後日談 『キミまで、あと3センチ』

詩「……」


 スマホの画面を開いては、なんども画面を消して、また点けて。


 そうして、隼人くんとのトーク画面が表示されては、


 —— 今日はありがと! また今度デートしたいね!


 なんて、3回ぐらい考えて、やっと思いついたなんの変哲もない文章を、送れずにいた。

 

 別に変わった事はない。


 いつも通りの、隼人くんとのやりとり。


 それなのに……。


「あぁーもう! なんかすっごい緊張するんだけど!」


 まるで、初めてのデートみたいに、喜んでくれるかなとか、上手くいくかな、みたいな、不安と期待が入り混じったような感覚が、メッセージの送信ボタンを遠ざけるのだ。


 別に今日が初めてじゃないじゃん。何回もアキバに行ったし、水族館にだって行ったし……。


 一香と茉莉曰く、私と隼人くんは恋人のそれらしい。


 だとしたら、そんな距離感を続けてきたのに、どうして今更になってこんなにも緊張するのだろうか。


 スマホの画面を閉じ、ゴロリと仰向けになる。


 いつも見ている天井。背中に感じるベッドのスプリング。


 うつ伏せの時よりも、心臓の音が大きく感じるのは、気のせいなのかな。


 はぁ……とため息をついて、私は枕を胸の前で抱きしめる。

 

 程よい硬さと、滑らかな手触り。


「……ん」


 彼のことを考えると、どうしてこんなに、胸がポカポカするんだろう。


 でも、それがなんだか。


「心地いいなぁ……」


 そう呟いて、私はスマホに手を伸ばす。


 もっとこのポカポカを、感じていたい。


 隼人くんとのメッセージ画面。


 送信ボタンまで、あと3センチ。


 キミまで、あと3センチ。


 ……。


「やっぱ無理ー! 私の意気地なしぃ〜!」

 

 だけど、カッと熱くなった頬が、また私をベッドの上でモジモジとさせるのでした。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る