第17話「一斗のデート」

 俺、一斗はドキドキしていた。

 なぜかというと、二葉と横溝さんと洸太と一緒にダブルデートという形でデートに来ているのだが、横溝さんの距離が近いのだ。近くに女の子がいるというのは二葉で慣れていると思っていたのだが、二葉以外の女の子となると話は別だった。


「よーし、カラオケでストレス発散しますかー!」


 その横溝さんが俺の隣で声を上げた。ここはショッピングモールの近くにあるカラオケ屋。そこそこ広い部屋に、俺と横溝さん、二葉と洸太に分かれて座った。あれ? そっちにスペースはあるのに、なぜ横溝さんは俺の隣にピッタリと座っているのだろうか。


「よっしゃ、みんな曲選んでるみたいだから、ここは俺から歌おうかな!」


 洸太が元気よく立ち上がった。洸太が入れたのは十年以上活躍しているロックバンドの有名な曲だった。洸太は放送部でいつも喉を鍛えているからか、歌も上手い気がする。発音がいいというか、声がいいというか、俺は素人だからよく分からないが、そんな感じがした。

 洸太が歌い終わると、二葉と横溝さんがパチパチパチと拍手した。俺も慌てて拍手する。


「おおー、川島くん上手だねー、なんか力強い感じ!」

「あはは、サンキュー、途中ちょっと間違えちゃったけど、なんとかなったかな。じゃあ次は一斗だな!」

「え!? お、俺か、ごめん入れるの忘れてた、じゃあ……」

「なになに、一斗くん何歌うのー?」


 俺が持っているデンモクを横溝さんが覗いて来る……って、きょ、距離が近い……!


「じゃ、じゃあ、英語だけど、みんな知ってるはずのこれを……」


 俺は色々な意味でドキドキしながら曲を入れた。入れたのは洋楽で最近日本でもヒットした曲だった。俺は英語が好きだからか、洋楽をよく聴く。邦楽も知らないわけではないが。

 発音に気をつけながら歌う。みんなをチラリと見ると、ノッてくれているようだ。よかった。そのまま一曲を間違えずに歌い上げた。


「おおー、一斗くんすごい! 英語の発音が外国の人みたい!」

「一斗、その曲好きだもんねー、よく聴いてたよね」

「ああ、よく聴いてる……って、よ、横溝さん、近――」


 ぐいぐい来る横溝さん。スラっと伸びた長い足に目が行ってしまった……って、俺もおじさんの仲間入りだな。


「じゃあ次は二葉ちゃんだな、何歌うんだろう?」

「あ、わ、私はそんなに上手じゃないから、笑わないでね……」


 二葉が入れたのは八人組のアイドルグループ・JEWELSジュエルズの人気曲だった。そういえば二葉はJEWELSが好きだったな。

 いつもは元気な二葉だが、歌を歌う時は落ち着いた優しい感じになる。バラード曲をしっかりと歌い上げた二葉だった。


「おおー、二葉ちゃんやるねー、歌声も可愛いね」

「あ、ありがとう、そう言われると恥ずかしいな……」


 少しだけ恥ずかしそうに下を向く二葉だった。洸太に可愛いと言われるのはさすがに恥ずかしいか。


「みんないいねいいねー、よーし次は私だねー、みんな準備はいいかなー!?」


 元気な横溝さんが入れたのは、あるアニメのオープニング曲になっている女性アーティストの曲だった。このアニメは俺も二葉も観たことがある。明るい曲で横溝さんの元気な歌声にピッタリだなと思った。

 最後まで元気よく歌い上げた横溝さんは、満足そうな顔をして、


「ふぅー、こんなもんかな! ねぇねぇ一斗くんどうだったかな!?」


 と、俺に訊いてきた……って、ち、近――


「あ、ああ、元気があって、歌声も綺麗で、よかったよ」

「あはは、ありがとー! まだまだ時間はあるし、じゃんじゃん歌ってこー!」


 ニコニコ笑顔の横溝さんと洸太がデンモクを見ながらあれこれ話している。ちょっとその間にトイレに行こうと俺は部屋を出た。

 しかし本当に横溝さんが近い。ドキドキしてしまう俺がいる……もしかして横溝さんは……いや、それは俺の考えすぎか。

 トイレから出てくると、なんと二葉とバッタリ会ってしまった。


「あれ? 二葉もトイレ行ってたのか」

「あ、うん、ちょっと我慢できなくなって……一斗は楽しい?」

「あ、ああ、なんか横溝さんが近い気がするけど……まぁそれなりに」

「あー、近いからって新奈に変なことするんじゃないぞー」

「なっ!? そ、そんなことしないよ……そういう二葉こそ楽しいのか?」

「う、うん、楽しい……かな。でもなんか、一斗以外の男の子との接し方を忘れてしまったような……」

「そっか、俺も一緒だ。俺たちまだまだ子どもっぽいのかもしれないな」


 そう言って二葉の頭をポンポンと叩くと、「う、ううー、私はお姉ちゃんだぞー!」と言ってポカポカと俺を叩く二葉がいた。まぁ、楽しいならそれでいい。

 その後、思いっきりカラオケを楽しんだ俺たちだった。

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