第6話「二葉の恋バナ」

 ある日の数学の授業中、私、二葉はノートに問題の答えを書きながら、一斗と話したことを思い出していた。


(そ、そういえば一斗から好きな人の話とか訊かれるとは思わなかったな……洸太くんと恋バナしたって言ってたけど、男の子はどんな話してるんだろ……)


 私が一斗のことをからかうことはよくあるのだが、一斗から好きな人とかそういう恋の話をするというのはめずらしかった。なんだろう、気になったのだろうか。


(好きな人……か、私にもそんな人ができるのかなぁ……)

「――葉、二葉」


 どこからか私を呼ぶ声がする……これは夢、それともまぼろし……って、今は授業中だ!

 ハッとして隣を見ると、新奈がこちらを見ていた。どうやら新奈が私のことを呼んでいたみたいだ。


「な、何? なんか呼んだ?」

「どうしたの? なんかボーっとしてたけど……今黒板で学級委員が解答書いている問題、分かる?」

「あ、ああ、あれか、うん、分かるけど……」

「そっか、二葉はすごいね、私に教えてほしいんだけど」

「あ、う、うん、いいよ」


 私は新奈に問題の解説をしてあげた。う、うーん、どうしたんだろ私……ボーっとするなんて。



 * * *



「さっきはどうしたのー? なんかボーっとしてたけど、悩み事?」


 昼休みになって、新奈と一緒にご飯を食べることにした。


「あ、い、いや、別になんでもない……」

「えー、なんでもないことないでしょー、なに、私に隠し事? いつから二葉ちゃんはそんな子になってしまったの!」

「いや、新奈が私のお母さんじゃないでしょ……ま、まぁ、なんというか、私にも好きな人とかできるのかなぁとか思って……」


 話すべきか迷ったが、新奈が逃がしてくれなさそうだったので、思い切って話すことにした。


「あ、なるほどー、恋わずらいかー、ふふふ、二葉も可愛いところあるんだからー」

「い、いや、私の話聞いてた? 恋をしているわけじゃないんだけど……でも、いつかそんな時がくるのかなぁなんて……」

「うんうん、来るに決まってるじゃーん。ていうかこの前中川先輩がカッコいいって言ってたよね」

「あ、いや、それはカッコいいと思ってるだけで、恋心ではないというか……」

「うーん、カッコいいと思うだけでも十分だと思うけどなぁ……中川先輩の他にカッコいいと思う人いないのー?」

「う、うーん、あ、そういえばサッカー部にもう一人カッコいい先輩いるよね……?」

「ん? ああ、もしかして火野ひの先輩かな? カッコいいよねー、爽やかイケメンって感じ!」


 新奈がニコニコ笑顔だ。ほんとこういう話は好きなんだから……。


「あ、そうそう、カッコいいよね。でもきっと彼女がいるんだろうなぁ」

「そうだねー、でもどうしたの、急にそんな恋のことで頭がいっぱいになっちゃって。何かあった?」

「あ、それが……一斗に好きな人はいないのかって訊かれて……それがめずらしくてちょっと気になったというか……」


 話していいのか迷ったが、新奈にならいいかなと思って話した。ごめん一斗、ここだけの話にしておくから。


「ああー、なるほど、一斗くんにねぇ……ていうか、姉弟でそんな話するんだね」

「あ、いや、普段はあまりしないかな……私が一斗のことからかうことはあっても、一斗からそんな話を切り出されるとは思わなくて」

「へぇー、鮎原姉弟の秘密を知っちゃった気がするー。ふふふ、安心してね、ここだけの話にしておくから!」

「あ、う、うん、そうしてもらえるとありがたい……」


 なんだろう、顔が熱くなってきた……恥ずかしい……。


「ふふふー、でもこれもここだけの話なんだけど、私、一斗くんちょっといいなーって思ってるんだよねー」

「あ、なるほど一斗が……え!? い、いいなって……!?」

「うん、バスケもできるしカッコいいなーって思ってるよ」


 新奈からまさかの言葉を聞いた。い、一斗が、カッコいい……? ま、まぁ、おとなしい感じはあるけど爽やかさもあるし、ある意味まっすぐな一斗だけど、カッコいい……?


「そ、そうなんだね、知らなかったよ」

「あはは、誰かに話したの初めてだからね。まぁ恋心かって言われるとよく分かんないんだけどね」

「そ、そっか……」


 新奈があははと笑いながらご飯を食べている。そっか、よかったね一斗、カッコいいと言ってもらえて……というのは一斗に失礼だろうか。


「まぁ、とりあえずこの話は私と二葉だけの秘密ってことで、よろしく!」

「あ、わ、分かった……秘密にしておくよ」

「あはは、ありがとー、それはいいからご飯食べよー、二葉の手止まってるよー」


 新奈にそう言われて、私もご飯を食べる。そうか、一斗がカッコいいのか……近すぎて逆に分からなかったかもしれない。私はそんなことを考えていた。

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