第12話 『キミのとなり』

「ねー隼人ー」


「……ん?」


 読んでいた漫画から目を逸らし、ベッドの方へと目を向ける。


 上下黒スウェット姿のまま、ベッドで横になる紗季。その手元には読み終えた同人誌が置かれていた。


 そして、今持っている物もちょうど読み終えたのだろう。


 手に持ったものをパタンと閉じると、こちらに顔を向ける。


「なんかお腹減ったね」


「あー、まぁ確かに。つーか、もうこんな時間なのか」


 時計に目を向けると、時刻はすでに昼の12時近い時間だ。


 卵焼きを焦がした記憶が新しいせいか、まだ10時ぐらいだと思っていたんだが……。


 すると紗季は、んーっと伸びをして「それじゃ」とベッドから起き上がる。


 パキパキと首を鳴らして彼女は言った。


「せっかくだしさ、久しぶりにモール行こっか」




 

 ショッピングモールには、以前詩帆さんが乗って行ったバス停から出発する。


「ん、お待たせ。隼人」


「おう」


 あれから紗季は一度家に帰って、私服に身を包んできた。


 今日は黒のロングスカートに、オーバーサイズの白スウェットと言うシンプルかつ、ふわっとした印象のコーデだ。


 しかしなぜだろう。紗季が着るとなんと言うか、モデルさんって言うか、服そのものも高価なものに見えてしまうのだ。


 白いスニーカーの音を俺の隣で止めると、ふふっと微笑む。


「私の太もも、見れなくて残念だね。でもまた月曜日には見れるから」


「おい待て。つーか、俺のことなんだと思ってんだよ」


「黒髪ロング太ももフェチヤロー」


「ふざけんな」


「え、好きじゃないの?」


「いや好きだが」


 そんなやりとりに、あははっ、と笑った紗季。


「男子ってサイテー」


「まぁ、男なんてそんなもんだよ」


 と、そんな会話をしているうちにやってきたバスがやってきた。


 お互いにICカードをかざすと2人掛けの席に腰を下ろす。


「すまん紗季、もうちょい詰められるか?」


「ん、ちょっと待ってね……よいしょっと」


「おう、サンキュー」


 紗季の隣に腰を下ろすと、狭い座席のせいでお互いの肩が密着する。


 窓の方からほんのりと香る、紗季の匂いに不意にどきりと心臓を弾ませた。


 その後、バスが走り出し、しばらくした後。


「……ん」


 俺の隣で、紗季の頭がこくんと揺れる。


 その横顔は疲れている、と言うよりは単純に眠そうに目を細くしていた。


 うとうととした彼女に、声をかける。


「もし眠いなら寝てもいいぞ? 着いたら起こすから」


 すると、紗季は眠そうな目を一瞬こちらに向ける。


 そして。


「……ん、ありがと」


 そう心地のいい声の後に右肩に感じた、シャンプーの匂い。


 程よい重さと、華奢な寝息に、実はちょっとだけ眠かった俺の意識が一気に浮上してくる。


 別に、今まで紗季を異性として意識してこなかったわけじゃない。


 でも、それでも……。


「……ん」


 俺の隣で心地良さそうに寝息を立てる彼女は、紛れもなく女の子だった。


 ドキドキと高鳴る心臓を誤魔化すように俺も目を瞑る。


 だけど、その瞬間。


「……っ!」


 紗季の無意識か、それとも別の何かか。


 右腕に組みついてきた紗季の、柔らかい部分の感触に、情けなくも反応してしまったのは、言わないでおこう。


 ほんと、思春期というのは大変である。



 

 

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