思っていて……こんな俺でよかったら、お付き合いしてください」


 ……あれ? 俺、「好き」という言葉を言わなかったな。横溝さんは言ってくれたのに、ちょっとずるかっただろうか。


「ほ、ほんと!? よかったぁ~、今全身の力が抜けたような感じになったよー」

「だ、大丈夫? って、そう心配するのもおかしいのかな……」

「うん、大丈夫。えへへ、一斗くんありがとう」


 そう言って横溝さんが俺の右腕にきゅっと抱きついてきた。


「一斗くん、私のこと、『新奈』って呼んでほしいな……」

「え、あ、そっか、じゃ、じゃあ……新奈と呼ぶようにします……」

「あはは、なんか敬語になってるー。でも嬉しい、一斗くんに嫌われてたらどうしようと心配だったから……」

「い、いや、大丈夫……ていうか、俺は人を好きになったことがなくて、これでいいのかなって思ってて……」

「そっか、いいと思うよ、私のこと少しずつ分かってもらえたら嬉しい」

「わ、分かった、よこ……新奈も、俺のこと少しずつ分かってもらえたら」


 新奈がニコッと笑った。か、可愛い……でもそうか、つ、ついに俺にも彼女という人が……不思議な気持ちになっているのは、俺だけではないと思いたい。

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