後日談 『友達の友達は、ライバル』 その2
「ここが渋谷スカイ……かぁ」
私の隣で、そう息を漏らした沙織は、ハッと何かを思い出したように、スマホを取り出し、顔の高さで睨めっこをする。
その一瞬、スマホの画面に彼女の美人な顔が映し出されているのが見えて、私は思わず鼻を鳴らした。
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ、沙織」
すると、あながち私の言葉も間違ってはいなかったのだろう。沙織はスマホをカバンにしまうと、ほんのりと頬を赤く染める。
「……別に、緊張してないし」
そうやって視線を逸らした彼女に、私はまた鼻をくすりと鳴らした。
ここは、渋谷駅の真上にある商業施設、渋谷スクランブルエアの14階。
私たちは『渋谷スカイ』へとやってきた。
ここでチケットを購入し、エレベーターでさらに46階の展望施設へと上昇していく。
渋谷スカイは都内デートの観光スポットとして有名なためか、やはり受付もそれなりに混雑していた。
けど、まだ正午も早いのもあって、チケットの完売や時間制入場にはならず、私たちはすんなりとエレベータへと乗れたのだ。
……だけど。
「……っ! 前髪大丈夫かな……」
なんて、沙織は周りをキョロキョロしたり、前髪に触れていたりと、めっちゃ緊張してた。
でも、そういうのなんか可愛いな。
そうして、46階についた私たちは、ロッカーに荷物を預けて屋上へ。
自動扉を通った瞬間のツンと冷たい空気と地上229メートルからのどこまでも広がる、白くて小さな町並みに、隣の沙織が息を漏らした。
「綺麗……」
「ね。こう見てみると意外と東京って小さいね」
「うん……あ、私の地元も見えてる」
「え、どこ?」
ほらあそこの山。と彼女が華奢な指を向けた方向へと顔を向ける。
すると、その遥か遠くに、山頂が二つに分かれた双耳峰がちょこんと見えた。
確かあれは『筑波山』だっただろうか。
以前の夏休み、紗季が実家の方に帰るって言ってた時に、あの山の近くだと言っていたのをちょっとだけ覚えてる。
「へぇ。沙織もつくばの方なんだ」
「え、よく知ってるね」
「あはは。私にも、お母さんの実家がつくば市の友達がいて、それでこの前教えてもらったんだ〜」
確かアンドーナツが美味しいんだよね? そう彼女に言うと、さらに驚いたように目を見開く。
「すごい。詩帆めっちゃ詳しいじゃん! そうなの。今は廃校になっちゃったんだけど、私が通ってた小学校があって、その帰り道の駄菓子屋で……」
沙織はその後も、地元のいいところを話してくれた。
空気が美味しいところとか。釣った魚を焼いて食べられるところとか。
あとは、夜になると、星がものすごく綺麗なところとか。
そんな、美人な印象の彼女が、口を開けば全く違う印象になるのがものすごく面白くて。
「沙織って、喋ると全然印象違うね」
私からそんな言葉が溢れる。
彼女はハッとして、私から視線を外すと。
「ごめん……話しすぎちゃった」
そう、頬を赤らめながら顔を逸らした。
「ううん。沙織が楽しそうに話すから、すごく良いところなんだろうなって思った! もっと話、聞きたいな」
恥ずかしそうな彼女に微笑みかけると、ヒュウと音を立てた風に、私は髪の毛を抑える。
「でも、ちょっと風が強くなってきちゃったから、閉鎖されちゃう前に屋上見て回ろっか」
「……うん。そうだね詩帆。ありがと」
すると沙織も「えへへ」と、綺麗な顔をこちらに向けて、ニコリと微笑む。
その美人な顔ならば、口元だけ微笑むような大人っぽい笑い方とか似合うんだろうなって思ってたから、子供みたいに無邪気な笑顔に、思わず心臓をどきりとさせる。
何度も言うが。こういうカッコいいけど可愛い。大人っぽいけど幼い。みたいな女の子は、絶対にモテると思う。
主に女子から。
「ん、詩帆? どうしたの? 行かないの?」
「……あ、あはは、ごめん、なんかぼーっとしちゃった!」
「え、大丈夫? もしかして高いところ苦手だったりするの?」
「ううん。そう言うのじゃないから気にしないで! ほら、行こ!」
そう、彼女の手を引いて屋上へのエスカレーターを登っていく。
その後、2人で写真を撮ることになった際。
「詩帆、もうちょっとこっち寄って」
そう、彼女に肩を抱き寄せられ、不意にもまたどきりとする私であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます