第4話「二葉の放課後」

「お疲れさまでしたー!」


 週末の金曜日、部活の練習を終えて、私、二葉は帰ろうとしていた。あ、あそこにいるのは一斗だ。ちょっとちょっかいかけてやろうと思って、後ろから抱きついた。


「どわっ!? な!? あ、二葉か」

「ふっふっふー、私でしたー。一斗も帰るの?」

「ああ、終わったから帰ろうと思って」

「そっか、じゃあ一緒に帰ろうよ。あ、この後公園でもう少し身体動かさない?」

「えぇ、今部活終わったばかりなのに、二葉は元気だな……まぁいいけど」

「よっしゃー! じゃあ早く帰ろう!」


 私と一斗は一緒に帰る。家に着いてから玄関にあったバスケットボールを持って、「ちょっと公園行ってくるー!」とお母さんに言って、家の近くの公園へ行くことにした。ここはバスケットゴールが一つあって、私たちはよく練習をしていた。


「ねぇ、ちょっと勝負しようよ」

「ん? ああ、まぁいいけど」


 一斗が私にボールを渡した。そこから二人の勝負が始まる。私はドリブルをして右から抜こうとするが、一斗もぴったりとついてくる。うーんやるな、今度は左から抜こうとして、一瞬一斗が下がったのを見て、私は止まってシュートを放つ。ボールはリングのふちに当たって跳ね返ってきた。


「ああっ!」

「シュートまでの流れがまだまだだな、こうやるんだよ」


 今度は一斗がボールを持ってドリブルをする。左から抜こうとする一斗についていく私。素早く低いドリブルで右手に持ち替えた一斗は、私が右に体重をかけた瞬間、シュートを放つ。ボールはネットに吸い込まれた。


「ああっ! くそーやるなぁ!」

「こんな感じ。そういえば二葉は今度試合に出してもらえるんだって?」

「あ、うん、高梨先輩にPG(ポイントガード)として出てもらうって言われたよ」

「そっか、まぁ二葉のドリブルは素早いもんな。でもそれだけじゃダメだぞ、全体を見て判断する力がいる」

「う、ううー、一斗が生意気な口きいてるー! 弟のくせにー!」


 そう言って私は一斗をポカポカと叩いた。私と一斗はこんな感じで姉弟の仲は悪くないと思う。一般的な姉弟がどんなものか知らないけど。


「……そういえばさ、二葉は、その……す、好きな人とか、いるのか?」


 一斗がシュート練習をしながらぽつりとつぶやいた……って、ええ!? す、好きな人? なんか新奈みたいなこと訊いてくるな。


「え、あ、い、いや、特にいないけど……どうして?」

「あ、いや、洸太の奴が急に恋バナなんてしたから、二葉はどうなのかなって思っただけ」

「そ、そっか、そういえば私も新奈と恋バナしたなぁ……なんか恥ずかしくて」

「まぁそうだよな、なんか恥ずかしいというか」

「う、うん。あ、そんなこと言ってる一斗はどうなの? 好きな人とかいないの?」

「い、いや、俺もいない……可愛いなって思う人はいるくらいで」


 ボールを拾った一斗が、恥ずかしそうにしていた。


「おお? 一斗さん、それが恋というやつじゃありませんか!? 可愛いって誰!?」

「な、なんで急に元気になるんだよ……ま、まぁ、生徒会長は綺麗だなって思うくらいで」

「ああー、九十九先輩かぁー、たしかに綺麗だよね。あ、綺麗といえば高梨先輩もめっちゃ美人だよね」

「ああ、たしかに……でもあんな綺麗な人たちは彼氏がいるんだよ、間違いない」

「まぁそうだよねぇ、そういえば高梨先輩はサッカー部に彼氏がいるらしいよ、新奈情報だけど」

「やっぱりそうか、まぁ美人さんだから当たり前だよな……って、二葉もカッコいいなって思う人くらいいるんじゃないか?」


 そう言ってまた一斗がシュートを放つ。ボールはネットに吸い込まれてポーンと地面を跳ねた。


「え、あ、まぁ、カッコいいなって思う人はいるけど……」

「そっか、誰のこと?」

「あ、あの、風紀委員長の中川先輩とか……」

「ああ、サッカー部の。まぁたしかにカッコいいよなぁ。あれ? それが恋というやつじゃありませんか二葉さん?」

「い、いや、恋とかそういうのではなくて、カッコいいなぁって思うだけで……きっと中川先輩も彼女がいるんだよ、間違いない」

「まぁな、そうかもしれない……お互い思ってることは一緒みたいだな」


 一斗が私にボールを渡して来た。私はリングに向かってシュートを放つ。ボールはまたネットに吸い込まれて地面を跳ねた。


「ミドルレンジからのシュート、二葉も上手くなってきたな。それが試合で出るといいけど」

「そ、そうかな……って、さっきから生意気な口きいてるねー! 私はお姉ちゃんだぞー!」


 私はまた一斗をポカポカと叩いた。

 でもそっか、好きな人……か。今はまだ想像できないが、私にもいつかそんな人が現れるのかなと、心の中で思っていた。

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