第12話「二葉のお誘い」

「あー、今日も終わったかぁー、数学難しいよぉ、二葉助けて~」


 ある日の放課後、私、二葉の隣で新奈が弱々しい声を出した。

 二年生になって数学もどんどん難しくなっている。私たちは理系なので数学はメインの科目というか、文系よりも進むのが早い。でも新奈も理系を選んだということは、数学が得意じゃなかったのだろうか。


「また教えるよ。それにしても新奈も数学得意だから理系にしたんじゃないの?」

「うーん、一年生の時はそれなりにできてたんだけどねー、二年生になって急に難しくなって。ここまでとは思わなかったー」


 そう言って新奈がうーんと背伸びをした。これから先もきっとどんどん難しくなっていくのだろう。私は数学が好きだが、油断しないようにしないといけないなと思った。


「そっか、まぁ嫌いではないってことか。それなら頑張れるんじゃないかな」

「そうだねー、さてさて、今日も部活かぁー、そっちは気合い入れていきますかね! あ、その前にちょっとトイレ」

「うん、私も部活に行こうかな。じゃあまた明日ね」

「うん、じゃあまた明日ねー」


 私は新奈と別れて、部室に向かうことにした。体育館からちょっと離れたところに部室はあるので面倒だが、仕方ない。部室に行こうと廊下を歩いていると、


「――あ、二葉ちゃん!」


 と、声をかけられた。見ると洸太くんがこちらに来ていた。


「あ、お疲れさま、今から部活?」

「うん、今日も山崎先輩のすごい技術を学ぼうと思ってね」


 洸太くんがあははと笑った。山崎先輩は放送部の部長だったな、そういえば去年の文化祭でも大活躍だった。私もおしゃべりするのは好きな方だが、原稿やセリフなどそういうものを話すのはまた違うんだろうなと思った。


「そっか、洸太くんも頑張ってるね、いいことだよ」

「あはは、サンキュー。あ、そ、それとさ、ちょっと二葉ちゃんに話したいことがあって……」


 そう言ってちょっと視線をそらす洸太くんだった。話したいこと? なんだろうか?


「ん? なにかあった?」

「あ、いや、その……こ、今度さ、い、一緒に出かけないかなと思って……」


 あ、なるほど、一緒に出かけないか……か。

 

 ……あれ? 一緒に出かけないか? それって……と、私は理解するのに数秒かかってしまって、何も言えなかった。


「ああ、ごめん! 嫌だったら断ってくれて全然かまわないんだけどさ……あはは」

「……あ、ご、ごめん、ちょっと理解が追いつかなかっただけで……い、一緒に出かける……?」

「う、うん、まぁ、一般的に言うと、で、デートなんだけど……どうかな?」


 なるほど、デート……って、ええっ!? で、でででデート!?


「あ、そ、そうなんだね、ど、どこか行きたいところとかあった?」

「あ、いや、それはこれから考えるんだけど、二葉ちゃんと一緒なら楽しいかなーって思って……あはは」


 洸太くんが恥ずかしそうにしている。そ、そっか、私と一緒なら楽しい……か、そう言われると嫌な気持ちにはならないところが私は単純なのかな。


「そ、そっか……わ、分かった、いいよ」

「あ、ありがとう! 詳しいことはまたRINEでもするからさ、よろしくお願いします!」


 洸太くんがペコリと頭を下げた。


「あ、う、うん、私こそ、よろしくお願いします……」

「う、うん、ほんとありがとう。あ、そろそろ部活に行かないと、じゃあまたね」


 洸太くんが手を振りながら廊下を歩いていくのを見ながら、私はボーっとしてしまった。


(……あ、あれ? 私、よろしくお願いしますとか言ったけど、もしかして、とんでもないことしようとしてるのでは……!?)


 急に顔が熱くなってきた。や、ヤバい、デートって、二人で行くんだよね? そうじゃないと私以外の人にも声かけるだろうし……そう思うと、ますます恥ずかしくなってきた。


「――あれ? 二葉? まだ部室行ってなかったのー?」


 その時、後ろから声をかけられた。新奈がやって来て私の顔を覗き込んでいる。


「ああ! い、いや、今から行こうとしてたとこ……」

「ふーん、なんか、二葉顔が赤くなってない? 気のせいかな」

「え!? い、いや、なんかちょっと暑いなって思うくらいで……熱でもあるのかな……あはは」

「ええ、大丈夫? 無理しない方がいいんじゃない?」

「あ、だ、大丈夫、ありがとう。身体は元気だからさ、ああ、部室行かないとね、一緒に行こう」


 新奈がちょっと不思議そうな顔をしていたが、なんとかバレずに済んだ……のかな。しかし私は頭の中で洸太くんが言ったことを思い出していて、ちょっと恥ずかしくなっているのであった。

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