後日談 『ちょっぴり大人で、ちょっぴり薄いあれ』

 江ノ島を堪能し、帰りの電車に揺られること約1時間と40分。


 詩「ついたぁ〜! あぁ〜なんか生き返るぅ〜!」


 そう言って詩帆さんは、ん〜っと背伸びをする。


 詩「たっだいまぁ〜! 秋葉原!」


 隼「お約束のやつだね」


 詩「うんっ! ここの駅のホームって、安心するっていうか、なんか実家の玄関って感じがして、すごく嬉しくって!」


 隼「そっか。でもまぁ、なんか気持ちはわかるかも」


 そう言って、人の流れに沿って、改札口を出た俺たち。


 キラキラと、お店の灯りが灯る電気街南口。


 多くの人が往来する通りを、俺たちは歩幅を合わせながら歩いた。


 アトレの大きな窓に貼り付けられた、アニメのキャラクター。


 もう、夜の19時だと言うのに、絶え間なく人が入っていくラジオ会館。


 まるでこの街は、『眠る』と言うことを知らなそうなぐらい、人で溢れかえっていた。


 もう1ヶ月後はコミケだね。なんて会話をしながら横断歩道をわたり、いつものレモブへ。


 そしてしばらくの間、お互いに同人誌を眺めていた、その時だった。


 詩「ね、隼人くん」


 隼「ん?」


 詩「……」


 隼「どうかした?」


 突如腕を引かれた詩帆さんにそう返す。すると視界の先で彼女はキョロキョロと周りを見てから、グッと背伸びをして。


 詩「ね、この前行けなかった、行ってみない?」


 そう耳打ちをした。


 そんな彼女の言葉に、思わず息を呑む。


 以前、学校帰りで行けなかった成人向けのコーナー。


 今回はそこへ2人で行こうと言うのだ。


 クーラーの風に乗って感じた、彼女の匂いにどきりと心臓を弾ませる。


 数秒か、もしくは数十秒か。


 葛藤に葛藤を重ねた俺は。


 隼「……実はさ。最近、イベントあったばかりだから、俺も気になってたんだ……」


 詩「……っ。……うん。そっか……それは、仕方ないね……」


 果たして、会話として成り立っていたのか。


 そんな疑問が残るような会話を交わし、俺たちは『レモブ』の奥へと進んでいく。


 いわゆる『R18コーナー』へと入った瞬間。視界の一面を埋め尽くしたのは、肌色とピンク。


 あと、2年も待てば合法的に入れる、ちょっぴり大人で、ちょっぴり薄いアレが、本棚いっぱいに敷き詰められた空間に俺たちは。


 詩「……」


 隼「……ごめん。今日はもう帰ろっか」


 詩「……うん」


 お互いに顔を真っ赤にしながら、地上への階段を登った俺たちであった。


 


 


 


 


 






 


 

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