第10話「二葉の不思議」

 今日は体育館で生徒総会が行われる。

 私、二葉はちょっとだけ眠い目をこすりながら体育館で生徒会のみなさんが話す内容を聞いている。最初に九十九先輩の挨拶があった。あの人も美人だよなぁ……クールビューティーというかなんというか。

 あ、あの副会長の人……日車ひぐるま先輩か、一瞬噛みそうになったな……まぁ司会進行というのも難しいのだろう。心の中で頑張れと応援してしまった。それは日車先輩に失礼だろうか。


 ツンツン。

 

 その時、背中を突かれた。見ると新奈がニコニコしながらこちらを見ていた。


「ねぇ、さっき副会長の日車先輩、噛みそうになってなかった?」

「ああ、うん、副会長も大変なんだろうね、ちょっと応援したくなったよ」

「あはは、私もだよー。でも日車先輩、ちょっと可愛い顔してるよねー。あ、もうすぐ終わるのかな」


 新奈とこっそり話していると、生徒総会が終わった。今日は部活もお休みで、この後は帰るだけだ。教室に戻って帰るかと荷物をまとめていると、どこからか視線を感じた。

 ふと廊下を見ると、一斗と洸太くんがこちらを見ているようだった。あれ? 私のことを待っているのだろか。私は慌てて鞄を持って廊下へ出る。


「あれ? 二人ともどうしたの?」

「あ、ああ、たまには一緒に帰らないかって洸太が言うから……」

「そうそう、たまにはいいんじゃないかと思ってねー、二葉ちゃんお久しぶり! クラスが違うと話すこともなかなかないね」

「あ、お久しぶり。ほんとだね、なんか新鮮な気持ちになるよ」


 洸太くんは中学二年生の時に同じクラスだった。その後は一斗とずっと一緒のクラスだ。異性でもフレンドリーに話しかけることができる洸太くんは、私のことを『二葉ちゃん』と呼ぶ。まぁ私たち姉弟はもちろん名字が一緒なので、下の名前で呼ぶ人が多いのだが、『二葉ちゃん』とちゃん付けで呼ぶ男の子は少ないので、ちょっと恥ずかしかった。


 一斗と洸太くんと一緒に帰ることにする。一斗以外の男の子と一緒に帰ることもなかなかなくて、ちょっと新鮮な気持ちだ。


「二葉ちゃん、バスケ頑張ってる?」

「あ、うん、今度試合に出してもらえることになって」

「おお、そうなんだねー、三年の先輩もいるのに、すごいねー」

「いやいや、高梨先輩に私のドリブルも武器になると言ってもらえて、ちょっと嬉しいというか」

「ああ、バスケ部部長の高梨先輩か、美人な人だよねー」

「うん、私の憧れなんだ。あんな風になりたいなって」


 私と洸太くんは話をしている……のだが、一斗がなぜか黙ったままだ。


「一斗? どうかした?」

「あ、いや、なんでもない……洸太の奴、ぐいぐい行くな……ブツブツ」


 何かブツブツと言っている一斗だった。最後の方の声が小さくてよく聞こえなかった。


「なるほど、二葉ちゃんは高梨先輩みたいになりたいのか……メモメモ」

「だから何のメモだよ……そういえば試合ももうすぐだな、二葉、調子はどう?」

「まぁ、そこそこかなー、ドリブルもシュートも安定してると思うよ。あとは試合で出せるかどうか」

「この前のシュートの様子見てたら、大丈夫そうだな。あ、帰ってちょっと身体動かすか?」

「あ、うん、やろうやろう。今日は部活がないからね、身体動かしたいよー」


 なんだろう、バスケをしないとなんか気持ち悪いのは危ない人だろうか。


「あはは、さすが鮎原姉弟、仲がいいなー! あ、そうだ、二葉ちゃん、もしよかったらRINE教えてくれない? ちょっと話したいなと思って」

「ん? あ、いいよ、ちょっと待ってね」


 私はスマホを取り出して、RINEのQRコードを洸太くんに見せた。


「よっしゃ、登録完了っと。サンキュー! 楽しい話できるといいねー!」

「あ、うん、こちらこそありがとう」

「……洸太め、こんなにぐいぐい行ける奴だったのか……ブツブツ」


 やっぱり何かブツブツと言っている一斗だった。あれ? でもなんで私は男の子とRINE交換なんてしているんだろう?


「そういえば一斗、新奈とRINEしてる? まぁ新奈のことだから自分から送ってそうだけど」

「あ、ああ、けっこうマシンガンのように送って来るから、ちょっとビビってるとこ」

「お? 新奈って、横溝さんか? なんだ、一斗もやるなぁ、女の子とRINEできるようになったじゃんか!」

「い、いや、それくらいなら別に……なんてことない」


 恥ずかしそうに俯く一斗だった。


「あはは、そう恥ずかしがるなって。そういえば二葉ちゃん。前より可愛くなった気がするね」

「……ええ!? そ、そうかな、そうでもないと思うけど、あ、ありがとう……あはは」

「……ぐっ、これだからフレンドリーな奴は困る……ブツブツ」


 なんかずっとブツブツとつぶやく一斗だった。なんかよく分からなくて不思議な気持ちになったが、まぁいいかと思っていた。

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