第9話「一斗の不思議」

 今日も午前中の授業が終わり、昼休みになった。

 俺、一斗は一時間目の数学で、先生に指名されて黒板に解答を書くようになってしまったが、二葉に教えてもらったところだったので問題なく書くことができた。二葉に教えてもらっていてよかった。今度何かお礼をしてあげようかなと思った。


(……さて、今日の昼ご飯は何にするか)


 今日はなんとなく学食に行きたい気分だったので、昨日のうちに母さんにはお弁当はいらないと言っておいた。母さんは「ふふふー、学食が気に入ったようねー」と言っていた。そ、そういうわけではないが、まぁいいや。

 学食のメニューは色々あって迷うが、今日はカレーにしてみた。カレーも生徒に人気だった。ルーが制服につくのだけは注意しないといけないけど。

 おばちゃんからカレーを受け取り、席に着いてさぁ食べるかと思っていると、


「あ、一斗!」


 という声が聞こえた。見ると二葉と横溝さんがこちらに来ていた。


「あ、ああ、二葉か」

「今日は学食に行くって言ってたから、いるかなーと思って来てみたよ」

「ああ、あれ? 二葉はお弁当だったよな?」

「うん、でもたまには一緒に食べようかと思って。そこ座っていい?」

「ああ、いいよ」


 二葉が俺の隣に、横溝さんが俺の前に「おじゃましまーす」と言って座った。


「ふふふ、一斗くんお久しぶり。クラス分かれちゃってなかなか話す機会なかったねー」

「あ、ああ、お久しぶり、そうだね、一年の時は一緒のクラスだったけど」


 そう、横溝さんとは一年生の時一緒のクラスだった。ちょくちょく話すことはあったのだが、今は二葉と同じクラスで、二葉と仲が良いみたいだ。俺たち姉弟をどちらもよく知っている……と言えるのだろうか。

 とりあえず俺たちは昼ご飯を食べる。あれ? なぜ俺は女の子と一緒に昼ご飯を食べているのだろうか?


「な、なんか二人とも、俺に用事でもあった?」

「あ、ああ、じ、実は新奈が一斗と話したいって言ってて……連れて来たよ」

「ふふふー、昨日ね、二葉が泣きながら『恥ずかしいよぉ~』って電話して来て、一斗くんもなかなかやるなぁって思ってたよー」

「ちょっ!? 新奈!? な、泣いてなんかいないでしょ!?」


 ふふふと笑う横溝さんに、なぜか慌てる二葉だった。恥ずかしい? どういうこと……あ、も、もしかして、カッコいいとか可愛いとか言い合った、あれのことだろうか。俺も急に恥ずかしくなってしまった。


「あ、ああ、まぁ、何を話したのか知らないけど、色々ありまして……あはは」

「う、ううー、新奈め、覚えてろよ……」

「二葉、それ弱いキャラが言うセリフ……」

「あはは、二人とも面白いねー、そして一斗くん、二葉が言うようにカッコいいよねー」


 サラリとそんなことを言う横溝さんだった。は、はい? カッコいい……?


「え、ど、どうもありがとう……って、お礼を言うのもなんか変なのかな……」

「に、新奈……なんてこと言うの……この恨みはらさでおくべきか……」

「お、おう、二葉、なんか難しいこと言ってるな……」

「あはは、やっぱり二人とも面白いねー、あ、一斗くん、RINE教えてくれない? ちょっと話したいなって思って!」

「あ、ああ、RINEくらいなら……」


 俺はスマホを取り出して、RINEのアカウントを横溝さんに教えた。あれ? なんで俺は女の子とRINE交換なんてしてるんだ?


「よし、登録完了っと! ありがとうー! 楽しい話できるといいねー!」

「あ、ああ、こちらこそありがとう、よろしく……」


 俺はそう言って横溝さんを見る。二葉より背が高く、セミロングの茶色い髪を今は後ろで結んでいる。目鼻立ちはけっこう整っていて可愛い方だと思うが、俺なんかと話をして楽しいのだろうか。

 そんな不思議な感覚になったが、俺はカレーを食べる。うん、今日も美味しいカレーだった。お腹も満たされた。


「一斗くんはカレーが好きなの?」

「あ、まぁ、けっこう好きかな、学食のカレーも美味しくて」

「そーだよねー、私も学食のカレー好きなんだー、なんか一緒で嬉しいなー」

「に、新奈め……ぐいぐい行くな……ブツブツ」


 なんだろう、ぐいぐい来る横溝さんと、何かブツブツとつぶやいている二葉だった。この二人は普段どんな話をしているのだろうか。


「二葉と横溝さんは普段どんな話してるの?」

「ん? ああ、話してもいいんだけど、二葉、いい?」

「だ、ダメ……! 秘密!」


 顔を真っ赤にしてぶんぶんと首を振る二葉だった。そ、そうか、秘密なら仕方ない、それ以上訊くのはやめておいた。

 なんか不思議なことが多いが、明るく話しかけてくる横溝さんと、恥ずかしそうな二葉と、俺は会話をして昼休みを過ごすのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る