第3話「一斗の昼休み」
昼休みになった。
俺、一斗は昼ご飯を食べようと学食へ向かった。今日は母さんがお弁当を作れなかったのだ。まぁ別にそれはかまわないし、たまには学食で食べるのもいいよなと思った。
学食で食券を買うことにする。何にしようかな……と迷って、カツ丼にした。生徒にも人気のものだ。
食券を学食のおばちゃんに渡し、しばらく待っていると出てきた。おお、今日も美味しそうだ。そのまま席に着いて食べようとしたら、
「おっ、一斗、今日は一人か?」
と、声をかけられた。見ると
青桜高校は生徒の自主性を尊重しているとかで、校則がかなり緩い。それで中学生にも人気の高校なのだ。洸太が茶髪にしているのも特に何も言われない。俺も憧れはあるが、今はいいかなと思っている。
「あれ、洸太も学食で食べるのか」
「ああ、母ちゃんがお弁当のご飯炊くの忘れてさー、まぁいいんだけどさ。あ、前座ってもいいか?」
「ああ、いいよ」
洸太が「おじゃましまーす」と言いながら俺の前に座った。
「おっ、一斗はカツ丼か、俺は親子丼にしたぜ」
「ああ、親子丼もいいよな。学食も美味しいものいっぱいあるから迷うよ」
「そうだなー、あ、なあなあ聞いてくれよー、
「ああ、山崎先輩の話、もう五百三十二回は聞いた気がするが」
「そうかー? いやーそれくらいすごい人なんだよー、去年も文化祭で司会進行してたもんなー、マジすげぇよ」
洸太は放送部に所属している。なぜ放送部にしたのかはよく分からないのだが、まぁ本人のやりたいことを尊重しよう。
山崎先輩というのは放送部の部長だ。洸太の言う通り、山崎先輩は去年の文化祭で『男装・女装コンテスト』の司会を行っていた。よくあんなにしゃべることができるなと思っていた。
「俺にとっては洸太もすごいんだが……って、あんまり褒めると調子に乗りそうだな」
「あはは、サンキュー、まぁ俺も頑張ってるから、もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」
「もう調子に乗ってる……まぁいいか。部活は順調か?」
「ああ、演説の大会もあるしな、それに向けて今はみんなで頑張ってるとこだ。一斗もバスケ部忙しいだろ?」
「まぁそうだな、こっちも大会もあるから、それに向けてみんな頑張ってるかな」
「そっかそっか、いやースポーツマンの一斗はいいよなー、モテそうだし」
洸太がそんなことを言うので、俺はカツ丼をのどに詰まらせるところだった。
「い、いや、モテはしないぞ……」
「いやいや、バスケ部の鮎原姉弟つったら、学年でも知らない人はいないぞー。それともなんだ、もう好きな人がいるとかか!?」
「え!? い、いや、そんな人はいない……かな」
なんだろう、急に恋バナにシフトチェンジして、俺は恥ずかしくなってきた。
「いやいやー、可愛いって思ってる人くらいいるだろー?」
「ま、まぁ……可愛いと思う人なら……あ、生徒会長、美人だよな」
「ああ、
生徒会長の九十九先輩は、よくみんなの前で話している。話す言葉もしっかりしていて、ああいう人が才色兼備っていうのかなと思った。
「そうだな、でもきっと彼氏がいるんだよ、あんな美人、男が放っておくわけない」
「なんだよ一斗、そこは俺が彼氏に立候補する! じゃないのかよー」
「……ええ!? い、いや、そんなことはしない……」
「はー、これだから一斗はいかんなー、せっかく一斗もカッコいいのにさー、もっと自分から行っていいと思うんだけどなー。俺がビシバシ鍛えてやらないといけないみたいだなー」
「い、いや、そんなことしなくていいから……」
なんだろう、ぐいぐい来るな洸太の奴。なんとなく二葉を思い出した。二葉は一緒にするなとか言いそうだけど。
「まぁ、九十九先輩は高嶺の花過ぎて無理としても、俺は一斗にいい人が現れる予感がするよー」
「なんだその根拠のない予感は……ま、まぁ、そのうちそうなるといいな。そういえば、さっきの数学分かった? なんか難しかった」
「ああ、難しかったなぁ、俺数学苦手だからさー、また一緒に勉強しないか?」
「ああ、いいよ」
恥ずかしくなって慌てて話題を変えたが、そっか、いい人……か。今はまだ想像できないが、俺にもいつかそんな人が現れるのかなと、心の中で思っていた。
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