第22話「二葉の告白は」

 テストの日となった。

 青桜高校は三日間テストが行われる。私、二葉もちゃんと勉強はしてきたつもりだが、どうだろうか。いつも緊張してしまうのは仕方ないのかもしれない。

 今日は現代文、数学、地理のテストが行われた。うん、数学はいつものようにしっかりと解けたんじゃないかな。他は……まあまあということで。


「ああー、やっと終わったねー、私ヤバいかも……」


 テストが終わり、隣の席で新奈が弱々しい声を出した。新奈ってそんなに勉強を苦手としていたっけ? まぁ二年生になってさらに難しくなったから、気持ちは分かる気がした。


「うん、でもまだまだテストはあるよ」

「そーなんだよねー、仕方ない、帰ってひと眠りしてから、また頑張ろうかなー」

「そのまま朝まで寝てしまったりして」

「えー、さすがにそこまではないよー、でも勉強する気力がなくなるかもしれない」


 新奈がふああとあくびをしたので、私は笑った。


「まぁ、またRINEするからさ、頑張ろう。さてそろそろ帰ろうかな」


 私はそう言って、鞄を持って教室を出る。一緒に帰るかなと思った新奈は、いつの間にかどこかへ行っていた。もう帰ったのかなと思いながら一階に来たその時、


「――あ、二葉ちゃん!」


 と、私を呼ぶ声がした。見ると洸太くんがこちらに来ていた。


「あ、洸太くん、お疲れさま。今帰ってるの?」

「うん、今日は部活もないからね、よかったら一緒に帰らない?」

「うん、いいよ」


 私と洸太くんは一緒に帰ることにした。あれ? そういえば一斗はもう帰ったのだろうか。


「そういえば一斗はもう帰った?」

「ああ、あいつ横溝さんに声かけられてたから、そのまま置いて来ちゃったよ」

「あ、なるほど……」


 いつの間に新奈は一斗のところへ行っていたのだろうか。まぁいいやと思って洸太くんと帰る……のだが、洸太くんがあまり話そうとしない。いつもはよく話しかけて来るのに、何かあったのだろうか。とはいえこちらから話しかけるのもなんだか恥ずかしかった。


(そ、そういえば一斗に洸太くんのことどう思っているか訊かれたんだった……ま、まぁ、いいなと思うというか、なんというか……)


 そんなことを考えていたその時だった。


「……ふ、二葉ちゃん」


 洸太くんがぽつりと私を呼んだ。


「ん? 何?」

「あ、いや、その……恥ずかしいんだけど、二葉ちゃんに聞いてもらいたいことがあって」


 そう言って足を止めた洸太くんだった。聞いてもらいたいこと? なんだろうか。


「え、あ、う、うん……」

「その、あの……二葉ちゃん、俺……二葉ちゃんのことが好きです。もしよかったら、俺とお付き合いしてもらえませんか?」


 ああ、なるほど、私のことが好きと。


 ……って、理解するのに数秒かかった。わ、わわわ、私のことが、好き……!?


「あ、え、そ、そうなんだね……って、あれ? この返事は変だな……」

「ああ! い、いや、返事を急ぐわけじゃないからさ、ゆっくり考えてもらってもかまわないから、その、俺の気持ちをどうしても伝えたいと思って……」

「そ、そっか……」


 ど、どどどどうしよう、急に顔が熱くなってきた。洸太くんは返事を急がなくていいと言ったが、待たせるのも申し訳ない。ぐるぐると頭の中で考えた結果、私は――


「ご、ごめんね、いきなり変なこと言いだして。さっきも言ったけどゆっくり考えてもらって――」

「……ううん、ちゃんと言うね。わ、私も実は、洸太くんのこと、いいなって思っていて……こうして洸太くんが自分の気持ちを伝えてくれて、嬉しかった。私なんかでよかったら、お付き合いしてもらえますか?」


 ……あれ? 私、「好き」という言葉を言わなかったな。洸太くんは言ってくれたのに、ちょっとずるかっただろうか。


「ほ、ほんと!? あ、ありがとう! よかったー、お前なんかうぜぇから嫌いだよと言われたらどうしようと思った……」

「い、いや、それは言わないかな……でも、私なんかでいいの……?」

「うん、RINEで話したり、デートしたりして、二葉ちゃんがどんどん俺の中で大きくなっていってさ……」

「そ、そっか、なんか恥ずかしいけど、嬉しいな……」


 私はそう言って洸太くんの手を握った。男の子らしく大きな手。当たり前だがあのデートした時と変わらなかった。


「わ、私、人を好きになったことってなくて、こ、これが恋なのかなって、まだよく分かってなくて……」

「あはは、いいんだよ、少しずつ俺のこと分かってくれたら嬉しいよ」

「う、うん、よろしくお願いします……」

「こちらこそ、よろしくお願いします……って、これは固いかな」


 洸太くんがあははと笑ったので、私も笑った。

 でもそうか、つ、ついに私にも彼氏という人が……不思議な気持ちになっているのは、私だけではないと思いたい。

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