第19話「一斗の友達は」

 定期テストが近づいている。

 俺、一斗は真面目に授業を受けた。部活や遊びばかりで成績が下がってしまったとなると目も当てられないので、しっかりと自分にできることはやっていくつもりだ。


(うーん、でも数学は難しいなぁ……これはまた二葉に訊くことになるかもしれないな……)


 数学の授業中、そんなことをぼんやりと考える俺だった。この前も思ったが、覚えるだけではダメな数学の難しさを肌で感じていた。まぁ、分からなかったら二葉に訊けばいいか。あいつも英語が難しいと思っているかもしれないからな。


 そして午前中の授業が終わる。俺はうーんと背伸びをして、ご飯を食べようとお弁当を取り出した。


「あー、午前中も終わったなー、なんか難しいことばっかで頭がパンクするよ」


 俺のところに洸太がやって来て、頭をかきながらそんなことを言った。


「ああ、たしかに難しいことばかりだけど、頑張らないとな」

「そうだよなー、あ、一斗も弁当か、俺も一緒に食べていいか?」

「ああ、いいよ」


 俺は隣の席を借りて、洸太にそこに座ってもらった。


「よっしゃ、いただきまーす。あ、そういえば、この前のデートはありがとな、楽しかったよ」

「ああ、いえいえ、俺も楽しかったというか」

「だよなー、ダブルデートにして正解だったかもな。なんかリラックスできたし、可愛い二葉ちゃんも見ることができたしなぁ……」


 洸太がどこか遠くを見つめて、ぽつりとつぶやいた……って、あれ? なんかいつもの洸太とちょっと違うような、そんな感じがした。


「ん? どうかしたのか?」

「あ、いや、まぁ、なんていうか……」


 いつもの洸太らしくない、ハッキリしない返事が来た。俺とも視線を合わそうとしない。なんだろう、何かあったのだろうかと思っていると、


「あ、あのさ、その……二葉ちゃん、俺のことどう思ってるかなぁ」


と、洸太が恥ずかしそうに訊いて来た。


「ん? どう思っているか……? まぁ、仲の良い友達くらいには思ってるんじゃないかな」

「そ、そっか、それならまぁ……って、いやいや、それだけじゃよくないな、うんうん」


 何か一人で納得している洸太だった。どうしたんだろう、なんかいつもと違うな。


「どうした? 何かあったのか?」

「あ、そ、それが……俺、二葉ちゃんのことが好きになったみたいでさ……」


 また恥ずかしそうに洸太が言った。ああ、なるほど、二葉のことが好きと……って、ええっ!?


「……え!? す、好きって、こ、恋をしているっていうアレか……?」

「そうそう、そのアレだよ。なんつーか、RINEで楽しい話もして、この前デートにも行って、二葉ちゃんがどんどんいいなーって思ってきてさ……」

「そ、そうか……二葉が……」


 ま、まぁ、洸太はわりと男女関係なくフレンドリーに接することができるタイプだ。二葉とも最初は友達として話していたと思うが、なるほど、だんだんと洸太の気持ちにも変化があったのか。


「そうなんだよ、まぁ俺もついにそういう時が来たっていうかさ」

「ま、まぁ、誰でもそういう気持ちになるだろうし、いいことなんじゃないかなって思うが」

「そうだよな、でも二葉ちゃんにどうやって気持ちを伝えようかなと思ってな……なんかダメで気まずくなるのも嫌なんだよな……」


 うーん、たしかに洸太の気持ちも分かるなと思った。俺もできれば友達の恋を応援したい。しかし相手は俺の姉だ。一番近くにいる人と、友達が、気まずくなるのは避けたい。何かいい方法はないかとお弁当を食べながら考えるが、あるような、ないような。


「そうだなぁ、俺もできれば気まずくはなってほしくないしな……そうだ、俺がそれとなく二葉の気持ちを訊いてみるっていう手は……それも違うのかなぁ」

「おお、それもいいかもしれんな、すまん一斗、俺みたいな奴を助けるのは心苦しいかもしれんが、一つお願いできるか……!?」

「い、いや、心苦しくはないけど……分かった、洸太の気持ちは隠しておいて、二葉にそれとなく訊いてみるよ」

「サンキュー! あー二葉ちゃんが俺のこと嫌ってないといいんだけどなー」

「それはないと思うが……嫌いな奴とRINEしたりデートしたりしないだろ」

「まぁそうか、いやーでもなんか不安になるんだよなぁ、これが恋ってやつなのか……!」


 洸太がうんうんと頷いている。まぁ俺もここまで人を好きになったことはないが、人を好きになるってきっとそういうものだよなと思った。

 ……ん? ここまで人を好きになったことがない? なんだろう、心がざわつくというか、変な感じがする。こ、これは……。

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