第18話「二葉の友達は」
定期テストが近づいている。
私、二葉は真面目に授業を受けた。部活や遊びばかりで成績が下がってしまったとなると目も当てられないので、しっかりと自分にできることはやっていくつもりだ。
(うーん、でも英語は難しいなぁ。また一斗に訊いた方がいいのかもしれないなぁ……)
そんなことをぼんやりと考えながら、英語の授業も受ける。数学ほどはスムーズにいかないのが文系科目だった。まぁ分からないところは一斗に訊けばいいか。一斗も今頃数学で苦しんでいるかもしれないからね。またお姉ちゃんが教えてあげよう。
そして午前中の授業が終わる。私はうーんと背伸びをして、ご飯を食べようとお弁当を取り出した。
「あー、終わったねー、どの教科も難しいなー」
私の横で新奈がお弁当を取り出しながらそんなことを言った。
「ほんとだね、でもテストも近いし、真面目にやっておかないと後が怖いというか」
「そーだよねー、部活ばっかり頑張っても仕方ないしなぁ。あ、二葉もお弁当なんだね、一緒食べよー」
「あ、うん、いいよ」
新奈と席をくっつけた。お弁当の時はこうして二人で一緒に食べることが多い。
「よーし、いただきまーす。あ、そういえば、この前のデートはありがとねー、楽しかったよ」
早速ご飯をパクパクと食べ始めた新奈が言った。
「あ、いえいえ、こちらこそありがとう、私も楽しかったよ」
「うんうん、みんなで盛り上がってよかったよねー。カッコいい一斗くんも見れたしなぁ……」
新奈がどこか遠くを見るような目で、ぽつりとつぶやいた。あ、あれ? なんかいつもと違うような気がしたが、気のせいかな。
「ん? 新奈? どうかしたの?」
「あ、いや、ちょっとあれから色々考えたんだけどね、その、あの……」
そう言って新奈が少しもじもじしているような、そんな感じがした。何か言いにくいことでもあるのだろうかと思っていると、
「……わ、私、やっぱり一斗くんのことが好きみたいでさ。私からぐいぐいいったけど、カッコいい一斗くんが頭から離れなくなっちゃった……」
と、少し小さな声で新奈が言った。
「ああ、なるほど、一斗のことが好き……って、ええ!? あ、ご、ごめん、声が大きくなっちゃった……い、一斗のことが、好き……?」
私もぼそぼそと小さな声で話す。い、一斗のことが、好き……って?
「うん、RINEで楽しい話もして、この前デートにも行ってさ、一斗くんのいいところどんどん見てて、なんか、いいなーって……」
「そ、そっか、なるほど、一斗のことが……」
少し顔を赤くして恥ずかしそうに話す新奈なので、これは本気なんだな。そうか、ついに一斗が好きという人が現れたのか。姉としてはちょっとだけ複雑な気分だが、いいことだよなと思った。
「うん、一斗くんにとってはただの友達かもしれないけどさ、でも、私の想いは諦められないというか、好きになるのはいいことだよなって」
「そっか、うん、そうだね、新奈の好きっていう気持ちは悪くないと思うよ。あとはどうやって伝えるかと、一斗がどう思っているかか……」
「そーなんだよねー、どうしよう、どうやって伝えようかな……うーん、でも断られて気まずくなるのもなんかやだなぁ……」
ぐいぐいいっていた新奈が、ちょっと自信がなさそうな、そんな姿を見せた。私もできれば友達の恋を応援したい。しかし相手は私の弟だ。一番近くにいる人と、友達が、気まずくなるのは避けたい。こういう時どうすればいいのか……お弁当を食べながら考えるが、いい答えはあるような、ないような。
「うーん、私がそれとなく一斗の気持ちを聞くのもいいけど、なんかそれも違うのかなぁ……」
「ああ、それもいいかもね、ごめーん二葉、いや二葉大明神、ここは一つお願いできますでしょうか……!?」
「な、なにその大明神って……分かった、新奈の気持ちは隠しておいて、それとなく一斗に訊いてみるよ」
「ありがとー! ああ、私のことうざい女とか思っていませんように……!」
「だ、大丈夫だよ、この前のデートも楽しかったって言ってたし、それはないと思うよ」
「そっかー、でも不安になるよねぇ。ああ、これが恋というやつか……!」
足をバタバタさせて子どものような新奈だった。でも気持ちは分かる気がした。私はここまで人を好きになったことはないが、人を好きになるってそういうものだよなと思った。
……ん? ここまで人を好きになったことがない? なんか心がざわざわするような、不思議な感じがした。こ、これは……。
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