後日談 『サヨナラと白』
「紗季〜、準備できた〜?」
お母さんの声に、「できてるよ」と返事を返す。
ふぁぁ、とあくびをして、首を鳴らす。
この畳の匂いを嗅ぐのも、次は12月頃になるのか。
そう思うと、たったの一泊二日はなんだか短く感じるような気がした。
コンビニも自販機も何にもない。
最寄り、という言葉は基本、あてにならない。
終始セミとカエルの声で、決して静かとは言えない田舎。
だけど、背の高い建物や、全体的に見ても、緑色の多い景色は、なんだか心の棘を溶かすような、そんな感じがしてやっぱり好きだった。
ふふっと鼻を鳴らし、自分の荷物を持ち上げる。
おばあちゃんに別れを告げると、お母さんの車に乗り込んだ。
「それじゃ、帰るわよ〜」
「うん」
ゆっくりと進み出した車は、やがて敷地を出て、外のアスファルトへ。
だが、その次の瞬間だった。
「あっ。お母さん。ちょっと止まって」
すると、やや急ブレーキ気味に車が止まった。
「どーしたの? 忘れ物?」
「ううん。そうじゃなくて、そこに沙織がいるから」
そう言って私はバックミラーに視線を向けると、お母さんもそれに気が付いたのか、「あぁ〜、そうね」とハザードランプを灯す。
「しばらく会えないんだから、お別れしてきなさい」
「うん。行ってくる」
私はドアを開け、車を降りる。
こう言うことなら、うちまで来ればいいのに、沙織はシャイっていうか、ほんとに不器用だ。
じんわりとした暑さの中、私は沙織の前で足を止める。
ぎゅっと、白いワンピースを掴んで、視線を逸らす彼女に私は思わず、鼻を鳴らした。
「なに? もしかして私が帰っちゃうの、寂しいの?」
「……違うし。てか、別に偶然通りかかっただけだし」
「えー。まぁでも。ありがと、沙織」
「……夏休みの宿題終わったら、東京に服とか、香水とか買いに行くから。そのついでに紗季の家、行ってあげるから」
「うん。待ってる」
短く会話をして。2人同時に鼻を鳴らす。
少し遠くの陽炎と、シャワシャワ泣き喚く蝉の声。
「それじゃ、またね沙織」
「うん。じゃあね紗季」
短く手を握り合って、私は車に戻っていく。
少しずつ遠くなっていく、バックミラー越しの白いワンピース姿に、ほんといい友達を持ったなって、そう思った。
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