第21話「一斗のお尋ね」
「――俺も二葉に訊きたいことがあったんだった」
「ん? 何かあった?」
「……そ、その、洸太のこと、二葉はどう思ってる……?」
俺、一斗がその言葉を発した後、部屋がしーんとなってしまった。
二葉に俺が横溝さんのことをどう思っているか訊かれたので、俺も洸太との会話を思い出して、洸太の気持ちは隠したまま二葉に訊くことにした。
ま、まぁ、俺が横溝さんのことをどう思っているかというと、話していて楽しいし、可愛いし、ちょっといいなと思わなくもないというか……あれ? これが恋ってやつなのかな。
「……え、こ、洸太くんのこと……?」
二葉がぽつりと言った。意外なことを訊かれたような顔をしている。こいつは表情に出るから分かりやすいな。俺もそうかもしれないけど。
「あ、ああ、楽しい話できてるのか?」
「ま、まぁ、RINEではよく話してるし、たまに会った時も声かけてくれるし、楽しい話はできてるかなーって……」
「そっか、それはよかった。で、二葉の気持ちはどうなんだ?」
「あ、そ、その……洸太くん、なんかカッコいい感じもするし、話していて楽しいし、私もちょっといいなって思わなくもないというか……あれ? 私何言ってるんだろう」
俺と同じようなことを言って、あわあわと慌てる二葉だった。そうか、ちょっといいなと思っているのか。それだけでもいいんじゃないかな。
「そっか、洸太の奴なんか近い気がしたから、『もぉマジむり……一斗助けてぇ……』とか言うかと思ったよ」
「い、いや、それは言わないかな……ていうか、ちょっとバカにしたねー! 私はそんな口癖ないぞー!」
そう言って二葉が俺をポカポカと叩いてきた。なんか結局恋の話をしているあたり、俺も二葉もそういう年頃ってやつか。姉弟での恋の話というのはなかなか恥ずかしいものがあるが。
「はー、まぁいいや、私も一斗も、なんか考えてることは一緒なのかもしれないね」
「ああ、そうかもしれないな。でもよかった、二葉が楽しくやってるみたいで」
「それはお互い様だよー、一斗も楽しそうでよかったよ。あ、ねえねえ、夜になっちゃったけど、ちょっと体動かさない? テスト前で部活もないし、なんかなまっちゃったよー」
「ん? ああ、いいよ」
それから俺と二葉は近くの公園に移動した。いつものようにバスケットボールも持って来たので、二葉にボールを渡すと、シュート練習を始めた。うん、フォームも綺麗だ。ボールはしっかりとゴールネットに吸い込まれた。
「……なんかさ、お互い異性のこととか好きな人とか、これまであまり話したことなかったけど、いざ話してみるとこんなもんかなーって思っちゃうよね」
ボールを拾った二葉がぽつりと言った。
「たしかに、こんなもんなのかもな。二葉はこれまで人を好きになったことないのか?」
「うーん、ないかなぁ……友達としていい人だなって思ったことはあるけど、それ以上はあまりなくて。一斗は?」
「俺もないかなぁ。友達としていい人はいたんだけど、それ以上ってあまりなくて」
「そっか、私たちやっぱり双子だね、なんかそういうところも似てるっていうかさ」
二葉が俺にボールを渡して来た。俺もスリーポイントラインあたりからシュートを放つ。放物線を描いたボールはゴールネットに吸い込まれた。
「まぁそうだな、俺たちも恋に関しては、まだまだお子様なのかもしれないな」
「そうだねー、でもさ、新奈可愛いよねー、背も高くてシュッとしてるし、綺麗なお姉さんになりそうだよー」
「……な、何が言いたいんだ……?」
「えー? 新奈と一斗が手をつないでさ、二人でデートしたりして……キャー! まぶしい、まぶしいわー!」
「……なんか、もしそうなったとして、二葉が陰からこっそり見て来そうな気がするのは気のせいか……?」
「えー、そんなことしないよー、ぐふぐふ、一斗くんもやりますなぁー!」
「あ、怪しさ全開なのだが……そんなこと言ってる二葉だって、洸太と一緒にデートするんだろ」
「ええ!? あ、ま、まぁそうかもね……よく分からないなーあはは」
「とぼけるんじゃないよ、二葉さんもやりますなぁ、お熱いところを見せられそうだよ」
「そ、それはない……とも言い切れない……って、なんだか生意気なこと言ってるねー! 私はお姉ちゃんだぞー!」
そう言って二葉がまた俺をポカポカと叩いてきた。
さっきも言った通り、俺も二葉もなんだか似た者同士で、恋に関してはまだまだお子様なのだろう。でもそれでもいい。お互いそのうち恋人ができるのも自然なことだ。俺は二葉を応援してあげたいなと思った。
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