第20話 『ギャル友』

 ゴールデンウィークが終わって、早くも2週間が過ぎた。


 連休明け、あれだけダラダラとした低気圧な雰囲気も、2週間もすれば、それが普通になる。


 意外と、『たったのこれだけ』と思っていたものでも、十分影響を与えることができるのだろう。


 まぁ詰まるところ、『たかが2週間、されど2週間』、と言うわけだ。


 そして。


「ごっめ〜ん! 隼人くーん!」


 灰色の空。やや低気圧な放課後。


 なかなか高気圧な声色に振り返ると、風にたなびくセーラー服と、金色の髪の毛が見えた。


 俺の前で足を止めると、小刻みに息を切らしたまま、微笑む。


「えへへ。ごめん、お待たせ」


「ううん。俺も今来たとこ」


「え〜、絶対嘘じゃん」


「うん。嘘」


 そんな短い会話に、詩帆さんは「あははっ!」と笑う。


 だいぶ慣れた詩帆さんとの会話。


「それじゃ、早速行こっか!」


「そうだな。明日も学校だし」


「へー。そーなんだ。私は明日休みぃ〜」


「はいはい、早く行こうか」


「えー! ひどっ!」


 そんな風に、大きくリアクションをした詩帆さん。それと同時に到着したバスに乗って、俺たちは、いつもの場所へ。




「よかった〜! 買えたぁー!」


 そんな風に、黒いビニール袋を掲げた詩帆さん。


 そんな彼女が目に留まったのだろう、レモブ前を通過する通行人が、くすくすと鼻を鳴らしている気がした。


 まぁそりゃ、セーラー服の金髪美人がレモブの袋を掲げながら飛び跳ねているのだ。


 目立つ以外の何者でもないだろう。


 そんな詩帆さんを後ろから眺めながら、ふと俺は自分の財布に目を落とす。


 ……バイト、増やさないとな。


「隼人くん!」


 彼女の声に、俺は顔を上げる。


 キラキラと輝くような、眩しい笑顔。


「今日はたい焼き食べたら帰ろっか!」


 そんな、全てが眩しい彼女に、少しだけ心臓が高鳴って。


「まぁ、そうだな。俺、明日学校だし」


 そんな風に頷いた。


 その後、たい焼きを一尾ずつ購入した俺たちは、帰路に着く。


 たい焼きが少しずつ小さくなるたびに、近づいてくる電車の音。


 合わせた歩幅と、カサカサと彼女スカートに擦れたビニール袋。


「今年のコミケ、アーリーチケット当たるかなー」


 俺の隣で息を吐いた彼女に、「詩帆さんなら、当たるよ」そんな風に言葉を返した。


 ケラケラと隣で笑う詩帆さんに、ふと思う。


 俺と詩帆さんのこの関係って、一体なんなんだろうって。


 友達というには、これ以外で接点はあまりないし。でも、


「ね、隼人くん。見てこれ」


 そう言って、スマホを見せるために肩を近づけるこの距離感は、なんか友達よりもだいぶ近いと思う。


 だからこそ、ふとした時に考えるのだ。


 もしあの時、詩帆さんの探し物が缶バッジじゃなくて、もっと普通の、たとえばハンカチだったとして、俺たちはここまでの関係になっていたのだろうか。


 お互いの好きがなくなった時、俺たちはこんな風に会話をすることができるのか。


 なんだか、よくわからなくなった。


 そんな風に考えているうちに、最寄りの駅で電車が止まる。


「今日もありがとね、隼人くん」


「いや。こちらこそ」


 そんな風に会話をして改札を通った俺たち。


 駅前のロータリーで、「次のバスは」そう言いかけたその時だった。


「あれー。シホだ〜」


「ん? ってほんとじゃん」


 そんな声に、詩帆さんがピクリと肩を振るわせると、彼女はゆっくり振り返る。


 それに釣られて俺も振り返ると、そこには、セーラー服姿の女子が2人立っていた。片方は茶髪のロングで、もう片方は黒髪のショート。


 制服が詩帆さんと同じということは、何かしら交友関係がある人たちなのだろう。


 そして、こくりと喉を鳴らした詩帆さんは、


一香いちか……。茉莉まつり……」


 そう、二人の名前を呼んで、手に持ったビニール袋を背中側に隠した。


 


 

 



 

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