第20話「二葉のお尋ね」

 新奈の気持ちを聞いた日の夜、私、二葉は部屋で勉強をしていた……が、どうも集中できない。一旦ペンを置いて、ボーっと考え事をしてみる。


(そっか、新奈は一斗のことが好き……と。あの二人も楽しい話してるんだろうな。まぁ、姉としては弟にいい人ができるのはいいことだと思うというか……)


 今までずっと一緒にいた弟を、好きになった人が現れたのだ。以前一斗に、「彼女が出来たら紹介してね」と言っていたが、紹介されるまでもなかった。私の友達だ。

 

 弟としての一斗は、なんだか生意気で、私のことも姉だと思っていないところがあるが、一人の男の子としての一斗は、爽やかでなんだかカッコいいというか、なんというか……そんなことを考えるのもちょっと恥ずかしいのだが。


(まぁ、新奈の気持ちは応援するとして、一斗が新奈をどう思っているかだよなぁ……うーん、訊くのはなかなか難しいというか)


 コンコン。


 その時、私の部屋の扉をノックする音が聞こえた。「はい」と言うと、その一斗が入ってきた。


「なぁ二葉、この前洸太に借りた漫画、最新刊が出たらしくて借りたんだけど読むか……って、勉強してたのか?」

「あ、ああ、ちょっと休憩してた。うんうん、読むー!」


 一斗が私に漫画を渡した。そして部屋を出て行こうとするので、


「あ、い、一斗、ちょっと待って」


 と、私は一斗を呼び止めた。


「ん? どうした?」

「あ、い、いや、ちょっとお話したいなーと思って……一斗は暇?」

「まぁ、特にやることもなかったけど……って、二葉は勉強が途中なんじゃないのか?」

「い、いや、大丈夫、ちょっとそこに座って」


 一斗がテーブルの前に座った。私も机からそちらに移動する。


「で? お話ってなんだ?」

「あ、それが、あの、その……」


 私はなかなか話を切り出すことができなかった。一斗が新奈のことをどう思っているか、それが訊きたいのに。


「……二葉、何か隠してるだろ」

「え!? い、いや、そんなことないよ」

「そうかなぁ、そうやってハッキリ言わない時は、何か隠してるんだよな」


 そう言って一斗が私の目を見てくる。う、うう、心の中を読まれているのか? それはないよな……。


「……あ、あのさ、新奈と、楽しい話できてる?」

「ん? ああ、RINEではよく話してるけど……」

「そ、そっか、どんな話?」

「まぁ、学校のこととか、お互いの趣味の話とか……あれ? 前も言った気がするな」

「そ、そうなんだねー、まぁ、一斗も私以外の女の子とRINEできるようになったんだね」

「おいおい、俺も友達くらいいるからな。でも訊きたいことってそれじゃないだろ」

「え!? い、いや、一斗と新奈が楽しくやってるかなーって気になってたから……」

「……ふーん、まぁ、楽しいといえば楽しい……かな。この前のデートではなんか近かったけど、俺の気のせいか……?」


 一斗の頭の上にハテナが浮かんでいそうだった。よ、よしと思って、思い切って訊くことにした。


「ま、まぁ、新奈も楽しかったんだよ……で、一斗は、新奈のことどう思ってる……?」


 おそるおそる、一斗の顔色をうかがいながら訊いてみた。


「え? どう思ってるって……ま、まぁ、横溝さんも可愛いし、俺なんかと話してて楽しいのかなって思う時もあるけど……」

「ま、まぁ新奈が可愛いのは認める……って、そうじゃなくて、一斗の気持ち」

「う、うーん……やっぱり話してて楽しいし、ちょっといいなって思わなくもないというか……あれ? 俺何言ってるんだろ」


 そう言って目線をそらす一斗だった。お、おお、ちょっといいなって思わなくもないのか。これはいい感じ……?


「あ、そ、そうなんだねー、へぇー、そうなんだー、へぇー」

「お、おう、急にニヤニヤしてるな……ま、まぁ、こういうのが恋心っていうのか、よく分からないんだが……」

「うんうん、まぁちょっといいなっていう気持ちから、恋心になることもあると思うよー、しかし新奈はあれだけぐいぐいいったのがよかったのか……ブツブツ」

「な、なんだ? なんかブツブツ言ってるな……まぁいいか。どうやら二葉が訊きたかったことってそれみたいだな」

「うん、そんなとこ。まぁ楽しく話が出来ているなら、よかったよー。新奈のこと『苦手過ぎる……もう関わらないでくれ……』とか言ったらどうしようと思ってたよー」

「そ、それは俺の口真似なのか? そんなこと言わないよ。まぁそれはいいとして、俺も二葉に訊きたいことがあったんだった」


 一斗が姿勢を正してそう言った。一斗が私に訊きたいこと? なんだろうか?


「ん? 何かあった?」

「……そ、その、洸太のこと、二葉はどう思ってる……?」


 一斗の言葉の後、部屋がしーんとなってしまった。

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